ギャル子らの不始末
久々の更新です。
昼休みの事である。
予鈴が鳴り、もうじき午後の授業が始まる、そんな時間だった。
わたしと水無月まなが体育館裏に呼び出された。
これってワクワクドキドキやんね?
大体においてこんなようなシチュエーションやと、例えば告られるか、もしくは不良たちに囲まれてボッコボコにされるか。
大まかに二択やない?
けども呼び出されたのはふたり。
ってコトは前者はないよね、としたら考えられるのは後者、不良の待ち構え、だよね?
え?
ダレに呼び出されたのか、さっさと結論ゆえって?
はい、ソウデスネ。
わたしらに声かけたのは女の子ですよ。
修学旅行で同じ班になった、二人組のギャルっ子さんたちです。
でもそれは声掛けしたのが誰かって話であって、実際に彼女らを使って呼び出した張本人は誰か……まではわたしら、知らないんですよね。
なもんで、水無月まなはビビっちゃってわたしの制服の袖を離さない。
痛いって、力つよすぎ。
――で。その場所に着いてわたしらは面食らった。
呼び出したおかたはそのギャル子らだったんだよね。
声掛け者と呼び出し者がおんなじってパターン。
これは予想外やった。つかそれ、わざわざ呼び出す必要あったん?
「もう午後、始まるよ?」
「サボりでいーよ」
なっ。それ不良やし。
「いいコト無いよ。ちゃんと授業受けて、それから放課後にお話しよ?」
「えーッ? うざ」
「ウザくて結構やって。さ、教室戻ろ」
さあさと袖を引っ張ったった。
そーゆうワケにもイカンとギャル子たち、わたしの手を振り払う。
もう一人のギャル子さんも同様の反応を示している。
ここらでぼちぼち、このふたりのギャル子さんらを識別しておく。
A子さん――は長身ふんわりロングヘア、毛先にかけてのウエーブが自己主張強め。
B子さんは――金髪ストレートロングヘアの如何にも風。
ふたりとも美白メイクが眩しくて正視に耐えん。艶々リップは流行りなの?
……全体的に不思議にサマになってるのは否めんけど。
「あたしらの話が聞けないっての?」
「うん? そんっなに重要な話なん? 授業よりも?」
断っときますが別にこの子らはサボリ常習犯ではない。確かにダルそうにはしてるものの、教室の端っこで普段はちゃんと席についてる部類。
それが授業そっちのけってのは、彼女らなりの緊急性とか非常時性とかはあるんかも知んないが。
「そんなに急いでんの?」
「急いでるってか、気掛かり? みたいな」
ちなみにギャル子自体に関しては、ある程度わたしも水無月まなも、南田センパイとの付き合いで耐性はある。
それとあと、こないだの修学旅行で。
このふたりとは、なんだかんだ同じ班で4日間行動を共にしたんでそれなりに気心は知れた。
なんでわたしらを班に誘ったのか? って問いについては、
「部屋を抜け出しても上手くしてくれそう」
と思ったらしく、それだけチョロイってか、はいはい小間使いしてくれそうとか思ったそうで、実際2日目くらいまでは多少の遠慮とビビリがあったから、そんな感じに彼女らの言いなりデシタ。
3日目の朝に点呼でバレて先生からきつーくお叱りを受けてから、わたしは改心。
彼女らに引導を渡した。
「だってさ。オトコどもと一緒の方が、アンタらといるよか楽しいっしょ?」
「やったらそーゆー班にしてもらったら? わたしらトバっちり受けてサイアクなんや」
「アンタらの価値ってそれじゃん? それよか、わたしらの他に班組んでくれる人、いたん?」
「分かった。じゃあ解散。わたしと水無月まなは帰ります。先生に伝えてきます」
「はぁ?」
「はぁ? やない。ヤロウとイチャつき旅行がしたいんやったらアンタらこそ、今スグ修学旅行止めて婚前旅行でもお忍び旅行でも、別ルートで満喫しろッ! それがわたしらに対する最低限の礼儀ってもんやッ! こっちはひたすら不快や! 陰キャナメんなッ!」
「――?!」
ギャル子ふたり、わたしの思わぬ反撃にひるんで絶句した。
ようやくゆいたかったコトをゆえてわたしは満足し、先生とこに行こうとした。
むろん、帰宅するつもりで。
「ま、待ってよ!」
「……悪かったわよ、アンタらも、そりゃ鬱憤溜まるよね。……オトコ紹介してアゲルよ?」
何か、違うッ。
「……いや、オトコ要らんし。それよか、わたしはアンタらとせっかく同じ班になったし、それが嬉しかったし、ちっとは仲良くしたいって思っただけや」
そしたらポカーンのギャルふたり。
思ってた答えと違ってたのか、描いてる眉毛をクネクネ動かし、「はぁ?」っと薄ら笑いして。
その後の後半旅程は、急速に仲良しになったんやった。
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「カレシに付きまとってるオンナがさぁ、しつこくて。カノジョのフリして追っ払って欲しいんよ?」
「ええ……? それが緊急事態なん? そんなん自分がキッパリと『わたしのカレシだから!』ってゆやあ、いいだけやん?」
「それ言えたら世話ないって! だからしつこいんだって! こないだの修学旅行の時のあたしらにかましたみたいに、ガツン! って言ってやって欲しいんだって!」
なにソレ、そんな役引き受けろって?
「そーゆー役はわたしの妹の陽葵の方が適任やろ?」
「あ、いや。あの子は公認カレシいるし。即バレだし。それにアンタさ、実は裏で結構モテてんでしょ? 色々ウワサ聞いてるし」
……?
ひょっとしたら武市半平太クンの件か。
夜な夜な繁華街でイケないコトしてるってハナシ……。
だからこの子ら、わたしなら話が分かるとか、その手の気が回せるとか、カン違いしたんかな。
「お願い。一生のお願い! 協力して?」
「一生の何回目のお願いなんよ……。まいいよ。やってみるよ」
「ヤッタあ、サンキュー!」
……まったく。
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あの~。
わたし、どうゆー状態なんやろ。
今いるのは市内のタワマンの一室。
なかなかの高層階やから、大阪の街が一望できる。
……あ、わたしの住んでる石切は多分あのへん……。ま、どーでもいいか。
とにかく。
そこの高級そうなソファでお茶をすすりながら、オトコの作る料理ができるのを待ってる。
アイランドキッチンってやつ?
その向こう側からメッチャいい匂いが漂ってくる。
ああっ。それってさ、わたしの好きなハンバークなん? それ作ってんのん?
――で、肝心の恋のライバルってのは何処におんのよ?
今日はその子を呼び出して、オトコとの仲の良さを見せつけつつ、ガツンと「わたしのカレシを盗らんとって!」ってゆうのが筋書きやって聞いてるしーッ。
……クンクン。
あーホントいい匂い。ほわーボンヤリ。
「お待たせ。ミートローフだよ」
「み、みーとろー? ……ハンバーグやないの?」
「あー。似てるよね。ちょっと違うよ?」
かあぁ、恥ずかしー!
「こ、こんなんいただけません」
「遠慮しないで? せっかく来てくれたんだし」
真向い、でなく斜め前に座るオトコは自称大学生。
どうゆー事情でこんなすごいトコ住んでんの?
「何か気になる?」
「あ、いや。……立派な部屋やなぁって。……そう思って」
「学生には不相応って?」
「い、いや別にそこまでは……」
ごめん。思ってます。このスネカジリヤローって。
「僕、学生しながら副業してるし」
「ふ、副業……アルバイトですか……」
アルバイトで住めるトコやないっての!
「あのチェストとこのソファは僕がデザイン画を採用したものなんだ。あと、インテリアに関するエッセイ書いたり、小物のアクセサリー作って売ったり……」
「……な」
なんと。
こんなヤツ、世の中におるんですか?!
「昔コンテストで賞とったりして、依頼もらったりとかして。それでどうにか生計立ててるっていうか。運良かったんだねぇ」
……ホント、こんなヤツ、おるんすか?!
……この何とかって食べ物、中にとろーりチーズ入ってる。
うんまい。
「わたし今日、友だちにゆわれてカノジョ役に来ました。――話をしなきゃならない女の子がいるそうで……」
用件を切り出すと、彼はくすくす笑い始めた。
「あーそれ? 嘘だよ。そうでも言わないとキミ、来なかったでしょ?」
「へ?」
「キミのうわさ、ちょっとばかり聞いてね、興味を持ったんだ。エロくて可愛カッコイイ女の子だって」
ど、ど、どゆコト?!
「修学旅行での啖呵を切り方とか、遊び上手なところとか。色々聞いてると僕の理想の子にピッタリなんだよね」
「ゆってるコトが」
「だからさ」
グイッと身体を密着させられた。
ブルッと全身に怖気が走ったけど、腕を回されてムリやり慣らされる。
「食事中なんやけどっ」
「分かってるよ。毎週金曜日の晩、キミはここに食事に来たらいい。僕がもてなしてあげる」
「こ、こんなコトして! か、カノジョはそれでどーなんッ!」
「え? そりゃ了解済だよ? あの子はデート友だち、キミはえっち友だちさ。特に問題は無いよ」
「じ、じゃあ、しつこい女の子ってのは?! ホントは実在せんの?!」
「するよ? でももうその子は卒業だ。そろそろ新しい出会いを求めてもらわなきゃ、ね?」
な、なんて。
なんてハナシなんや!
「キミが僕の新しい友だち。美味しい物食べて、僕との夜を楽しんだらいいんだよ。キミの厭がるプレイはなるべくしないしさ」
「あ、あ、あの子とそーゆーのをしたら……!」
「彼女はザンネンながらマグロだしね。そのあたりの才能は無いみたい」
立ちくらみしかけた。
――けど、胸を触られて気を取り戻した。
チューされかけたところで頭突き。
とっさに腕が抜けたんで、這いながらその場を逃れ、玄関へ。
「わたし! す、好きな人がいるから!」
「――痛っつ、……ヘンな子だな。何が気に入らなかったの? 食事が口に合わなかった? それとも僕の言い方が厭だった?」
ワカリマセン!
全部、イヤですっ!
わたしは部屋を飛び出した。
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帰りの電車は長かった。
一秒でも早く家に着きたかった。
新石切駅の改札で、水無月まなが待っていた。
彼女は指定された場所に最初から行かなかったとゆう。
で、わたしが心配になって帰りを待ってたと。
ギュッ! と抱きついた。無事で良かったあああ!
ひょっとしてわたしら、同時に仕掛けられてたのか。
あんのギャルっ子めぇ!
「LINEで断ったんでござるが、スタンプがキモくてしつこくて。何かヘンだなーと」
「ああ、そう」
それは、本当に良かった。グッドな観察眼や!
――翌日、ギャル子が頭を下げてきた。
けどもあろうことか、わたしが悦ぶと思ったらしい。
どこに悦ぶ要素があったっての!
「だって、アイツ。超絶イイオトコだもん。おすそ分け? みたいな?」
「……気持ちだけで充分です。今後二度と同じコトせんでね。マジ絶交するよ? つか、そのオトコ、半殺しにするからね」
ギャル子らの背後に「ゾッ」の書き文字が浮かび上がった。
わたしはホンキやからね。
「それともこの場で絶交する?」
「あ、え? そんなぁ……」
「わたしと友だち続けたかったら条件。カレシは共有しない。カレシはひとりに絞る。恋愛サプライズしない。何でも話す……」
「わ、わ! 覚えきれないって!」
はぁ。
しゃーないヤツら。
「青葉心菜と堀川由奈ッ! 分かったかッ!」
「は、ハイッ」
もう。
また覚えとかなきゃいけない名前が増えた。
――リンに自慢しなきゃな。
暗闇姫ハナヲ




