40話 冥界バイトライフ
「はなをサーン! マタ機械ノ調子、ワルイデース!」
「止める、呼ぶ、待つ! 勝手に触ったらアカンで? ポーくんっ!」
「らじゃあデース!」
「はなをー、オヒルごはん、はなをノ分モ作ッタ。一緒ニ食ベルヨ」
「有難う、ポンさん。ホントに料理上手やね」
「はなを。ワシ、らじお体操第二、ますたーシタヨ! ナカナカはーどダネ!」
「ポムさんはいつも元気ですね。ポーくんにも第二、ぜひ教えてあげてください」
「イイヨ、任セトケ!」
このところ、設備をフル稼働して【ところてんブロック】を生産してる。
機械にムリさせてるからしょっちゅう故障しちゃって大変なんや。
デリバリー・セブン? 週産7千個必達やて?
ヘッ、何ゆーとんのか、ちょっとアタマおかしーやろ。
鼻息荒く内線電話を掛ける。
『はい。あ、ハナヲ、なんか用?』
通話の相手はサラさん。
いまは冥府庁統括本部の副本部長になっている。
若干十七歳のキャリアウーマンだ。
「AT二号機、いい加減に入れ替えてください。もう限界です」
『そんな用件で直電して来ないで頂戴。そういうのは製造課長に言いなさいな』
「さんざ、ゆってます。稟議も申請しました。でも承認待ちが長すぎです。このままじゃ稼働率十二パーセント減ですよ? ざっくりと納期は二日遅れます」
『遅れます? 簡単に言わないで。何のためにアタマついてるの? 納期は必達よ。デリバリー・セブン! 五分以内に直接決裁しておくわ。製造課長は他部署にトバしとく』
「ああ、そーしてください。それと明日から二人、人を増やしますんで」
ハアッ?
と電話の向こうで素っ頓狂な驚きが上がった。
『ナニ勝手に人事ってんの?』
「製造部長には断ってます。とはゆっても見習いです。試用期間一週間、モノになりそうだったら本採用します」
『……で?』
「あくまで机上計算ですが、二名雇えれば生産個数が今の倍になります。新しいレイアウトに変更できるので。そしたらそのデリバリー何とかも余裕で達成です」
パチパチパチ……と、電話越しにソロバンを弾く音がきこえた。
てか、ソロバンて。
『承知したわ。じゃあ、一ヶ月後には間違いなく生産量を二倍にしなさい? いいわね? じゃ』
一方的に切られた。
ま、切る直前別の内線が鳴ってたようやし、しゃーないか。
……と思ってたら、またすぐ掛かって来た。
『稟議通したわよ。ところで見切り発注はしてるんでしょうね?』
やっぱしサラさんだ。
「トーゼンです。即日入れてもらいます」
『OK。……あ、課長は検査課に移したから』
「早っ! ってか、マジにトバしちゃったんですかっ?」
ヒーッ、こわっ!
『ハナヲあなた今日から係長よ。繰り上げするわ』
「……イヤです。わたしは副主任のままでいいです」
『言うと思ったわ。でもダメ。業務命令よ。……じゃ!』
うきゃっ! ガチャ切りかよっ。
ポンさんが心配げに近づいてきた。
電話にガーガー怒鳴ってたのが気になったのかな。
「だいじょうぶだよ? あと十分でお昼やから、最後の踏ん張りだそー!」
「ハーイ!」
ポーくんが台車を押しながら、
「るりチャンニ、モウ一度会イタイデース」
「いーよ! 今日家に来ると思うから、ちゃんと伝えとくね」
「ワーッ、アリガト! はなをー!」
◇ ◇ ― ◆◆ ― ◇ ◇
就業後、わたしは【蜘蛛の糸】穴埋め工事現場に赴いた。
「キーヨーウーちゃんっ。はい、タオル」
「わ、ハナヲちゃん。今日もシフト入ってたんだ?」
てへへっ、そーやで。
週に六日、入れてんだモン。稼ぎまくりだよ。
「うん、おかげさまでね。時給が二百円上がって、プラス職務手当も月一万円増やしてくれるって」
「すっごいね。良かったねぇ」
「うん。とってもサラさんハラスメントやけどね」
「ハラスメント?」
キョトンのキョウちゃん。
冥界にそんなコトバ無いもの、トーゼンやんね。
「キョウちゃん。今度の日曜、休み?」
「毎回攻めてくるね。……ダメだよ」
分かってるって!
キョウちゃんには片想いの元カノジョがいるからなー。
「しょーがない。じゃ、次の勤務日に出直そっと。……明日やけど」
「あはは。そーなの?」
「わたしはカンタンには諦めへんの。そーしよって決めたんだぁ」
それまで工事作業者の方ばかり気にしていたキョウちゃんが、ふとこっちを見て微笑んだ。
「前に比べてすっごく明るくなったね。ハナヲちゃん」
エライエライと頭をなでてくれた。
くーっ!
全身ブルッとキター!
こんままビョーンって、天井まで飛び上がりそーや!
「もっかい、キョウちゃん」
「ダーメ」
太陽が昇り始めたのが判った。
もうぼちぼち朝だ。
そろそろ家に帰って登校の準備をしなきゃなんない。
「じゃあね、キョウちゃん!」
「うん、お疲れさま、またね。ハナヲちゃん」
ロッカー室にゴー。
そこに一通り、通学グッズが準備してある。
やっぱ、段取り八分に仕事二分、やね。
二時間ばかし仮眠できそう。
さ、今日も一日頑張るとしますか!




