⑩引き裂く紙切れ
投稿します。
今日も更新できてうれしく思います。
張られた結界を突破し、我が家への進入を果たせたのは、ルリさまの個体スキルである転移が機能したんではなくって、わたしの魔剣、双妖精で攻撃を仕掛けたから……やった。
惟人が内から結界を一時解除してくれたのだ。
外の様子に異状を感じ取り、わたしらがゴチャゴチャしてるのを知り、開けてくれたとゆーワケである。
ルリさまの魔法は発動しなかった、いや、なぜか発動できなかった。
とにかく中に入り、リビングで繰り広げられていた修羅場に立ち会った。
そこでわたしは面食らう。
面食らったのはポーくんが居たから……やなく、青鬼が居たから……やった。
彼は地獄界庁舎のひとつ、獄門出身者ながら立身出世を遂げ、今やサラさんと並び、キョウちゃんの片腕になっている冥府庁幹部の一人だ。
どーしてわたしんちに? って素で驚いた。
「ご無沙汰しておりま、その節はどーも」
その節ってどの節や?
わたしは忘れっぽい性格かも知れん。彼との絡みについてはあまり印象が無かった。
もそっとツッコむとあんまり良い印象やなかった。
それは平たくゆえば、忘れたかったに他ならないっ。
でもそこはそれ。挨拶はキチンと返さんとアカン。なので丁寧な返しをした。
けれどもチラリと視界に入ったが、彼の真正面に対している我が妹、陽葵の形相たるや。
不興をかるーくK点超えしてて、仰天するほど目を吊り上げていた。
「……ココロクルリ」
「な、なに?」
青鬼を見据えたままルリさまを呼び、自分の隣に座らせる。
それから青鬼に問うた。
「今日はどのような用向きで?」
「単刀直入に言いま。冥界は今後、魔女との関係を断ち切りますさかい。了承しておくれやす」
「それはルリさま……ココロクルリを出禁にするってコト?」
「ハナヲ姉、コイツはもっと大きな話をしとるわ。つまり、わたしら魔女全員をシャットアウトするって話や」
「へいへい。そこな勇者さまだけは今まで通り冥界のアルバイトを続けてくれてもいいだす。魔女に類する者だけ、出禁にさしてもらいま」
わたしは青鬼の横で小さくなってる男に鋭い目を向けた。
「なぁポーくん。……アンタさ、青鬼がこんな理不尽な仕打ちしようとしてんで? どーして黙って聞いてんの?」
「異なことをおっしゃる。ポーさんは立派な冥界人だす。彼はそこな魔女っ子さん……ココロクルリさんの魔力が喪失するのを懸念して、英断するんだす」
「英断?」
「彼はつまり、魔女との結婚を拒絶しとるだす」
「――なッ?!
わたしと陽葵が思わず前のめりになった。
そうして、ルリさまをおそるおそる窺い見る。
ルリさまの目はポーくんに注がれていた。
驚きと悲しみが混じった目だった。
「……ホント、なの? ポー?」
「ボ……ボクハ……」
彼は小柄な方じゃないけど、ことさら小さく見えた。
「ポーさんは魔女っ子さんと別れるそうだす。――ねえ? ポーさん?」
えっ?! ってカオになったのはルリさまと。
当の本人のポーくん。
「ボッボクハ、別レマ――」
「いいんでっか! ワテはよーく聞いて知っとるんですわ。アンタの願い。それ叶えたいんでっしゃろ? ここは一番アンタの心意気を示すトコとちゃますかいなぁ?」
「ねぇ、ポー! あなたコイツの言いなりで動いてるの?! どういうことなのか、説明してよ!」
それまで我が家のリビングのソファに座っていたはずのポーくんは床に縮こまり、震えて動かなくなった。
ルリさまが彼の肩を揺さぶるけど変化なし。
「おい青鬼。キサマ、この男に何か吹き込んだか?」
陽葵の目がますますつり上がった。
こめかみにアオスジさえ浮かんでいる。
「滅相も。ワテはそないな事、一切しておまへん。な? そーやんな、ポーのダンナ?」
「ボ、ボク……」
「ポー! はっきりしてよ!」
わざとらしいタメ息を吐いた青鬼は自身が下げていたガマ口のバックから、一枚の紙切れを取り出した。
「あのサラ氏。ホントウにぬるいお人ですわ。冥界の秩序を真剣に思い悩んでいるのはあの女やアリマセン。――このワテでございます」
紙を広げ、ポーくんに突き付ける。
「ポーさん。アンタが欲しがってた紙や。――ほれ」
でも彼は受け取ろうとしない。
違う。身体が強張って動けないようだ。
代わりにルリさまが、ひったくるように紙を奪った。
「転生……決定通知書?」
わたしと陽葵が横合いから覗く。
そして互いにカオを強張らせた。
「フフン。ポーさんの生まれ変わり先が確定ですわ。おめでとさん、希望通りでんな」
――アステリア公領、筆頭魔技官の長男。
つまり、魔導貴族家の子息。
それが彼の来世に保証された身分やった。
20231012青鬼の紙切れ




