01話 ゆる甘な朝
前話(前日譚)に続き、第一話です。
もう九月に入ったってのに、暑いっ。暑すぎる! 昨日の晩、ここら一帯を「もろに」直撃した台風のせいだ。
デロンデロンに身体が溶けそうな不快さを感じて身をよじらせる。
耳元で目覚まし時計の音。ま、そーなんやけど、午後TEAするんってほど、「まーったりな」曲調なもんやから、逆に居心地よくなって目覚まし時計くんの任務としては、こりゃもー大失敗や。確実に起きたいんやったら、もっとそれ相応の設定があったやろ? って、我にツッコミたくなった。
アラームを止めようと思って手を伸ばすと、さわさわな髪が! やさしーく頬に触れてきた。
ふわぁ。甘い柑橘系フローラルウエーブっ!
――美少女のドアップ! シータン!
ジト目のわたし。
大きめの目をつむり、開きかけの口から微かな息を漏らしている。色白の頬がった無防備な寝顔に遭遇し、のけ反りそうなほど仰天した。が、懸命にこらえ、何とか息を整える。
にしてもなぁ。これほどの暑さやってのに、首までスッポリ隠れる「モコモコ」の黒ガウンをはおっているんはどーなんや? と。そんで、その下にのぞく「ドテラ」。そう、ガウンの下にドテラ! 彼女のトレードマークのドテラ! あまりに異常すぎ!
両手を胸の前で組み、まっすぐ仰向けになってるからちょっと見、「天に召されている」のかと思える。熱中症でどうにかなったんとちゃう? なーんて。
大きく伸びしてシータンの頭上を超え、もうちょっとで目覚まし時計のスマホにて手を届かせ……たところで袖口を引っ張られた。今度は背中側!
見るとこっちはルリさま!
解いた金髪をふわふわと揺さぶり、上体をくねらせている。おわっ! Tシャツの胸元がのぞいてるって! 「はぁん」と甘々な吐息を吹きかけられ、くらくらっと眩暈を起こしかけた。
夢心地に掴まれた指を一本一本、丁寧に解きほぐしてから、ようやくアラームオフ完了。
両左右、女子にサンドイッチ状態にされてオヤスミしていた、「元」アラフィフのオジサン。
それがわたし。
あらためてふたりを眺めた。
――シータンもルリさまも、元々は異世界の住人。
魔女っ子のふたりは、わたしの一人娘、陽葵を異世界に呼び寄せ、魔王魔女に仕立てた。追いかけたわたしは、そこで《魔法少女》に転生。
それからはゴブリンヤローと戦うわ、勇者と戦うハメになるわ、挙句の果てに娘に殺されかけるわ、散々な目に遭った。
でもそれがあったからこそ、今はこうして、この子らと仲良く暮らしてられるのかなって思ってる。
「あー。にしても暑い。クーラーづがおっと」
……ふわー。生き返るぅ。もう一度、寝るとしよう。ゴロン。
ルリさまが寝返りを打ってこっちを向いた。か、カオが近いっ。寄ったらチューできそうなキョリやしっ。
でもなぁ。
わたしもうオジサンやないから! しょーしんしょーめい女になってんからっ! アラフィフじゃなくなって中学生やからあっ! ……でも、ドキドキはするんやけど。
そうそ、ようやく頭が回り始めた。
昨晩は台風二十一号が最接近してたんだよね。大阪湾から来襲し市内直撃コースやってんな。でさ、何となく彼女らは「お泊りする」ってなって。
「たのしー! わたし、台風ダイスキ! ゼッタイ今夜停電になるでしょ? シンクハーフ、さっそく買いに行こうよコンビニに。ローソクを!」
「はい? ちょっと聞こえにくかったですが、あなたの感性、昭和時代止まりですか? きょうびロウソク立ててるご家庭なんて、ココロクルリのオウチと、この家くらいですよ?」
きゃいきゃい騒ぐルリさまと、辛辣シータンとの相変わらずの会話。異世界騒がす魔女っ子コンビって言っても普段はだいたいこんなカンジ。
――あ、えーと、ルリさまってのが《ココロクルリ》。で、シータンは、《シンクハーフ》な。
ところでシータン、さりげに我が家をディスらんといてくれる?
話を戻すとな。
いよいよ台風真っただ中の深夜、《ホントにあった呪いの動画》って番組をビビり視聴しつつ、自分らの恐怖体験を語り合うって、ありきたりな流れになり……そしていったい何時だったのか、とにかくど真夜中。怖くなったわたしたちは誰ともなくくっつきあって、そのままベットに収まって震えつつ寝ちゃったぜ……てな具合やったかなって推察するねんけど……。
にしても。ベットの下に「両手両足縛りで」転がってる男がさっきから目障りなんだよね。
……ね、リボルト先生?
「やあ、ハナヲ、お早う。やっと目を合わせてくれたね。ところで相談なんだが、物思いにふけるのもいいが、そろそろこの縄、解いてくれないかなぁ?」
「女子の部屋に無断で入るの、これで何回目やったっけ?」
「ち、ちょっと待て。ハナヲ、お前、女子である以前にオレのヨメだろう? どうしてこんな仕打ちをされなきゃならんのだ?」
どーもそうらしい、少なくても彼の脳内では。
「いつまでそれを言うんかなぁ、それって異世界にいた時の話やろっ! ここではアンタとわたしはまったくの他人なの! 夫婦でも何でもないのっ!」
「ウルサイなー」とルリさまが目を覚ました。「クーラーなんてゼイタクです」とシータンも目をこすりつつ身体をもたげた。
もぉっ、起こしてもーたやんかあっ! もうちょびっとハーレム気分を満喫したかったのにぃ!




