③ココロの内
一般人の見てるところで魔法を使ってしまった。
しかも堂々と、ド派手に見せつけてしまった。
幾ら彼女たちを助けるためやったとはゆえ。
それなのに。
それでもまだわたしは、そのコトに気付かずにいた。
とんでもない。
慣れ……の一言で片付けてしまえば、それはサイテーの言い訳や。
運悪く、しかもそのタイミングで水無月マナのノックがあった。
「ちっ」
つい舌打ちしたわたしに「ひっ」と怯えが起こった。
発したのは青葉心菜か、堀川由奈か。
「許して」
そんな恐れおののいた詫びも耳にした。
その段になってようやく。
わたしは我に返ったようで。
急ぎ魔剣双妖精を収め、結界を解き、入口のドアを開けた。
「マナぁ! 聞いてよぉ」
事情を知らないマナにふたりが大泣きで供述。
わたしが魔法を使って魔物退治したと、そーゆー主旨を支離滅裂に、必死に訴えた。
「えーと? 拙者の理解が弱くて恐縮でござるが、つまりはハナヲがあなた方のピンチを救ったと?」
「そう、そうそうそう!」
明らかにマナは困惑してる。
ふたりが口をそろえて同じ証言をするので、とにかくパーティを一時中断し、ふたりのカウンセリングに取り掛かった。
「ハナヲ。お二方の話はホントでござろうか? ――その、ハナヲが【魔法使いである】ってのは?」
「あたしらウソなんて言ってねーぺ! 間違いなくハナヲは魔法を使ってモンスターをやっつけちゃったんだって!」
家庭科実習室内。
マナのジト目が、全景を舐めとるように動いた。
「……いやあ。しかしながら、そのモンスターとやらは何処にもおりませんが?」
「ハナヲが粉砕したからじゃん! ――ね、ハナヲ? そーだよね? ――あ! 何ならもう一回、さっきの武器を出してみてよ! さーさー?」
あー。
メンドーなコトになったなぁ。
マナは、弱ったような鬱陶しそうな表情を浮かべて黙っている。
彼女からすれば、駆けつけ一杯のコーラで乾杯! などと、ヒョイと現れただけなのに、着た途端にふたりのギャル子から「ワーワー」がなり立てられ、どう収拾をつけたら良いものか、思案に暮れているんだろう。
要はふたりがこっそり飲酒でもしたと思い込み、わたしの監督責任と、自分に降りかかりそうな厄介ごとをどう処理するか、思い悩んでる表情なんである。
気の毒だし、それこそわたしからしても厄介だ。
「ハナヲセンパイ」
真横から呼び掛けられた。唐突やった。
うわっと飛び退き構えると、かんなぎリン。
小学4年生くらいのフツーの女児に見えるが、れっきとした魔女っ子仲間で、魔女界の主、漆黒姫に仕える有能官吏だ。
その魔女っ子かんなぎリンが、フワフワした髪を揺らしてわたしの顔色を窺った。
「な、なんや、リン。急に現れんなって、もー」
「いえいえ失礼。……でどーすんです、コレ?」
かんなぎリンの細工で、時間と空間がすでに停止してる。
ギャル子ふたりも、水無月マナも、マネキン人形になってる。
「ど、どうって……」
「漆黒姫さまが大層お怒りです。さっさといつものように設定変更でもして、原状回復してくださいな」
わたしの魔法能力で3人の記憶を改ざんするなどし、一件落着を図れってゆってるんである。
そんなん。
ゆわれんでも分かってるよ!
――けどさ。
「……出来ないんですか? ひょっとして?」
意外そうに、とゆうより、心配げな表情を作ったリン。
「……うん。なんでか知らんけど、思うように魔法が働かんねん」
そもそも設定変更は思い通りに発動できる魔法やなかった。
それでもこれまでは、わたしの願望――わたしの理想や夢のような未来を割と、いや、結構なカタチで実現させてくれたように思う。
今回も。
ギャル子たちには例えば不都合な出来事を忘れてもらって、もしくは都合のいい出来ごとに記憶を書き換えてもらって、これまで通りに平和に、穏便に、この場をやり過ごしたいと願うわけで。
そんな感じに設定変更魔法が起動してもいいんやない? って冷汗交じりに思うんやけれども。
「……アカン。ムリそう」
リンは不安めいた目をしたが、首を振り、キリッと表情を変えた。
「任せてください。ハナヲセンパイ」
そうゆうと彼女は、わたしに向かって彼女の個体スキル、内視鏡を発動させた。
「ウゲ」
ノドに違和感が起こる。これは前にも経験したことがある。
為すがままにかけられた魔法に身をゆだねるしかなくなった。
口から、わたしそっくりの小人形が「かぽっ」と、こぼれ出た。
手の平サイズのわたしの分身だ。
この分身は本人の自覚してない内面も暴露る。
かんなぎリンの尋問が開始された。
「暗闇姫ハナヲさん。あなたは失敗を犯しましたが原因は何だとお考えですか?」
『そんなん決まってる。わたしの思い通りにまわりが動いてくれへんのがイヤなんや。わたしのささやかな幸せが壊れそうで辛いんや』
スラスラと、その人形はわたしの心情を述べた。
――自分でさえ理解できてない心情を。
ココロ乱れる




