30 ヨンキューの悲劇
異世界魔女っ子たちの地味系・日常系・ファンタジーラブコメ。
ナノデス。
2学期の終業式を終えた帰りに、最寄りの新石切駅から10分ほどの距離にあるスーパー銭湯に立ち寄った。
自宅風呂が壊れたわけでもないのにね。暗闇姫家はじまって以来のゼータク行為だよ。
一緒に下校する陽葵と惟人のふたりに加え、シータン、ルリさま、かんなぎリン、南田センパイ、水無月マナ、それからコレットさん、瑠璃さんとも駅で待ち合わせして、なかなかの団体さんになった。
もともと企画したのは瑠璃さんで、動画配信で予想以上の収入を得たらしく、気を大きくしての剛腹ぶりで、銭湯訪問を提案したかんなぎリンに乗り、ドーンとサイフのヒモの大開放を行ったわけで。アベノミクスか神武景気かってとこ、願わくばバブル景気にならないでねと。
「わたしも動画配信の仕事しよっかなぁ?」
岩盤浴温泉が売りのお風呂はとっても広くて快適。湯船に浸り極楽気分でのたまった南田センパイに対し、かんなぎリンもゆったり気分で同調。
「そーですねぇ。漆黒姫さまの言行録とか、普段の生活を再現V化して配信したらそこそこマニア受けするかもですしねぇ」
「漆黒姫っつったら正冠さんか。かんなぎちゃんって、大金持ちのお嬢さまに仕えるスーパー小学生だっけか? 学校通いながらって大変だよなぁ」
いやいや実際そんな小学生いないですけどねー。と横聞きしながら胸の中でツッコみ。
ま、他愛無い話だよねと放置。
「はにー。ゴクラクやぁ」
「ねぇねぇハナヲ、撫花さんとはあれからイイ感じに進んでんの?」
「進むも何も、霊一さんとはそんな関係や無いから」
ルリさま、じっくり2秒の間を置いて。
「れ、霊一さん?」
「うん。撫花零一さん。明日から漫画描きの手伝いする約束してる」
かんなぎリンと南田センパイがわたしを押さえつけて湯に沈めた。
「何だと、零一さんのシモのお手伝いするためにお泊りするだとぉ?!」
「うわっぷ、わぷっ、んなコトゆってないッ!」
「てかてかっ、零一さんっていったいダレなんですかぁ? センパイの新しいセフレですかぁ?!」
「こんなナイチチでノーサツ篭絡できると思ったら大間違いだぞッ!」
真剣にアホだ、コイツら! ダレか助けれろッ!
「女を泣かすサイテーな女がひとり。お風呂の藻屑と消える。アーメン……合掌」
「消えてたまるかあっ、シータンのアホッ! 眺めてないで助けろ、ブフッ?!」
お湯って結構凶器なんですね。息苦しいの、なんのって、そりゃもーハンパなし。
「わーん、ハナヲセンパイのあほんだらぁ。わたしというカワイイ後輩がいるクセにぃ。知らない所でで愛人2号作ってたなんてぇ」
「暗闇姫。こーなったらわたしと心中しよう。そして来世で今度こそ結ばれるんだ。むろん女同士でも一向に構わんぞ」
あーもーいっそ、好きにして。
馬乗りの幼女と、割とボインボインの女子のふたりにもみくちゃにされ、ここは天国なのかはたまた地獄なのか。薄れ行く景色にお別れです。
◆◆
「あー。大変な目に遭った」
「ハナヲセンパイの自業自得です。手当たり次第に女の子を食い物にするからいけないんです」
「まだゆーか?」
かんなぎリンのちっちゃな膝枕で横になってると、シータンがそばに。ちょこんと正座。
「ハナヲ、コレットさんがヨンキュウに連れてってくれるって」
「よ、ヨンキュー?! そこの交差点とこの、高級回転寿司屋さんやんねー!」
「わ、わ、わ、わたし。お寿司なんて食べたコトありません」
いやいや。そーはゆーなよ、シータンさんや。
それはあまりに悲しすぎですぜ。だって4ヶ月ほど前に無添こら寿司に行ったよねぇ、シータンの誕生日に!
とゆいつつ、わたしも風呂酔いがとたんに回復したってばさ。
◆◆
「存分に頼んで食え」
「いーの? ワーイ」
その日の暗闇姫家はレッツパーティ、フィーバーフィーバー!
「暗闇姫ハナヲ、有難う。久しぶりに悪くない思いをした」
コレットさんがボソリと話し掛けて来た。
「オレ、例の女に家の修理代を弁償しようと思う。そしてやり直す。瑠璃にも了解は貰った」
「それって、異世界に帰っちゃうってコト?」
「まぁそういう事になるかな。こっちの世界はそれなりに良いところだが、やっぱりオレは元の世界が性に合ってるしな」
瑠璃さんの魔力で、霊一さんのいる世界を経由して、並行世界のアステリアに戻るつもりだそうだ。
「暗闇姫ハナヲにも、少しでもお詫びとお礼がしたい。今夜は大いに楽しんでくれ」
「……うん有難う」
わたし案外、うなぎ好き。食べてぇ、お茶すすってぇ、また食べてぇ。
ホント、楽しかったよぁ。
そう。
――お会計するまでは。
瑠璃さんが震える声でわたしに耳打ちしてきた。
血の気を失っているってのは、まさにこんなカンジだよねぇ。
「ハナヲさん、お金幾ら持ってる?」
「そ、それ、どーゆー?」
「日本の物価ってこんなに高いの?」
動画配信で稼いだってゆーお金、実は3万円弱ナリ。
な、な、な、なーッ! もっともっと稼いでたんやないのっ?!
だってまるで人生の勝ち組みたいな態度やったやん?!
コレットさんを目で追う。
――いた!
端っこの方の席で小さくなって。伝票眺めたまま、真っ白に燃え尽きてた……。
ち、ち、ち、ちょっと待て!
さっきのお風呂屋で1万円、そんでもって、ここヨンキューで――。
「3万3千円! 足して、4万3千円ーッ?!」
……世の中、そんなに甘くアリマセン。
「ハナヲ、最後にみんなで大トロ食べてで締めましょう!」
シータン、わたしを殺す気か―ッ!
次回もどうかよろしくです。




