⑱裏切られたハナヲ
異世界魔女っ子たちのドタバタ地味系・日常系・ファンタジーラブコメ。
―結びの章―佳境。
「トラブルを起こした設備。あれは最新鋭の機械でしたやろ?」
青鬼が解説モードに入った。
にしてもペラペラとよく動く舌や。
まさか口下手のキョウちゃんをフォローするつもりやあるまいに。
「あの設備は従来機に比べて3倍の生産力を誇ってる超高性能機……でしたがな。能力に比例してお値段もさぞや高いものでおましたな?」
低い声でたしなめるキョウちゃん。
「……青鬼。それ以上は話さなくていい」
だけどそれをムシする青鬼。
「ヒラ・ノリツネ長官はリーダーの資質に優れ、長官に相応しい御方でした。ただ一点の欠点を除いては。イシシ」
「青鬼ッ!」
キョウちゃんの一喝に一帯に地鳴りが起こったように錯覚した。
さすがにギョッとした青鬼は黙り込んだ。
「――ねぇ、キョウちゃん。わたし、ホントのコトが知りたいよ。青鬼、話して?」
「ダメだ!」
「青鬼、お願い!」
青鬼に迫ろうとしたキョウちゃんを通せんぼする。
一瞬彼は停止したけど、わたしを押しのける所作をとった。
予想していたわたしは頑として引かず、彼の腕にまとわりついた。
「ちょっ?! ハナヲちゃん?!」
「青鬼、話してっ」
「――へいへい。つまりは急激な資金不足に陥ったワケでんな、冥府庁が。そこでウミさんが一計を案じあるところが持ち掛けてきた高利回りの儲け話に乗っかったと」
「儲け話……? あるところって?」
「組合でんがな。組合委員長が誘った話に多額の公金を投入してしまいはったんですわ。……無論、表向きはワテが提案した企画として説明し、組合の名前は出しませんでしたがな」
「えーと……じゃあ結局ウミさんは青鬼、アンタの口車に乗せられてニセの投資話に手を出しちゃったの?」
「さいだす。……ただね。ニセでもウソでも乗っかったのは、あくまでウミさんの意思、裁量……ヒラ長官の許可の無い独断の、ね」
「独断……?!」
腕組みをしたものの、考えるまでもなくそれは規律違反で。組織の枠組みでゆえばウミさんの行動は越権行為。
とゆーか、下手をすれば横領とか背任とかになるんやないの?!
でも、彼女の気持ちもわかる。
「そんなウミさんを処断できないヒラ長官は、どんなに格好つけてもワテと同じレベルのお人や、ちゅーこってす」
ニタリ顔の青鬼が内ポケットから紙切れを取り出し、わたしに向かってひらひらさせた。
「ポーはんの件は証拠写真の隠滅を図らんとあかんし、どーしても消えてもらわないかんのですわ。――あー、これはヒラ長官の許可をもらってますですわ、きひひ」
青鬼の暴露はわたしのアタマを混乱させるのに十分すぎた。
少なくともキョウちゃんはこっち側の人だって盲目的に信じてたから。
そしてそれは根拠のない妄信だったって。無遠慮に突き付けられたから。
「青鬼! お得意の出任せ攻撃で混乱させようったって、そんな手に乗らんからなっ!」
そうゆいつつも、わたしは青鬼が事実を語ってると内心思った。
だってしがみつくキョウちゃんの腕は冷たい。冷たいってより、見知らぬ人の腕だ。途方もなくよそよそしく、逸らす横顔は空虚しかなかった。わたしは耐え切らず、その腕を離した。
「キョウちゃんさ……。徹夜続けて設備の復旧に務めたんだよね?」
「……」
「それに、アキ・サネミツ長官とぶつけ合った夢は本心やったんでしょ?」
「……うん。それは、そう」
キョウちゃんの革ジャンの内側に紙切れを差し入れる青鬼。
「その書類は正真正銘、ポーさんの転生措置命令書ですわ。ヒラ長官の署名付きの。あとは煮るなり焼くなり好きにしたら宜しおま」
ブラブラ手を振った青鬼は高笑いしつつ、原っぱの方に引き返して行った。
「ヒラ長官、釈放してくれましてアリガトさんです。じゃあこれで取引完了というコトで。ほな、さいなら」
迎えなのか、青鬼にお辞儀する者らが数人。
一様に青い、蜘蛛の絵の入ったバッチをつけていた。
「アレ。組合の人たち?」
「……そう、だね」
「キョウちゃんは……知ってて……青鬼の悪だくみに加担したの? ウミさんの……仕出かしをごまかすために?」
一生懸命感情を抑えて話そうと、そうしようとするけれど、声が詰まり、震えて、上手くしゃべれない。
答えが返ってこない。――それは「そうです」と同じコト。
「さっきも聞いたけど、ウミさんは自分の仕出かしとか、青鬼との遣り取りとか、そーゆーのは全部知ってんの?」
「……いや。言ってない」
「なんで? 何でなん?! 何でゆってあげへんの?! オカシイやん!」
「今回の件は全部僕がしっかりしていなかったから起こった事なんだ」
キョウちゃんの胸のあたりに手が伸びた。
反射的に跳躍し距離を取る彼。
「――おっと。火曜サスペンス劇場ばりのクライマックスシーン撮影してるのかと思ってワクワク近づいてみれば。ただの痴話ゲンカの最中でしたか?」
「シ、シータン!?」
未遂に終わって誤魔化してるが、実はこっそりキョウちゃんから書類を奪い取ろうとしたらしい。
呆然としてたらもう一人、妹の陽葵も、影のように気配を消して立っていた。
ふたりはわたしでなく、キョウちゃんに対して気を張っている。
「その書類、もらうで?」
「キミたち……よくここが分かったね。……それよりもよく僕のスキを衝こうとしたよ」
「シンクハーフの発明品のひとつ、魔装品【死角笠】の威力や」
横文字でゆっとるけど、コンセプト的にはもろ、石コロ帽〇やな。
被ったら誰にも気づかれなくなる、四次元ポケットから出てくる未来の秘密道具のひとつ、ね。
デザインはそれなりにイカすんやが。
科学でなくって魔法を使った完全バッタ品デスネ。
シータンが別人かと目を疑うほどの素早さでキョウちゃんに迫った。
なりふり構わず書類を取ろうとする。
だけれども、すでに魔装品の効果は無い。
彼女の動きは完璧に見切られている。のらりくらり逃げられる。
業を煮やした陽葵が参戦した。
あと数話で終わる予定です。
がストック無し状態で月水金投稿を続けていますので予測がつかないです。
イラストも描きたいのに本文無きゃ始まらないので後日追加するしかない。
金曜日に投稿できんかったらサイアクの気分になりそうなので、とにかく進行させます。




