13話 憂鬱のリボルト
近所の公園を通りかかったとき、ボンヤリするリボルトセンセを見かけたらしい。
陽葵が言うには、暗いオーラに包まれてたそうだ。
「ボクも付いてくよ」
買って出た惟人とふたりでその公園に向かった。
道すがら彼は、自宅を半壊させたことをあらためて詫びてきた。
「……ハナヲちゃん。家壊してホントにごめん」
「惟人も案外『イラチ』やね」
「まぁね、昔からさ。よく村のヤツらにはマイペースって言われてた」
ふむ。
「最初に惟人に会ったときさぁ。なんて堂々とした、落ち着いたヤツなんだろうって思ったんだよね」
「あのときは勇者としての自分に絶対の自信があった」
「自らの意志をまっすぐ貫いてたね」
「ハナヲちゃんはいつも優しい言い方するんだよなぁ。ハッキリ言っちゃえば、鼻持ちならないナマイキなヤツさ。正直な所、他の人たちが一等下の存在に思えてたのかも知れないし」
「そこまでゆっちゃっていーの?」
「今思うと完全に思い上がりだったと思うよ。ホントにボクは勇者って認められてたのかなってね」
「……心のゆとり、無さそう? 最近?」
「……」
惟人は転生する前、――異世界で勇者コレットとして活躍してたとき、十代後半の青年やった。でも現在の彼は小学生。返答できずに口をとがらせ、目につく小石を蹴っているばかり。子供そのもの。
「とにかくここは異世界や無いねんから、お手柔らかにな?」
「ああ。……そうだね」
日々お世話になってるスーパーマーケット前の道を通ってマンション前の公園に到着。そこにリボルトセンセがいた。
あちゃ。案の定や。赤色灯がチラチラしてる。
公園の前にミニパトがいて、数人のお巡りさんがリボルトセンセを囲んでる。モメてるわけではなさそうやが、明らかに職質隊形を組まれてるカンジ。
「リボルトさん、『本当はここで何してたの』って聞かれてる。早く行ってあげよう」
惟人、耳イイねぇ!
予想通り、ヤバいねぇ。
「いい? 行くよ」
「ああ。了解」
わたしと惟人、呼吸を合わせて演技スタート。
「お父さん。待たせてごめん。待ち合わせ場所、間違えちゃった!」
「だいぶ待った?」
わざとらしくお巡りさんたちを眺めまわす。ちょっと不審げに怯えを見せながら。
「……お父さん、どーしたの? 何かあったの?」
「幾らなんでも、ボクらの捜索頼んだんじゃないよね?」
惟人、お巡りさんに振り返り、
「お父さん、何か悪いコトしたんですか?」
「いえいえ」とお巡りさんらは即座に否定。
「待ち合わせでしたか。それは失礼」
リボルトセンセに頭を下げながら、パトカーに戻っていった。
よ、よし。助かったぁ。
「リボルトさん。カンベンしてくれよ、こっちまで恥ずかしい目に遭うじゃないか」
「いや、スマン。アイツら『ここで何してる』って言うから、ただボンヤリ子供らを眺めているだけだって答えたら『どうしてだ』と。見てて可愛いからなって話したら、とたんに様子がおかしくなった」
「そりゃ……。変質者って思われたんやって! きょーび言動には細心の注意を払わんと足元すくわれんねんで?」
家路の足を止めるリボルトセンセ。あきらかにムッとした。
「そう言うがな。思ったことを素直に口にして何が悪いんだ? 学校の連中だってそうだ。この世界の人間はまわりを陥れることしか考えてないのか? ハナヲはそういうの、おかしいとは思わないのか?」
あ、いや。
そーゆー気持ちは痛く解かるよ。そりゃわたしだってさ。
「元いた世界じゃ、こんな仕打ちは無かった」
「アステリア?」
「あぁ、そーだ。もちろんあくどいヤツらや、腹黒い連中はいた。でも、この世界の様に陰にこもったイジメなんてものは無かったぞ?」
「うーん。そうゆわれると耳がイタイ」
「だろ? もうやってれんぜ」
何の前触れもなく、リボルトセンセと向かい合わせになった惟人。深々と頭を下げた。
いきなり立ちふさがれたセンセは「なんだ?」というカオで彼を見た。
「これまでナマイキ言ってたのを謝る」
「ど、どうした?」
「暗闇姫家で、アンタが唯一収入を得てたよな。アンタ独りに金稼ぎして貰ってたなと思って」
「……気持ち悪いな。いったい何が言いたい?」
「ボクがお願い出来る筋合いじゃないが、なんとか仕事見つけて、これからも暗闇姫家の家計を支えて欲しい。……頼みます」
惟人はこれが言いたくて、ついて来たんか?
小学生になってしまった彼は働くことが出来ん。そんで家を壊してしまった責任を感じてるに違いない。やから、こうして稼ぎ頭に詫びてお願いしてんのか。プライド高いクセにな。相当反省してんのやな。でも、わたしは許さへん。この際しっかり反省なさい。
かたやリボルトセンセの顔色は、惟人の言葉によって変わっていた。きっと今日も就活がうまくいかんかったからやろな。
「リボルト。心配せんでいいから。あの、例の女生徒な、明日ちゃんと事情を学校に話してくれるそうや。『ウソついてました』ってゆってくれるそうや。やから、安心して!」
「ハナヲちゃん、それってホントウかい? よかったぁ。センセイ、良かったな」
けれども彼は冴えない表情のまま。
「……学校か」
「どーしたん? ……喜ばへんの?」
「いや。……良かったよ」
なら、いーけど。
なんか引っ掛かるなぁ。
「もおっ。グズグズせんとっ。いつもの明るいセンセに戻ってや! さ、帰るで!」
手を握ってやる。心なしかヒンヤリしてた。
こうなったら大盤振る舞いや。両手で包み込むようにして、彼の両手を握ってあげた。
「ハナヲぉ……」
ちょっとだけ元気なカオにもどった。




