25話 後悔ないけど辛いのはイヤ!
二度目の人生、十三の秋に、わたしは逮捕された。
……されてしまった。
でもっ。誤解せんとって欲しいねん!
決して不良娘とちゃうからっ、わたし!
少なくとも転生前、警察のご厄介になっちった経験は、【いっこたりとも】無かったわけなんやしな?
臆病者の小市民を【ちゃんと】自覚してるわたしは、どちらかってゆーと世間さまの目を気にしてる部類に入ってたしさ?。
それに、娘の陽葵にだって、「親には幾らだってメーワクや心配かけてもいい。でも、他人さまのメーワクになることは、ゼッタイにしたらアカンで?」とかって、エエカッコゆってたくらいなんやから。
それに悪いけど、そーゆー頭は転生後の今も健在やねん。
……え、と……健在やったはずやねん。
やのに、今回の失態――。
あるイミわたしは、そーゆー、自分に課してたはずの禁忌を真っ向から犯してもーたわけで……。こーやってケーサツ(みたいな人ら)に捕まったんは、マイルール的にヒャクパーアウトなコトやってんやろーって認識してたってのに。
だから署に連れて行かれる途中、激しく自問してみた。深々と自省してみた。後悔の念に追い掛け回されながら……、
「なんでわたしは逮捕されるを良しにしたんやろーか?!」 って。
で必死に考えたら、目的地に着く寸前にはどうにか一定の理由付けを得た。
つまりは、
「シータンはなーんも悪いコト、してへんのやから!」
彼女はそもそも【他の人にメーワクをかけた】には該当してへんって、心の中で断言してたから。断固としてそー思ってたから!
「だからシータンを騙って身代わりになったのは、むしろ正しい行動やったんや!」
……とまぁ胸を張れたらカッコイイんやろうが、おおよそ、そーちゃうんかなぁって思い込めたから……なわけで。
「だからわたしは逮捕されるを良しとした!」
お定まりのトラブル回避のための行動抑止パターンをあえて破った行為に起因するものは、そんなようななけなしの信念? 想い? みたいなものやったんやろうね? ……たぶんね。
けどもさぁ。
人ってさ、つくづく弱い生き物なんよ。特にわたしってそのキライ、とてつもなく強し。やと、痛感した。ホントーにふかーく認識した。
いや、このせまくって寒々しい部屋のコトゆーてるねん。
モヤっとしたイメージでは【座敷牢】ってゆーヤツ。
時代劇でよく見かける、まーまー身分の高い武家の罪人が切腹の瞬間をジッと待ってる、あの部屋。アホみたいに太い木製の格子と、分厚そうな漆喰の壁。
古ぼけててケバ立ってるものの、床が板間じゃなくって畳なんがせめてもの救いですが。
ただ、うすら高い天井付近の小窓からギンギラな陽の光が降り注いでるんは、逆に「届かぬ想い」をせせら笑われてる気がして、せいぜい絶望感を煽り立てる小道具にしかなってへんのやが。
首に掛かっている輪っかに触れる。
屈辱の証。
前世で、子供の時に飼っていた、犬のチロを思い出す。
ワンコ。そう、犬ね。雑種の野良ちゃん。
かれ、首輪がダイキライでさ、よく【縄抜け】してたんやって。そして三度目の脱走後、二度とわたしの元に帰って来ることはなかった。
そのとき小学生だったわたしはすごくショックを受けてね。二、三年くらいは「きっと帰って来る」って信じてたけどな。……元自由のチロの気持ちには、まったく思いをはせずにね。
それで、わたしの首に掛かった首輪。
屈辱……とはゆっちゃったものの、これは自ら選択し、自らの意志で装着した物。
三日前、【強制的に】任意同行を求められたわたしは、冥界の世界での警察署のような所に連れて行かれ、そこの地下室に投げ込まれて延々尋問を受けた。
――ジメジメとしたせまい、床や壁に「うじゃじゃっ」と虫が這っているような部屋で、座ることも、もちろん寝ることも赦されないまま、(赦されても寝れないけど)、鉄格子越しに一晩中同じ質問を繰り返された。
「誰の差し金で冥界に侵入したのか」って。
まるで不正なキャッシュカード使ってATMでお金下ろせって脅迫されているような感覚。幾らカードを使ってってゆわれても、「そのカードはご利用できません」とにべもなくキョヒられ、あげくに異常音が鳴って警備員が駆け付ける。さんざん問い詰められ説教された末に、また別のATMに、別の不正なカードを持たされて並ばされる……。まさにそんな状態。
「せめて部屋を変えてください」
と泣きを入れたら首輪を渡されて。
「この首輪をつければ、穴蔵から出してやっても良いが?」
「こ、これ?」
「魔女ってのが信用できないもんでな。ま、保険だ」
魔力の一切を封じ込める有能なアイテムなんやそうで、魔界から輸入したシロモノらしい。
わたしは、それを装着し、担当官にペコリと頭を下げた。そうして卑屈さを露わにし、環境改善された座敷牢に移送されるに至った。
「お早う。魔女さん」
「お、お早うございます」
「ゆうべはよく寝れたかい?」
「はい。おかげさまで」
「それは良かった。丸二日、あんな劣悪な穴蔵に入れられて不眠不休だったものな?」
「はい」
誰のせいで!
と肚の中煮えくり返ったのだけど、
「部屋を変えて頂いてホントに助かりました」
と、ニッコリと愛想笑い。
あぁ。わたしサイテーや。しっかりと悪魔に魂売ってる。
「おい。今朝はメシ抜きだ。面倒くさい客が来やがった」
わたしとしゃべっていた係官はドカドカと騒々しくあらわれた係官に耳打ちされ、それまでの態度を一変させた。
「――チッ。これだから魔女ってのはクズなんだよ。首輪なんてしてやるんじゃなかったぜ」
「口を慎みなさい。差別的な発言は法に触れますよ」
係官らをたしなめながら、牢屋前に並べられたイスに腰かけたのは、
「た、田中……!」
「田中でなく、巫リンです。……センパイ、遅くなってすみません」




