⑨シータンの想いは
先日のブクマ剥がれました。
ショック。
新石切駅への帰路に就くサラさんをバスの停留所で見送った後、「さて」とシータンが向き直った。
「ハナヲん家、今帰るとややこしいですよ」
コソコソとシータンの耳打ち。
冥界から来訪者アリ。
シータンいわく応対した陽葵と惟人の怒りに戦々恐々……らしい。
やからコンビニに避難してたとのコト。
どことなーく予感はしてたが、「やっぱりややこしくなってたか」と合点。
サラさんが訪問を拒んだワケである。
かたやルリさまはさっきまでのシータンの様子に感じるところが無かったってゆーのか無邪気に「どうするって何が?」 と首を突っ込んできた。
「やからさ。家にポーくんが訪ねて来てるんだよね?」
「え……、ポーが?」
勘どころを働かせたわたしの切り返しにルリさまが、まだ飲みかけだった缶コーヒーを落とし震える。
「えらく動揺しましたね。やはり彼とうまくいってないんですか、ココロクルリ?」
あらかじめ、それなりの事情を得ているっぽいシータンが尋ねる。
尋ねるとゆーか、労わりのこもった問いかけやったが。
わたしからしたらトンデモなく大直球!
「魔法学校のことは本当にいいんですか?」
「……もう。みんなと同じ質問しないでよ」
「さっきはサラさんがいたので遠慮しましたが、わたしはあなたの意志をちゃんと知りたい。――本当にあなた、魔法学校を辞めちゃうんですか? 卒業を諦めちゃうんですか?」
「……そう、だよ。卒業よりも家族を持つ道を選んだんだって!」
もういいでしょと首を振るルリさま。
彼女だって辛い選択なんや。
わたしだって相当おせっかいな人やし、他人をとやかくゆえんけど、もうさ、そーっとしたって。
「シータン。そりゃルリさまだって辛いよ。簡単な決意とちゃうんやって。それほどルリさまはポーくんのことが――」
「魔法学校を卒業して立派な魔女になる。入学のとき、そう宣言するあなたの目は直視したくないほど輝いていました。けれども実際のあなたは途方もなくぶきっちょで、毎回のテスト結果もさっぱり芳しくなく、いつも赤点すれすれで。わたしや他の先生たちにはっぱをかけられていましたよね」
わたしたちはまだ、バスの停留所に留まっている。
次のバスがやって来て、ぞろぞろと乗客がこぼれ出てきた。
その中には重そうな荷物を抱えた部活帰りの学生たちも多く混じっていた。
ちょっぴりだけど、わたしたちとはまた違う青春を感じた。
バスは、わたしたちの動きを窺うかのように暫く停車を続けたが、後続車に急かされてドアを閉めた。
方々に人々が散り去る。耐え難いカオつきで待ちかねていたルリさまが声を荒げる。
「出来の悪い生徒で悪かったわねっ!」
「だからこそです。わたしはザンネンでたまりません。そんな子が一番がんばってたんだから。本当にひたむきだったから。なのであなたが2年、3年と進級していくのが嬉しかったし、内心誇りに思ってましたから。これがわたしの友だちなんだって自慢でしたから」
ルリさまの眉がグニャリと寄った。
口をへの字に曲げて何かに耐えている。
「ココロクルリ。あなたは将来、どうしたいですか? わたしと同じ先生を目指さないんですか?」
「そんな……大それたこと。わたしはね、ポーが冥界人で普通の人間だってのはじゅうぶん理解してるつもりだし、魔女との結婚が彼にとって大きな障害になるのはわかってる。だからわたしは魔女を辞めてポーと一緒に歳をとっていく未来を選ぼうと思った。確かに魔法が使えなくなるのは正直もったいなくてたまらないけど、今のわたしにとってはそれは二の次なの」
シータンはとうとうと語るルリさまを静かに見ている。
バス停の裏手には農協があった。
そこへ軽トラックが入ろうとしたのでわたしたちは会話を中断して進路を空け、そのままの流れで家の方向に歩き出した。
3人、話もなく家の前まで来た。
「わたしさ。ハナヲやシンクハーフ、陽葵がそれでも友だちを続けてくれるか不安だった。でももういい。嫌われたり、縁を切られたりしてもいい。わたしはわたしのしたい事をしたいようにするよ。だからごめんね、シンクハーフ。あなたの期待に応えられなくて」
シータン、立ち止まって首を傾ける。
たじろぐルリさまの手を取った。
「――結界ですよ、結界」
「け、結界?」
家を観察すると、全体に複層の薄膜処理が施されていた。
内と外が完全に隔離されている。
「こうなったらココロクルリ、あなたの転移で中に飛び込みましょう」
「え?」
「わたしは一生、あなたを友だちだと認識することにします。変更予定は金輪際ありません。当然、魔女っ子の称号もそのままです。ホントしょーもない。そんな程度で心を揺らしてどーすんですか。わたしもハナヲもいったいいつ、友だちを辞めるとか、魔女を辞めろとか言いましたか。もっとしっかり心根をもってくださいな」
読者諸君、とうに気付いてるやろーか?
今日のルリさまは使い魔のマカロンを連れてない!
魔力消費を押さえているためか、魔女っ子の自覚を減退させているのか、そのどちらかだ。
シータンはやっぱりちょっとだけ怒っていた。
我を見失うなと。
わたしと同様、舌足らずながら、どーもそうゆー趣旨を伝えたいらしい。
「シンクハーフ……」
「シータン……」
ルリさまが目を赤くする。
わたしもジンときた。
「そう、だよね。悲観よりも希望だよね」
「シータン、たまにはいいコトゆーね」
「そうです。そう言って奮起してもらいたくて」
「……どーゆーイミ?」
「家にいる勇者と陽葵をなだめてくれないと、今晩の夕食にもなかなかありつけませんし」
ルリさまとふたりでポカーン。
ゆ、夕食の心配……。
「ココロクルリとハナヲ。ふたりは出来る子です。がんばって家内安全を目指し、暗闇姫家の夕ゴハンを確保してください」
などと腕に絡みつかれた。
さらには急接近のシータンのカオ!
思わずドギマギしたら、耳元でこう、ささやかれた。
「わたしはハナヲのように、物事をサッパリスッキリと割り切れない性格です。ココロクルリの退学に関してはわたしは大反対します」
またまたぁ。
わたしだって別に、大手を振って賛成してるんじゃないよぉ。
シータンとハナヲ
ブクマ160件目&500P達成です(今のところ……)!
有難うございます!
4年と8ヶ月、かかってます。我ながら根気強かった……。
10/16追記
やはり剥がれました。
御礼イラスト削除しときます。ああ格好悪。うう。




