新入生オリエンテーション(部活勧誘の件)
――春。
4月になって、ついにわたし、中3になりましたー!
進級できてウレシイッ!
義務教育やねんから「そりゃ進級できて当然やろ」などとおっしゃるなかれ。
人生、いったい何があるのかワカランもんでさ。
下手したら、もしかしたら、留年もあるかもしんないってハナシだよ?
特にわたしなんて。
最近よくある話やと思うけどもさ、異世界にTS転生して魔女になっちゃったりしたんだよ。
ナンヤかんやで中1を二回したし。
だから転生も、留年も、珍しくないんやって。ホントやで?
そこのキミもTS転生体験、1回はしてるっしょ?
まぢでベンキョーどころや無くなるねんから。
で、わたしはとにかく進級した。
嬉しくて友だちの水無月マナにその気持ちを伝えたら、彼女はブスッとしてこう返してきた。
「ハナヲは呑気でござるな」
なんやてぇ?!
カチンと来て仕返しの言葉をぶつけたった。
「もういい加減、その語尾止めたら? わたしら最上級生なんやで?」
「これはソレガシのステータスを証明するための枷、向かいたい方向に行くための【くびき】なんでござる。とやかく言わんで欲しいのさ」
「くびきとか枷とか。なんやかんやつまり、ムリしてるってコトやん。……まーいーけど。で? ナニ企んでんのさ?」
マナ、ムズカしいカオで一枚のプリントを広げる。
「部活申請書?」
「そ。新年度の区切りで毎年提出しなきゃなんないのでござるよ」
そーいやわたしらは去年のいつ頃だったか、南田センパイのゴリ押しで部活申請した。
活動内容は……えーと、何だっけ。
要はマンガ部だ。
「じゃあ出しなよ」
「他人事に言うなかれ。部活申請は受理されない場合もあるのだよ」
「へえ」
問題は部員の数だそうで。
でも南田センパイは卒業してもーたものの。
わたし、マナ、ひまり、そんで幽霊部員の惟人。4人もいるやん。安泰やん?
「アホー安泰やないッ! 部活の継続には最低5人の部員が必要なんでござる! 南田センパイの抜けた穴をどうにか埋めんと、ソレガシらの代で伝統の血を絶やす事になんねんな!」
伝統?
まだ1年も経っとらせんよ?
「……そう興奮しなさんな、語尾がもはやゴビ砂漠をさ迷っとるで?」
「上手いコト言ってんじゃないでござろー! 今日から全力で部員勧誘、コレ必須!」
「えー……、今日家に用事があるんやけど……」
キッ! と睨まれ。
「どんな用事?」
「シータンと一緒に【葦の子】ってアニメを見る約束してて……」
「アニメぇ?! 葦の子をォ?! シータンさまともあろうお人が、アレをまだ見てなかったでござるか?! それは一大事、ソレガシも同席するでござる! それを先に良いんさい!」
――その日は結局、我が家で3人でアニメ三昧。
マナとシータンは夕食まで食べ、深夜までバカ話し、そのまま泊ってった。
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翌日。
新入生歓迎の、部活紹介イベントが体育館で行われた。
わたしらにとって一世一代の好機だった。
んで。
マナは新入生が見守る中、壇上で公開イラストを描くと言い出した。
大型のホワイトボードを持ち込み、それを決行すると。
ギリギリまで何の準備もしてこなかった人間の、土壇場の思い付き。
テキトーすぎる。
わたしも同罪なんですが。
「そのパフォーマンス、何かのアニメで見たコトあるよ。パクリやん? マナ、そんなん出来んの? 絵心と度胸の両方が必要だよ?」
「はぁ? 描くのはハナヲの役目じゃん! ……でござる! 絵は得意技っしょ」
あんな。いい加減にしろ。
「頼みますー、ハナヲさまあ。そのくらいの目立つパフォーマンスしないと、ホントーに新入部員がゲット出来ないよー」
「……そーゆーマナは? いったいナニをしてくれんのさ?」
「陰キャのわたしに壇上に上れと? あまつさえ、部活の宣伝をしろと?」
「そーさ、そーだよ! マナも頑張って部活の宣伝せんとアカンの。マナが頑張るんなら、わたしもガンバルし」
――てなワケでバタバタと本番を迎え、わたしはトーゼン公開処刑、マナは不慣れなしゃべくりでこれまた公開処刑されたのデシタ。
さらにその翌日、陽葵が2名ほど、入部希望者を部室に連れてきた。
「あっはっは。聞いたよぉ? ハナヲってば1年の前でド下手っぴいな絵を描いたんだってえ?」
「そんでマナ坊がその横で、さっぶいギャグを連発して冬を呼び戻したとか?」
くっそう。
あの場には今春、生徒会長に就任した我が妹、暗闇姫陽葵さんもいらっしゃったのを忘れてた。
洗いざらいコイツらにぶちまけたらしい。
その上で勧誘したのか。「助けてやって欲しい」とか何とか。
新部員の名は、青葉心菜と堀川由奈。
2学期の後半ごろから友だちになったふたり。ギャル子ちゃんたちだ。
「うっさいわッ。ああっ黒歴史がまたもや追加やー」
どおりでさ、今朝がた昇降口で1年とすれ違うたんびに「コソコソ」笑われてんなー。
そうゆーワケだね。
「ハナヲー。1年からはわたしはブリザードプリンセス先輩、ハナヲはフラワープリンセス先輩って愛称を有難く頂いたそうでござる」
「オイオイ。そんな目を輝かせて喜びなさんな。それ間違ってるから。完全におちょくられてるだけだから」
「でもあっしらが入って部活自体は安泰じゃね?」
「これで部室を取り上げられずに済むし、堂々と部活が続けられるでござる」
ウンと頷く陽葵。珍しく笑顔を見せている。
彼女の心配事はとうに消え去ってるようで、ヨカッタね。
わたしは人生デビューがさらに遠のいた事実に「ハー」とタメ息を出すしかなかった。




