表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結御礼】黒姫ちゃん、もっかいゆって? ~ 異世界帰りの元リーマン魔女っ子なんやけど転生物のアニメっぽく人生再デビューしたいっ ~  作者: 香坂くら
いっき 異世界で魔女っ子化した元リーマンが勇者を脅し、魔王ってるひとり娘に加担する事案発生
4/326

02話 魔女学校でTS転生


 ――陽葵(ひまり)の、小さな背中が遠い。

 笑っているようだ。


 良かった。安心した。とても楽しそうだ。

 

 でも。肝心のオレの姿が見当たらない。

 会話の相手はツインテの女の子。


 そこにオレは居ない。笑いかけてる相手はオレじゃなかった。


「なんでやねんッ!」


 たくさんの目と合った。お互いに「なんだ、なんだ」状態。


 とりあえず落ち着こう。深呼吸、深呼吸。


「――ゴホン。失礼」


 で。

 ドコかな、ココは?

 そろそろと周りを盗み見た。


 一言で表現すると、大学の講堂。古めかしい石造りの建物の中だった。


 とりあえず最後列に座ったオレに背を向けているのは、若い女の子ばかり。

 みな一様に、紺色の三角帽子を被り、同色のローブを羽織っている。


 どうも講義中のようだ。ぶっちゃけ、英国の某魔法学校の授業風景そのままだ。


 げんに講堂中央の教壇で弁を立てている教諭らしき人物の横では、生徒がボーリング大の水晶玉を宙に浮かべている。生徒が懸命に力を発揮しているのは、当然ながら魔法なのだろう。


 ひょろっとした《木の枝》を指揮棒のように振り立て、口の中でブツブツ不可解な文言をつぶやいている。横にいた別の子が《木の枝》を振り上げると、その水晶が火の玉に代わって掻き消え、衆目の拍手をさらった。


 ――ほぉぉ。こりゃ間違いないな。


 ここは格式の高そうな《魔法学校》だ。

 ……うえっ? ホントにそーなのか?!


 あらためて記憶を整理してみる。


 娘の陽葵(ひまり)を連れ出そうとした大男を追いかけている途中で、たちの悪い連中に捕まり、暴行され、自暴自棄になって川に飛び込んだ。たぶん、そして死んだ。


 ……それだけだな、うん。おしまい。特別なことは何一つしていない……はずだ。


「それより、陽葵(ひまり)……!」


 見も知らん世界だが、とりあえずはそんなのは置いといて、まずは娘の行方だ。


「――ねえあなた。そこのブタヤロウさん。あなたはぁ、神を信じますかあ」

「……はい?」


 スラリと背の高い20代後半くらいの女の人が泰然と立っていた。

 眼が合うと大量の紙束を渡された。


「あなたメンヘラさんなのね、カワイソーに。でも安心なさい。これを全部配り終わったころにはあなたは神の一員になれますよ」

「ち、ちょっ……」


 ……とっとと行きやがった。なんなんだ? ったく。


「あの。あなた先生ですか。……新任の?」


 またか。

 今度は怪訝な表情をした女生徒が立っていた。


 メガネをかけ、いかにも秀才そうな面立ち。

 問い掛けの様子から、オレが不審者だと看破している。


 その女生徒の視線が下方に注がれた。つられてオレもうつむいた。そして絶句した。知らぬ間にオレは、紙束と共に、スゴク可愛らしい子ネコのヌイグルミも抱っこしていた。


「オーウッ? コレって、あの金髪ツインテに盗られたヤツじゃねーか!? ヒャハー」


 いい歳のオッサンが。女学校内で。ネコのヌイグルミを抱きしめて。意味不明なセリフを絶叫。ハイッ、アウト!


 一歩二歩、青ざめた女生徒が後ずさる。そのたびに、オレの心臓がドクッドクッと脈打った。


 さっき女から渡された紙の束が手から滑り落ちた。

 拾い上げる女生徒。


「『白翼(エルブランシュ)団へ入りなさい。神はあなたを歓迎する』。……あなた、どうしてこんなビラを持って無断で校内に入ってるんですか?!」


『逃げた方がよくない?』


 しゃべるネコのヌイグルミ。


「うっわあああ!」


 喚き声とともに、オレは駆けた。


「待ちなさいっ!」


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイッ!


 このメガネ女子、メッチャクチャ足速ええぞっ!


 角を曲がってスグにあった部屋に飛び込んだ。

 数秒遅れてその部屋の前を猛スピードで行く快音が去った。


「ここは?」


 大概この場合、逃げ込んだ部屋と言うのは女子更衣室だ。この展開はお約束だ。


 このまま捕まれば、完全激ヤバ・ヘンタイオヤジとしてマスコミにさらされる。

 ……しかも、おそらく異世界のな。


「どーすんや、わたし」


 ――って、ちょっと待って?


 文字だけだから、今、誰も分からんかったと思うが、オレだけは突如()()()を感じたんだ。


 まず第一に、声色がヘンだぞ?


 で、視界もオカシイ。すこぶる良い! これなら、ミズキルーペなぞ不要!


 ついでに髪や顔、腕を触ってみる。

 ……オヤ? ずいぶん細っちいぞ。


 そんで、胴体(ボディ)

 ……わずかだが、ある。――ある!!

 プニ感をもたらす、胸! ……やわこく盛り上がった、胸! むねーっっ!


 ……そーいやさっきからダブダブしてたんだよな、(スーツ)……。


「かかか、カガミッ、カガミあれへんのおっ?!」


 ワーワー騒ぎ立てながら、更衣室中を駆け回った。

 幸い、ツッコんでくれる女子なぞ、誰も居なかった。居なくて良かった。



◆◆



 カガミに映ったのは、まぎれもない女の子……だった。

 ダボダボスーツにゆるゆるネクタイを締め、ぶかぶかスラックスをはいた、あどけない女の子。


 驚きの気持ちが30パーセント、残りの70パーセントはあろうことか、


「あんがいカワイイ?」


 って! ナニユエ関西弁だ? まるで娘の陽葵の訛りが乗り移ったようだ。

 鏡に別の女の子が映った。


「うわわっ?!」


 さきほどの女生徒だ。

 またもや背後に立っていた。


 ジロジロとオレのことを観察している。


 ……ぐうう、万事休すか……。――と思ったら。


「ハナヲ、あなたどうしてそんな恰好しているの?」


 不思議そうに尋ねたではないか。


「いえさっきね、いかにもアヤシイおじさんが学校の中をうろついてたのよ。例の白翼(エルブランシュ)団かも知れなくて。……って、ハナヲ! どうしたの?! そのヌイグルミ」


 そーいやオレ、子ネコのヌイグルミを持ち抱えたままだ。ヤベえ。


「……あ、いやその、……部屋の外に落ちててん。てか、元々わたしのやし」

「ああ! あなたのだったのね! あなたの部屋から持ち出されてたってコトよね? それって完全に犯罪じゃない! すぐに先生に報告しなきゃ。さ、行きましょう!」


 そのまま職員室らしき場所に連れていかれた。担任を名乗る若い男は血相を変え、有無を言わせずオレを個室に引っ張り込んだ。


 そして開口一番、


「サラの報告は本当なのかい?」

「サラ?」


 ――ああ、あのメガネの女生徒か。


「そう……です。一人娘の陽葵を追いかけて。……やなくって、えーと、失くしたヌイグルミを探してたんです」

「授業中にヌイグルミを? 言っているイミが理解できないな。もしかして不審者に何かされたんじゃないだろうな? アタマを殴られたとか」


 カオ近いって。でもよく見りゃアンタ、目付き悪いが、細マッチョな健康優良好青年ぶりで、さぞかし女生徒におモテになるでしょうね。


「あ、いえ別に。その()()()()()()()()に何かされたとかはあれへんです。それどころか、たいそう立派で素敵な方でした」

「ハナヲ。やはり何かあったんじゃないのか?」


 だからカオ近いって!

 てか、オメー、どさくさに紛れてチューしようとしてねぇ?!


「……ハナヲ」

「やっぱし、チューしたあっ! ぎゃあああっ」


 ビンタ……どころか、思わず正拳パンチをくれてしまった。しかしながら、非力な今のオレだ。痛さよりもショックの方が大きかったらしい彼は、一瞬言葉を失って口をパクパクさせながらキョトンとしている。


「リボルト先生は、先生である前に、あなたの旦那(ダンナ)さまでしょ? 親身に心配なさっているのに、一方的に暴力をふるうなんて、やっぱりあなたどうかしてる」


 物音を聞きつけたのか、面談室に飛び込んできたサラさんはそう怒鳴った。


「あなた、ひょっとしてハナヲじゃないのね?! 正体見せなさいっ」


 彼女が口の中で呪いめいた言葉を唱え出したとたん、オレの身体が白く光りはじめた。


「うわあぁぁ!」


 まぶしくて目を閉じた瞬間、白光が止んだ。


「アレ? 変身魔法じゃなかったの? てっきりわたし、あの不審者が化けていたのかと……。カン違いだったのね」


 サラさんは申し訳ないと思ったのか、オレを抱き寄せ、「ゴメンね」と何度もあやまった。


『オマエ、個体スキルを停められたよ』


 ん? なんだって? また神の声? 個体……スキル? 個体スキルって?


『ウン、個体スキル。《設定変更(オルディルシル・コンベルション)》。オマエが有した、オマエ独自のスキル、……ね』


 胸に抱いた子ネコのヌイグルミと目が合った。

 さっきからしゃべってたの、コイツか!


「おしるしるしる、こぺんじょ? 何ソレ」


挿絵(By みてみん)

ハナヲ「おしるしるこべんじょ」ルリさま「バカ子」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ