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【完結御礼】黒姫ちゃん、もっかいゆって? ~ 異世界帰りの元リーマン魔女っ子なんやけど転生物のアニメっぽく人生再デビューしたいっ ~  作者: 香坂くら
きゅーき もっかいゆっての単!

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冥界のあの子 前編


「ただいま」


 玄関から男の子の声。

 2日ぶりに惟人(これと)が帰ってきた。


「オカエリー! 惟人ー!」


 彼は冥界でバイトしてた。

 通常は学校が終わった土曜日のお昼から日曜日の晩まで、週末は勤労少年になって働きづくめ。


 こうして日曜日の夜に帰宅して。月~土(半ドン)はフツーに学校に通い、学業に専念する。

 特に今週は土曜日学校が無かったから、金曜日の夜からフル稼働(スロットル)やったし。


 エライ。

 エラすぎる。


 どんだけ苦学生なんだよ、チミは。まったくお姉ちゃん感動だよ。

 リボルトセンセがいない今、暗闇姫(やみき)家の大黒柱はキミに決定や、惟人クン。


 あ、人任せちゃうよ、わたしもガンバル。


「なーなー(小声で)、陽葵(ひまり)

「……なに?」


 リビングから動かず、テレビを眺めたままの陽葵。

 惟人が帰還にしたってのに。無関心を装ってるな、コイツ。


 ――あんなぁ、そのクセに。そわそわウキウキしてんの、バレバレやで?

 体は玄関の方に向いてるし、眼元と口元が緩んでんし。


 なのでわたし、訊いてやった。(姉の務めとして!)


「アレさー。土曜日(昨日)買いに行ったやつ。修学旅行で惟人に見てもらうんやろ?」

「……? アレ? 昨日? ……。――あッ?!」

「あでッ?!」


 割と手加減なしの力で「ガシッ」ってドツかれた。頭頂部をチョップだ。


「だ、だって。アレって、惟人に見てもらうための勝負パ――あひッ?!」


 今度はグー。おでこをやられた。


「ち、ち、ちゃうわいッ! げ、下品な」


 陽葵の口から()()()()()? オウ。イッツ・レア・リアクション!


 はう~。


 いやいや口より先に手が出てるってぇ。



「なーにじゃれ合ってんだ、ふたりで?」

「こ、惟人?! アンタにはまーったく関係ない話や! 女同士の会話に首突っ込んでくんな、ヘンタイッ!」


「ヘ、ヘンタ……な、なんだとぉ。ダレが変態だ、ダレが! 帰った早々なんなんだ」

「そーや。惟人はなーんも悪くない。悪いんは凶暴怪獣になってる陽葵の方や」


「ハナヲ姉ェェ、もうそれ以上しゃべんな」


 今にも口から火を吐きそうなほど、真っ赤になって怒る陽葵。

 そろそろ本気でキレそうやから、とりま、からかうのはヤメとこう。


「ささ。お夕飯、お夕飯。――オヤ? 今夜はシータンしかおらんの?


 オフロから上がって来たばかりのはずのシータン。

 冷蔵庫からオロナミンCを取り出し、ホカホカ湯気を立てながら食卓に着いて一杯やってた。


「ルリさまは? 一緒にゴハン食べてくれんと片付けメンドーやねんけどなぁ」


 ま、今日の片付け当番はわたしじゃなくて陽葵デスガ。


「ココロクルリは今日、ポー君と食事だそうです」


 感心なさげにボソリとシータン。

 その抑揚のないトーンでしゃべるのはわざと?


 ポー君とゆーのはルリさまのカレシである。


 彼の正式な名前はわたし、実は最近知った。

 ポーチャ・チャイマイ君、だそうだ。

 東南アジアっぽい名前だけど、彼は冥界人だから人種やら国籍やらは無いんだよね。


 冥界人は基本冥界人として人生を全うしてから人間に生まれ変わるか、再度冥界人に生まれ変わる。本人の希望と冥界に貢献した功績によって来世の選択の幅が決まるらしい。


 ちなみに冥界人の寿命は30年と規定されている。

 つまり冥界ではあまり長く生きられないのだ。


「ポー君ってそーいや、何歳だっけ?」


 その場の全員、首を振った。

 ごめん、ポー君。それにルリさまにも謝るよ。


 これまであんまりポー君に関心が無かった。……かも知れない。ホントごめん。



○○




「ハナヲちゃん」

「なーに?」


「……いや。ハナヲちゃんさ、週末冥界に来てた?」

「ん? いーや? 土曜日は梅田に行ってたし、日曜日は宿題してたし」


「……そっか。じゃ違うか。……そりゃ違うよな、うん」


 惟人のヤツ、意味ありげに訊いといて、理由も話さず独りで得心する。


 陽葵のジト目がわたしに刺さる。

 わたしはのけ者か? とゆいたげな。

 っても姉さん、わたしも何の話だか訳わからんのですって。


 かたやシータンはわたしらの会話にはまったく関与せず。

 豚キムチ炒めを武器に、白ゴハンのかっこみに専念している。


 ――と思ったら。


「昨日……でしたら、ハナヲと陽葵の留守中、オンナが訪ねて来ましたよ?」

「オンナ?」

「ダレ?」


 シータン、箸を止め首をかしげる。さて? とゆったカオ。

 わたし、陽葵、惟人も手を止め彼女を注視する。

 オイオイ頼むよー。

 しかめっ面の陽葵の心情が伝わって来るし。


 ダレやねん、そのオンナ。

 惟人がしたわたしへの謎の問い掛けとの関連も気になるんやが。

 点と点が繋がらんぞ。一切。


「オンナの名前、ですか?」


 思い出そうとしているのか、「うーんうーん」と左右に首を折り曲げるシータン。

 数秒固まって。

 おもむろに豚キムに箸をつける。


「早よー答えんかーい!」


 ついつい陽葵とハモった。


「はい。あれはヒラウミさんでした。相当怒ってました。というより、だいぶお冠でした」


「……何が『というより』か分かんないけど、同じ意味やんね? なんで怒ってたの?」

「ハナヲは居ないって言うと、また来るって言って帰って行きました」


 ヒラウミさんはキョウちゃん、ヒラノリツネ君のおヨメさんである。

 わたしに用事って何やってんやろ……。


 陽葵の視線を感じる。疑問符(ハテナ)を浮かべた目。


「ハナヲ姉。思い当たることは?」

「まったく無いよ。キョウちゃんとも最近はカオ合わしてないし」


 イケないコトやけれども、キョウちゃんはわたしの片想い相手だ。

 ヒラウミさんって奥さんがいるオトコに、わたしは横恋慕してるんである。


 中坊のクセに、とゆーなかれ。

 TS厨二児のクセに、とゆーなかれ。


 心の内で恋焦がれるくらい、したっていーじゃない。


 ヒラウミさんとの関わり――とゆえば、キョウちゃん絡みしかないんやが、わたしはなーんもやましいコトはしていない。てーか、何か相手がプリプリしてたって聞いて、逆にこっちがムカつくんだがね?


 わたしはあなたに対して、なーんも怒られるコトはしてない。怒られる筋合いなんてこれっぽっちもございません!

 密かに、言わば電柱の陰に隠れて遠目で、ジト目で、心の中で、お慕いするのはわたくしの勝手でございましょう?

 そーでございませんこと、みなさま?


 空気を読んだのか、惟人が「豚キムおいしいな」とつぶやいた。「そうやな」と陽葵が合わせる。ふたりの抑揚のないセリフに大いなる優しさを感じたが、心の慰めにはならなかったし、むしろ切なさを感じたし。


「さっき惟人が言いかけてたのは何? ハナヲ姉に何か気になる事でもあったん?」


「あ、いや。――実は冥界でバイトしてたとき、同僚が夜の街でハナヲちゃんを見た……って言ってたんだ。そんな事ないよな。わざわざ夜に冥界の繁華街になんて行かないよな」


 ふたたび陽葵のジト目。今度のは強烈に刺さる、刺さるぅ。


「いや。ハナヲ姉は家にいた……と思う……が」


 おったよ。家におった。ゼッタイおった。

 ヤメてよ、疑り深ーいそのジトジトなジト目。




○○○




 3日経った。

 午後の授業は免除され、2年生全員、大講義室に集められた。


 来たる修学旅行の概要説明……と称した生活指導の徹底会やった。


 良く寝て寝坊するな。

 浮かれて成績下げるな。

 来年はますます勉強が大変になるから、しっかり基礎固めしろ。


 そして最後にこんなような報告と指導があった。


「この中に、夜中に繁華街をウロついてる生徒がいる。警察から情報をもらった。逃げた者はウチの制服を着ていたそうだ。心当たりのある者は名乗り出ろ。……と言っても無駄だろうが、自分の胸に手を当てて、よーく反省して欲しい」


 フツーの生徒やったら他人事やとスルーするんやろが、わたしは週3で冥界の夜勤バイトをしている。惟人もそーやし、陽葵だってそう。我が暗闇姫家は全員、校則違反の勤労学生。


 なので毎回こんな話をされると担任センセーの様子をチラチラ気にしてしまう。


 もし仮にわたしらがバイトしてるって知ったら、例え生活のために仕方ないってゆっても、ナイショのバイトをしているのは事実は事実なんやから、そりゃ担任は驚くやろーし、指導責任を問われるコトにもなろーし、迷惑をかける結果になる。


 ……あ。担任あくびしてる。マスクで気付かれんと思っとるようやがバレとるでぇ、ひひ。

 でも、なんかホッとした。


 にしても話し長い。

 学年主任の先生はマスク越しにもツバ飛ばしてるのが判るほど、説教がヒートアップしてる。

 止めるわけにもイカンのやが、聞かされる側の人間の身にもなって欲しい。


 あんましゆい過ぎると余計反発受けるぞ?




 集会後、水無月まなが背中をツンツンしてきた。


「さっきの話。制服着てたって、おバカなヤツでござるなぁ。拙者が聞いた話だと繁華街ってコトバ濁してるけど、兎我野町か道頓堀か、とにかく風営法絡みの街なかで職質されたんだそうで」

「ひぇええ、……すごいね、その子」

「すごいって何がスゴイでござるか」


 えーとそりゃ……そーとーな高額バイト……。

 って!

 まずお給料に関心が行ったなんて、口が裂けてもゆえんわ!


「――それよりハナヲ。班決め、来週いっぱいまでだよ。……ござるよ。一緒の班になってもらっていーかな? (もじもじ)」

「うん。いーとも」


 ――にしても修学旅行かぁ。

 前世でもたしか行ったハズだよねぇ。あんまし憶えてないや。


 ――あ、いや微かには覚えてる。

 オトコで人生を送ったときな。陽葵のお父さん時代。


 高校のときやな、クラスのカス男子たちに嵌められて、女子風呂ノゾキの犯人にされたんや。あのとき独り濡れ衣着せられて、停学になりかけたっけ。それから卒業まで女子たち全員にヘンタイ扱いされて誰一人口を利いてくれんかった……うー、思い出してもサイアクの出来事や。


「ねーハナヲ。ところでさぁ、例のブツ、ゲットしちゃったわけでござるか?」

「例の? あーパンツ? フリフリのカワイーの、買ったよ」


 スマホを見せたげる。

 もちろん履いた状態のを、やないぞ!


「うっわエッロいデザイン、ハナヲもなかなかやるでござるなぁ。――で、ターゲットはダレでござるか? 全力で応援するでござるぞ?」

「あ、アンタが勧めるから買っただけやん! 別に特定の男子に見せるために買ったんやないッ!」

「トモダチの務めでごさる。遠慮せんとホレ。気になる男子はダレか、教えてみ?」


 ニフーとヘンタイ的な擬音を立てて鼻息を吐く。

 いまにも嘗め回して来そうな勢いだ。


 ああ、そっかー。

 わたし昨晩、こんなカンジで陽葵にセクハラしてたんか。ナルホド、よーやく自覚したっちゃ。

 そりゃパンチやチョップ喰らわされるワケやね、ゴメンちゃ。




○○○○





 その日はわたしが冥界でのバイトをする日だ。


 夜9時、自転車で新石切の駅前へ。ミスドの灯りにホッとする。


「さーてと」


 改札へ行くためのエレベータに乗り、着いた先は冥界とゆー塩梅。

 ……やったハズが、今日は不本意な景色があらわれた。


 違った。


 景色はいつもの通り。


 冥界の一番地通りから冥界人居住区に入ってスグのところに建つ、労働者向けの独身寮の入り口。

 暗めの街灯が点る玄関先だったが、そこで、会いたくない人物のお出迎えを受けた。


「昨日うちに訪ねて来たって聞きました。なにかわたしにご用だったですか?」


 ここは下手に出るのが得策。

 わたしを待っていたと思われる少女は、「フン」と鼻を鳴らし、ふてぶてしい、もとい、挑戦的な眼差しを無遠慮にぶつけてきた。

 暗がりに瑠璃色っぽく映るサラサラヘアが、彼女の動きに合わせて揺れる。


 ヒラウミさん。


 キョウちゃんとよりを戻した女性。イマヨメだ。


 わたしはこの子が苦手。

 理由はもう、ゆわさんで欲しい。


「わたし。これからバイトでして。すみませんが手短にお願いします」

「こっちも同じよ。あなたと長話するつもりはないわ。ヒラくんの事よ」


 ヒラくん……ね。

 キョウちゃんのコトか。そりゃそーやろ、他にあったら教えて欲しい。


「……。ヒラさんがどうかしましたか?」


 そうゆった途端、ウミさんの目がクワッと開いた。


「あなた……何をトボケて……?! この……! ヒラくんをどこに匿ってるのよ!」

「……へッ? ど、どこにかくまうって?」


 何ゆってるだ、この子……!


「わ、わたしキョウちゃんの所在なんて、し、知らないよ」


「ここ10日ほど、家に帰って来ないのよ! 居なくなるちょっと前に街であなたと会ってるのを見かけたって言ってた人がいたわ! ひとりふたりじゃないわよ! 5人以上いるわよ、ウソついてもバレてるんだからねッ!」


 な、な、な――?!

 カオ真っ赤にして、目に涙溜められながら怒鳴られてるわたし。


 正直アタマが混乱した。オロオロ、アタフタ、何が何だか分かんなくなった。

 狼狽って今のわたしにピッタリの言葉だ。


 闇雲に「知らない、知らない」を連呼するばかりで。我ながら情けない。


 夜勤始まりの冥界人労働者たちが通勤のために寮から出て来て、わたしらの方をジロジロ。

 ウミさんはそんな彼らを無視、とゆーか、視界に入ってないみたいで、わたしに対して罵倒罵声を繰り返す。


「元々あなた、オトコだったんでしょう?! それが女の子に変身して、他人様のオトコをたぶらかすなんて、ひたすらにキモチワルイわ! あなたなんてオトコにも相手にされない、ただの女の敵よ!」


 ゆいたいコトをゆいたいだけゆったのか、ウミさんはハーハー息切れしつつ、しゃべるのをやめた。

 目は相変わらずまっすぐわたしを睨みつけている。


 手を振り上げたのでビンタでもされるのかと肩をすくめたが、何もせず背中を向けた。


「このヘンタイ。殴る価値もないわ!」


 捨て台詞を残して大股で去っていった。


 殴られてもいないのにわたし、頬を押さえて立ち尽くした。



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