05話 強かなる公女
昔見た映画で例えてみると。
ありのままの姫さまや、野獣と仲良くなった姫さまが踊り出て来そうな絢爛華麗な宮殿パーティ。そんなのに招かれたオレ。
分不相応とはまさにこのコト。
ルリさまに加え、新しく仲間になってくれたシンクハーフなるドテラ着の魔女っ子も一緒。要は彼女を城に連れてきたのが評価されたわけで。
ただ、客観的な事実を述べれば、オレは何もしてない。真の功労者はルリさまか、初対面のオレなんかを信用し、気安くついて来たシンクハーフさんご自身だろう。
「ほほう。馬子にも衣裳とはよく言ったものですね。前世はオジサンとの事ですが、いまはアイドル並みの可愛さですね。なんなら歌のレッスンでも受けますか」
「いやいやシータンさんこそ。相当な美少女のクセに、敢えて逆張りのドテラ! 宮廷主催のフォーマルパーティにその斬新さ」
「ドテラはわたしの助手からのプレゼントです。なので、わたし的には超フォーマルなのです」
「あの色白の美人ナースさんね。それは、ごめんなさいでした」
――ここ何日かで、シンクハーフさんとの距離がググッと縮まった気がする。オレが彼女を【シータン】と呼びだしたからか。
……シータン。
ウンウン。オレにしてはなかなかグーな【ねーむせんす】だな。
「ひー、キッモ。わたしの『ルリさま』呼びもたいがいだし」
「そーゆわんといて。魔女っ子フレンズ結成ってコトで」
「うっわ、サイテー。ホント、サイテー」
ところでオレら3人は、厳密にはパーティー会場の外、バルコニーに避難して会話している。
「なぁ、シータン。正直さ、なんでわたしの仲間になってくれたん?」
「カンタンです。あなたはココロクルリが気を許した女の子だから、です」
……フーム。
よく分からん理屈だ。
ま、でも結果的にはマルを頂いたしヨシとするか。
「どこ行くのよ」
「ちょっと姫に挨拶」
主催者のスピア姫にお礼くらいはしないと。
「ん? アレ、姫だよね」
――当アステリア領、領主であるはずのスピア姫が、愛想笑いで平身低頭している。
「姫殿下、誰と話してんの?」
近場の紳士を捕まえて聞く。
相手は、王都から下向したという侯爵家さまだそうだが、このオヤジの目線は彼女のボリューミーな胸元をロックオン。一ミリも外れない。なんとも不快な気持ちだ。
「スピア姫の先々代の領主が、わたしに住まいを与えてくれました。スピア姫が小さいときはよく領府によばれて彼女に勉強を教えたりしたものです」
シータンが真横に並んで呟く。
「でも、あの女は信頼できないよ?」
ルリさまも並んでかみつく。
「自領を守るために彼女、必死なんだと思います。王都の狙いは、アステリア北部にあるエメラルド鉱山。これを奪うために早晩、難癖をつけてくるでしょう」
男が彼女の腕を掴んで引き寄せた。何かわめきたてている様だ。目に余る。これっていわゆるパワハラのセクハラじゃねぇか!?
いつのまにかパーティ会場は、シンとしている。ついさっきまでのにぎやかさがウソのよう。
スピア姫、男の手を振りほどき、毅然としたまなざしでこう一喝した。
「王都の重職にあるお方が、なんと恥知らずな行いですか。こんなバカげたパーティはもう取りやめです。とっととお帰りください!」
オーッ、ゆーねー!
思わず拍手しそうになった。
侯爵さまの顔がみるみる赤くなる。近くのグラスを取って床に叩きつけ、大股で会場から出て行った。
「スピアは強かですよ。やわな人間ではありません。立派な当主です」
「フンだ、でも結局、人間は人間だよ」
「バズスに黒姫である陽葵の居所を教え、ココロクルリの個体スキル転移を利用する提案をしたのはスピア姫です。ココロクルリはそのことを恨んでいるのです」
「ナニ言ってんのかワカンナイっ、もっと説明してっ」
シータン、ルリさまに手にタッチ。プリプリ顔のルリさまが説明を引き継いだ。
「わたしの個体スキルは転移。異世界間を渡り歩ける能力。この能力に便乗したから、オマエは異世界に跳ぶことが出来たんだよ。あのゴブリンマージの個体スキルは、略奪。その能力を使ってわたしのスキルを盗みだしたのよ!」
「でもなんで、そんなこと……!」
ヒートアップしたルリさまを、シータンがヨシヨシする。
「黒姫をこっちの世界に連れ戻す事が出来たら、それと引き換えにアステリアを助けてほしい。……彼女は、そうバズスに持ち掛けた。いや、懇願したんでしょう」
「魔物族は人間と違って、した約束は絶対にまもるからね」
あらためてスピア姫さまを見た。
彼女、周囲の女官らに支えられて、かろうじて立っている。少し涙目になって男の出て行った方を睨みつけている。
「黒姫がこの世界に再臨したとなると、その敵役となる勇者の出現は避けられません。『魔王あるところに勇者あり』と言いますから」
「まだ良く分かんないけど、つまり娘に危機が迫るってコト?」
「だから、言ってんでしょ! 自分勝手な人間のせいでこうなってるって」
「でもスピア姫はそれを後悔したから、わたしをここに呼んでくれたんです。そして、あなたたちを信じて頼ろうとしてるんです。分かってあげてくださいな」
プイとそっぽを向くルリさま。どっちの味方にもつきにくいオレ。
「黒姫陽葵の現れそうな場所は、だいたい見当がついてます。一緒に行きますか?」
「そのためにこの世界に来たワケやし」
「わたしも陽葵に会いたいよ」
オレたちはシータンの先導でアステリア北境を目指した。
そして、ある村外れでゴブリンマージのバズスと遭遇することになった。