⑳事件収束
異世界魔女っ子たちのドタバタ地味系・日常系・ファンタジーラブコメっ。
ひとまず掲載!
今回の一連の事件の関係者の処置が決まった。
◇キョウちゃん。
彼の奥さんであるウミさんの公金流用に気付きながら隠匿しようとした罪。
冥府庁長官の職を解任。
懲役125年。
◇ヒラ・ウミさん。
青鬼にそそのかされ、良かれと思い公金を独断投資した罪。元本は回収済み。
冥府庁秘書官を解任。
懲役136年。
◇青鬼。
ヒラ・ウミさんを騙し公金を横領。証拠隠滅を図った罪。
冥府庁副長官の職を解かれる。
懲役744年。
◇サラさん。
キョウちゃんや青鬼の失態に気付けず、補佐できなかった責任を追及される。
冥府庁転生サービスセンター長を引責辞任。
アキ・サネミツの計らいにより、アステリアに転生措置。
◇ポーくん。
青鬼の口車に乗り、事件の証言を撤回。青鬼との共犯を疑われる。
キョウちゃんが解任される前に進めていた転生措置が認可されアステリアに転生。
事実上の不起訴処分となる。
◇暗闇姫惟人。
わたしと同様、独自に事件を追い、青鬼を自白に至らしめる。
捜査権の無い一般人が私人逮捕しようとしたコトが物議をかもし冥府庁が炎上。
最終的には感謝状が贈られ、暗闇姫家で唯一、冥府でのバイト継続が認められた。
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そして、わたしは――。
「済まねえな。ツイてなかったと諦めてくれ」
冥府庁の長官室で大柄の男がアタマを下げた。
部屋の奥の前衛的彫刻の置物をにらみ、わたしはそれをムシした。
右隣に並ぶ陽葵とシータンも、同じように不機嫌さを丸出しにして口をへの字に結んでいる。
「今後無期限、魔女や魔法使いの類の、冥界への出入りを禁じます。悪しからずご了承ください」
サラさんの後任人事で新しく転生サービスセンターの長になった女性が愛想無しに告げた。
わたしと同学年くらいに見えるが、サラさん以上に堅物か、エリートさんっぽい。
生前はアジア人やったそうやが、肌の色は褐色かかっている。中央アジアあたりの出身やろーか。
「今日含めて2日間の猶予を与えます。それまでに私物などを持ち帰ってください」
「挨拶回りは? していいの?」
「構いません。収監者は不許可ですが」
ああ、キョウちゃんとウミさんのコトをゆってるのか。
アキ・サネミツさんがバツの悪そうな表情を浮かべて回転イスを回し、後ろ向きになった。
「アキ長官」
「な、なんでい?」
シータンが何かゆおうとしてる。これはきっと要らん話や。
止めようとしたが間に合わなかった。
「青鬼の横領事件。あなたにはお咎めが無いんですか?」
「バカな発言は御控えください。ただでは済みませんよ」
「構わん。答えてやる。簡単な話だ。『オレには何の関わり合いもない、バカな事件だった』以上だ」
「そんなワケない……」
「ナニ? なんか言ったか?」
――あ。
つい声に出ちゃった? ……ま、いいか。
モヤモヤは溜めずに話しとこうか。
「地獄耳やな。アンタは何の関わりもないって? ウソつけってゆいました。アンタ、キョウちゃんと設備トラブルの件で何やら話してたよね? 青鬼との謀議もボイスレコーダーに録られてたよね? しらばっくれてんやないぞって。ついついゆっちゃたんです」
黙っとこって思ったのにな。
アキ長官の爽やかスポーツマンシップひけらかしの、超健康優良児ぶりっ子を眺めとったら、口走りたくなってもーたんやわ。心底、嫌悪感が湧きすぎてさ。
「おうよ。繰り返すがオレには何の関係もない事件だな。――ヒラ・ノリツネ。単にアイツが悪人だったってオチさね。いまやこのオレは地獄界とこの冥界、二世界を統治する最高権力者だ。昔から言うだろ、歴史を刻む権力者に悪人はいねえんだよ。世の中はそういうシステムになってんだよ」
唇を噛み過ぎて口の中で鉄くさい味がし始めたけど、もはやわたしに反抗の気力は湧いてこなかった。闘争心がしぼんだとゆーか、この人と会話するのが面倒になった。
それにこの期に及んでこれ以上さらに要らんコトゆったら、キョウちゃんとウミさんにどんな迷惑をかけてしまうかも知れんから。
「あのなぁ魔女っ子ども。もっかい言うぞ? 世の中の善悪は力で決まるんだよ。権力を握ったオレはヒラ・ノリツネから冥界を頼むと言われたんだ。頼まれたからには腹を括らなきゃなんねえ。善? 悪? そんな幼稚な問答なぞ、してる暇もねえってのよ」
「つまり、アキ長官は青鬼と同レベルってコトやな?」
アキ長官、ワハハと一蹴。
「青鬼かぁ。ヤツぁ単に敗残者だな。権力闘争に敗れた敗者だ。オレは違う。ヒラ・ノリツネの想いを継ぎ、これからも勝って勝って勝って君臨し続ける、常勝君主だ」
新センター長が入り口のドアをオープンにした。
さっさと出て行けってコトだ。
ゆわれんでもバイバイしたるわ。
「ああ、ボイスレコーダーな。言ってなかったか? アレを残したのはオレの秘書、つまりはコイツ、現センター長だって。それと後な。その音声データにオレの声は一言も入ってなかったろう?」
「ええ。音声は録れてませんが、シータンの発明アイテムで映像はしっかり撮れてましたよ」
アキ長官の眉が寄った。
「へぇ。そうか」
センター長を一瞥するアキ長官。寝耳に水らしい彼女は激しく目を泳がせた。
ボイスレコーダー機器がキョウちゃんからの提供やったとは知らんかったらしい。
スマホ画面を彼らの方に突き出す。
「これな」
撮った動画にはアキ長官が映っている。青鬼の悪だくみに、静かに耳を傾けている彼の姿があった。
肝心のキョウちゃんは映っていない。
キョウちゃんは現場にいなくて、代わりにアキ長官が現場にいたってゆー立派な証拠になる。
「――で? その証拠動画はどうすんだ?」
「証拠? きさまらに言わせれば、単にわたしらが加工したフェイク動画かも知れんぞ?」
陽葵が薄ら笑いで揶揄した。
「だな。公表してもムダだな」
「うん。だからわたしらは公開せんと動画を手元に保管しとくよ。ずっとね」
「なんだそりゃあ?」
「アキ長官が施策に失敗して冥界、地獄界の人らに迷惑を掛けたときに、糾弾するのに使う」
センター長が激高し、わたしの胸ぐらをつかんだ。
その腕を陽葵が掴む。
その体勢のまま、睨み合いになった。
「暗闇姫ハナヲ。やっぱお前さん、おもしれ―娘だぜ」
次話でお終いです。
長期にわたりお付き合い頂き感謝します。




