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【完結御礼】黒姫ちゃん、もっかいゆって? ~ 異世界帰りの元リーマン魔女っ子なんやけど転生物のアニメっぽく人生再デビューしたいっ ~  作者: 香坂くら
結(むすび)の章

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⑫冥界の社員食堂で


 宣言通りに冥界に出勤した。

 もちろん生活費を稼がなきゃってのもあるけど、今日の場合は完全にわたしなりの意地だ。


 そしてポーくんも。

 ちゃんと出勤していた。

 もっとも彼は、わたしを見かけるとわかりやすく取り乱し、逃げ出したんやが。


 それでも今や彼は、後輩たちに指示する現場リーダーになってて。

 形式的にはわたしが彼の上司に当たるが、実際にはブランクのあったわたしよりかはだいぶ仕事をこなすようになっている。


 さて。

 就業時間中はお互いにムダ口をたたかずに目の前の仕事に励んだ。


 わたしは彼の仕事ぶりに内心舌を巻いていた。

 久々に一緒の班で仕事をしたんやが、昔に比べると見違えるようにデキル男になってたんである。


 夜中2時。

 休憩室に行くとポツンと彼がいた。

 それもたった一人で。


 でも、たまたまやない。

 時間を見計らったんで、わざとやし。


 端っこの席で、出来立ての湯気上るカップ麺を今まさにすすろうとしていた彼は、狼狽しつつ退室しようとした。それを捕まえ、席に戻す。


 さぁて。尋問の開始やで。


「色々聞かせてもらおか?」

「ナ、何ヲ、デスカ? フクシュージン」


「フクシュージン……やなくって。ちなみにその副主任はいまはアンタや、ポーくん。ホントに立派になったよね」


 わたしは以前まで係長職を拝していたが現在はただのアルバイト待遇に降格している。

 休職期間が長かったし、そりゃトーゼンや。


 しっかし、よく今日出勤を赦してくれたな、出禁通達した魔女に。

 そんままクビにせんかったのは何か理由があったんか?


 ま、それはいい。


「アンタさ。前から転生のコト、聞いてたん?」

「……」


「わたしはさ、おせっかい女かも知れん」

「ソーデスネ」


「そーですねって。それはちゃんと答えるんかいっ」


 ちょい怒鳴っただけでモジモジすんな。


「アンタ、あの青鬼に何ゆわれてんねん? ゆってみ?」

「僕ハ……」


 まーたダンマリ。

 カップ麺をモノ質にして再度尋問。


「さぁ、早くゆわんと伸び切ってまうで?」

「ソンナンデ簡単ニ口を割ル男ジャナイネ、僕ハ」


 ……ま、そやな。

 食べ物にどん欲なんは、身近じゃシータンくらいか。


 えーい、喰ってやれ。


「ワーッ! フクシュージン、ヒドイ! 鬼悪魔」

「何とでもゆえ!」


 攻め方を変える。


「――仕事。一生懸命やな」

「ソ、ソリャモウ。頑張ラナイト!」


「頑張ると? それは……ルリさまのために?」


 お箸を使う習慣の無いポーくん。

 フォークの手を止め、うなだれた。


 グスッと泣き出す。


「キット……るりチャンニ嫌ワレタネ、僕」

「嫌ってんのはポーくん、キミの方やん?」


「エ? ソンナワケ無イヨ! 僕ハるりチャンが大好キダ。世界中ノ誰ヨリモ愛シテル。神ニ誓ッテ」


 欧米人か?

 よくそんな人前で恥ずかしいコト堂々とゆえるな。

 聞いててこそばゆいわ。


「ルリさまがさ、ゆってたよ。最近避けられてる気がするって」


 目をしば立たせるポーくん。


「ちょうどキミが青鬼から転生を提案された時期だよね。距離を取り始めたのは」


 ギョッとして立ち上がりかける。

 待てい。逃がさんからね!


「ここからはわたしの推測や、独り言と思って聞いてほしい。キミはたぶん青鬼にこう切り出された。『魔女との結婚は冥界のオキテでは不可能だ。けれどもひとつだけ手がある』」


 ハアッとポーくんが息を吐いた。狼狽ここに極まれり。


「簡単なコト。ポーくんが転生してアステリアの住人になればいい。そしてルリさまと出会い直せばいい」


 青ざめ、総身を震わせるポーくん。


「なぁ、ポーくん。アンタは青鬼に()()()()()()()を持ち掛けられたん?」

「ソレハ……」


「ルリさま、こうもゆってた。『……ポーと結婚したいってずっと思ってた。だけど彼の未来を壊すわけにはいかない。わたしひとりで子供を育てる』」

「エ……?!」


 やっぱり彼は知らなかった。

 ルリさまの妊娠を。


「人はさ、どんなに親しくても、ちゃんと話し合わなきゃ分かり合えないコトもあるんやって。ポーくんのキモチ、ルリさまにはいまいち伝わってなかったし、ルリさまのキモチもポーくんには伝わってなかった。……そーやろ?」


 ポーくんはすでにカオをグシャグシャにしている。

 しゃべりたくても上手く言葉が出てこない、そんな様子やった。


 ポンポンと彼の背中を叩く。


「今日は出勤してくれてありがとう。ルリさまにちゃんとキモチを伝えるんやで?」


 言葉を失くしたままの彼を置いて食堂を出た。

 休み時間が明けても、しばらく彼は仕事場に戻って来なかった。


本日とにかく投稿できて良かった、です。

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