⑭冥界と地獄界、ツートップ
異世界魔女っ子たちのドタバタ地味系・日常系・ファンタジーラブコメっ。
サラさんが話してくれて、ようやくキョウちゃんの居所がつかめた。
事は単純やった。
彼は例のトラブった工場に隣接した事務所で、夜昼なく復旧に当たっていたんである。
「こんな近くにキョウちゃんがいたんか!」
自分の職場にお目当てのキョウちゃんがいたことに軽い驚きを覚え、同時にジンワリとした嬉しさがこみ上げた。
キョウちゃんは、わたしと、同行を希望したサラさんを見つけるとさも嬉しそうに手を振ってくれた。別に逃げ隠れしてたわけやなかったんやね。
「ヒラ長官。あまりごムリをなされては」
聞けばもう10日ほど完徹してるらしい。
本来は大いに心配するところ。
やけどもあまりに異常すぎて。
「いやぁ。つい忙しくてね。寝るのを忘れてるんだよ」
寝るのを忘れる人なんておらんし。アブノーマルの度が過ぎてますよっ!
「キョウちゃん、オニギリ握ってきた。せめて食事だけでも摂って」
「あーアリガトー! あーウマイ! 中にタラコが入ってる」
「それ、イクラやで。味オンチ通り越してるし」
「とにかくウマイよ。ホント、アリガトー、ハナヲちゃん」
喜んでもらえた。
自然にニマつく。
アタマなでられたし。
……ん?
おでこにゴハン粒つけられた。これもご褒美?
「――ヒラ長官、青鬼の件ですが」
「うん、聞いてる。本人は自供したの?」
「あ、いえ。彼の自宅に踏み込みましたが。行方をくらませています」
「アキくんも探してるんだよ。おーい。アキくーん」
褐色肌の大男が、地面を揺らしながら近付いて来た。
わたしを認めると、
「おう、チビッ子ちゃん! 何でい今日は。また突撃依頼に来たんかい?」
「チビッ子はやーです。ハナヲです」
「ジョーダンだジョーダン。ハナヲくんだったな。ウチの青鬼の件、スマンかったな」
サラさんに提出したボイスレコーダー。
録音したのはこの人。
地獄界の長官、アキ・サネミツさん。
ヒラ長官の口ぶりからすると、隠し撮りの一件はもう彼から報告されてるんだろう。こう続けた。
「アキくんは今回の事故……いやこれは事件だ。――その事件に関わってた当人でもあったから、ボクも直接話を聞いてたんだ」
「ああ。そうだな。コイツがオレさまを疑うもんだから、ついカッとなっちまってな。裏取りもそこそこに話しちまった。わざわざ仕事ほっぽってこんな所にまで来ちまってよ」
「こんな所だなんて言うなよ。僕たちふたりが取り組んでるプロジェクトの現場じゃないか」
「ふたりだと? 何度も言わせんな。オレはこの場所に壮大なスポーツ競技場を造りたいんだ。健全な肉体は健全な魂に宿るってな。2度と亡者のような存在を生まないために、オレは何としても新しい取り組みを試したい。お前はそれを認めねぇじゃないか」
「ボクは健全な肉体を造るためには、まずは食物からだと思うんだ。新鮮で衛生的な食べ物を摂取したら自ずと肉体は健康になっていく。だから何を置いても農場の建設は不可欠だよ。スポーツ競技場建設は次のステップだろ」
「いんや。スポーツ優先だ」
「まずは食生活の充実だよ」
ふたりをはさむ空間がギュンギュン音を立てた。
ナニコレ、黒い裂け目が現れちゃってる。大気が割れたの?
どうやらふたり、殴り合いを始めたらしい。
「ちょっと待って。じゃあさ。両方作ればいくない?」
「はぁ?」
「両方?」
わたしは注目してもらうべくことさらオーバーアクションを意識して、両腕を精一杯に広げた。
クルリと1回転する。
「だーって。こーんなに広大な土地やねんで? わたし住んでる町にラグビー場があるんやけど、そこの敷地よりもずっとずっと広いし。――やからさ。仲良く両方の施設をつくって、冥界と地獄界の人たちを喜ばせてあげなよ!」
「そんな簡単に言うけどよ」
「ずいぶんなお金もかかるんだ」
恥ずかしそうにのたまうキョウちゃん、可愛い。
――と、気が逸れた。まずは説得に専念しよう。
「お金? お金と幸せは天秤にかけられないよ。両施設の建設は、地獄界と冥界両方の幸せに近付くんでしょ?」
「ハナヲくんよ。おまえさん、口が巧いな」
「思ったコトを素直に口に出してるだけです。【蜘蛛の糸事業】のような負のオーラを生む取り組みやなくて、元気が出そうな取り組みに気持ちを傾けましょうよ」
「暗闇姫ハナヲ。お前さん、以前にもあの漆黒姫を説得して人魔が通う魔法学校を設立させたんだよな。大昔にゃ黒姫軍で魔物の人権を訴えて人間どもに首刎ねられたとか? 大層なタマだよ」
「そんな話されても記憶にござんせん。つかキョウちゃんの前であるコトないコト話さんとって」
「先日のアレな。青鬼と組合長との会合。あのときの会話は聞いたんだろ? わざわざ青鬼はお前さんがシフトに入ってないときに犯行に及んだんだぜ?」
「その話は……」
「暗闇姫ハナヲはヒラ・ノリツネ長官にとってなくてはならんパートナーで、何するかワカラン傑物だから、出勤日を避けたと思うがな?」
もう。
ペラペラしゃべんな、いい加減。
「『真相究明したいから協力しろ』そう言ってオレのところに乗り込んで来たんはヒラ・ノリツネ長官に言われたからじゃあるまい? お前さんの判断で勝手に行動したんだろが?」
「……ん、ま。そーですが」
「そうだと思ったからオレはお前さんに協力したんだってことだ。つまりお前さんを買ったって話だ」
「ホントウ、よくしゃべりますね。――で? 冥界と手を組むんですか? それとも地獄界は自己チューな道を行くんですか?」
なんやの、そのイヤらしい、人をナメたような眼差しはぁ!
「ヨォ、ヒラ・ノリツネ長官。改めて地獄界はアンタのとこの、その優秀な部下の提案に乗っかるぜ」
アキ・サネミツはその隆々とした右腕をキョウちゃんに差し出した。
キョウちゃんは一瞬だけわたしに笑いかけて、その手を握った。
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