にわっ 「追い出されちゃった」
そこへ別の中年男が加わった。コイツはいわば副官のお抱え兵士。腕っぷしの強いこの男は元々から彼の従者で常にボディガードのよう傍に張りついていた。
「そーだそーだ。それにこの小娘は何だ? ガキのクセにエロエロと色気づきやがって。なーにが隊長だ。恥を知れ」
ギャーギャーわめく無礼な指先は、まごうことなくわたしを指している。その眼はお酒の回りのせいなのか、ギラギラしている。……やや怖し。
ええまぁ、さっきもゆいましたがわたしは元中年サラリーマンのTS魔女っ子ですし、何故この場にいるのかと聞かれりゃ、とりあえず「たまたまですよ」としか答えようもないけれど。
コレットの目が据わった。感情が消え、無表情になっちゃってる。
――はわわっ?
これはヤバい目だ! 相手を殺ろうとしてる目だ。わたしは以前、彼にそんな目をされたことがある。そして実際殺されかけたんだよ? そのときは賽の河原を拝ませていただきました。
「コレット。冷静になってや?」
「大丈夫だよ、ハナヲちゃん。僕はいたって冷静沈着さ。……さぁ、ちょっとそこをどいて。無礼千万なヤツらは全員まとめてクビちょん切っておくから」
「コレットぉ!」
わたしが隊長を呼び捨てするのはちゃんと理由がある。
だってわたしは彼の部下や無いもの。強いてゆえば家族。彼はわたしの弟だ。
「なにガキ同士でゴチャゴチャ言ってんですか? ほらこれ、アステリア領府から届いた解任状ですよ。よーく見てくださいよ。これでようやくアンタの面倒を見なくても済むってもんだ」
副官はとうとう本性を表わし、コレットに解任状を投げつけた。
――コレットは確かに少年だ。
子供が大の大人たちを仕切って隊長づらしてるのが気に喰わないのは分かる。
でも礼節ってコトバ、あるよね?
「……ああ。分かったよ。要はスピア殿下に盾突く輩が暗躍してんだな? 誰だソイツは? ……いや、まぁいいや。結局ボクに人を見る目が無かったってだけだ。君のようなヤツを副官にしちゃったんだから。ただ、それだけの話だ」
解任状を拾い丁寧に4つ折りにしたコレットはそれを持って宴会場から出て行った。
もう片方の手はしっかりとわたしの手を握りながら。
狼狽しつつオタオタと彼に従う。
「ち、ちょっとォ? いいの? 不服申し立てとかしないの?」
「ムダさ。それにこんなのは前々から慣れっこさ。とっとと、こんな所オサラバしよう」




