「はっき」の前日譚・そのさん「魔法学校の自習室」
更新できてないのに関わらず、訪問やブクマ応援いただき有難うございます! の回です。
香坂としては、かなりの長文回なので、読んでもらえるかとても心配してます。
冥界での週3バイトは製造現場の軽作業。そんでもって夜勤オンリー。昼間は学校通ってるので。
仕事内容はシンプルに、イワユルキツイ・キタナイ・キケンの昭和3K。さらには夜通しだし、めっちゃネムイ!
でも「辞める」とゆー選択肢はないのだっ。
だってキョウちゃんのカオが見れるかもしんないし。
そんな大チャンス、みすみす逃していいワケないよ。そんなもったいないコト、デキマセンねん!
「けどさハナヲ。キョウちゃんには前にきっぱりフラれたでしょ? いい加減新しい恋探さなきゃ! 人間腐っちゃうよ?」
なんてルリさまには説教されてるし、自分もそのつもりなん……。
けどもさ!
そー都合よく心がついてけないのがわたしなんですよ、はい。
「うしし。今日もキョウちゃんに『お疲れさま』ってゆってもらえたなぁ、しあわせ」
ロッカー室でひとりほくそ笑んでいると、突然入口のドアが「バンバン」激しくたたかれた。
うっわ、ダレッ?!
「出テ来イ、フクシュージンッ! 相談アルンダゼ!」
「その声は――ぽ、ポーくん?」
相談アルンダゼ? って……。
とうに着替え終わってたので出てやると、やっぱし同僚のポーくん。まだ作業着のまま、半べそでわたしに訴えかけている。
「どしたの?」
「ドーモコーモナイヨ。ボク泣イテルンダゼ!」
えーと。
何か泣かせるほどのコトしたんかいな、わたし、彼に?
「――あ、ああ。さっき機械操作ミスして製造中の製品ぜんぶパーにしちゃったよね? そっか、わたしに叱られて反省したんで今後の決意をゆいに来たと? いいよ、次同じミスせんように機械動かすときはわたしの説明と手順書、しっかり確認するんだよ?」
「ハア? ナニヲオカシナ事イッテルデスカ? フクシュージン。ボクハ、ソンナチッポケナ失敗デハメゲナイ男ダヨ! ナメテチャ困ルゼ」
いや、ちっぽけじゃないよ? ちょっとはメゲなよ、そこは。
「ボクガ言ッテルノハるりチャンノ事ダヨ。ドーシテ分カラナイカナァ、フクシュージンノクセニ」
「フクシュージンじゃなくって副主任ね? やなくって今はわたし係長ね? いや、そんなのどーでも良くて、……またルリさまと何かあったの? 年中ケンカしてるよね、君ら」
わたしの呆れたカオが癪にさわったのか、ポーくんわたしの首を締めだした。
「うおおおギブギブギブ。アンタわたしを葬る気なんか?!」
「ダッテ全ク笑エナイ冗談ネ、『冗談ハ顔ダケニシナイト、死刑ナノダ』ッテ、マンガノ神サマモ言ッテルヨ!」
どこのマンガの神さまだ、それは!
あと、誰がジョーダンはカオだけやねんっ!
「もーッ、うるさーいッ! そろそろ堪忍袋の緒がブッツンしちゃうで? グーでパンチしちゃるで?!」
パワハラ反対とわめいたので、とりまノーテンチョップで彼を黙らせた。ついでにしゃーなし事情を訊いた。
「うんうん。ルリさまに新しいカレシが出来たと。なるほど……ってエエッ?!」
「最近ボクノ電話ヲ無視シタリ、『ごめん今日会うのムリ』トカ、イキナリ約束反故にシタリ、めっせーじ返事ナカナカ来ナカッタリ。ソンデツイニ昨日、ボクハ目撃シタンダゼ! 決定的瞬間ヲ!」
「……ほ、ほう。でもまさか」
「ボクノ知ラナイオトコトきゃっきゃうふふシテタンダ!」
「いつ?! ど、ドコで?!」
「ダカラ昨日、魔法学校ノ図書館デダヨ。……アア、コレハ完全ニ略奪愛ダゼ! ねとらせるーとデBAD・ENDダゼ!」
キミ、何かヘンな物読みすぎ。
再度やかましくなったポーくんをチョップで大人しくさせる。
「――で、どんな容姿のオトコなん?」
「エート。るりサマガ見上ゲル位背ガ高クテ、太ッテテ。モウスグ冬ナノニ、ハアハア暑ソウニ汗カイテテ。Tしゃつニ【黒姫チャンモッカイユッテ】ノ主人公きゃらガぷりんとあうとサレテタ」
結構ガッツリ観察してんね。
「黒姫ちゃん?」
「ソ、黒姫チャン。深夜帯ノどまいなーあにめダヨ」
ドマイナーアニメねぇ、君こそやたらその分野詳しいやん。つかさ、わざわざ学校に潜り込んでまで会いに行ったんだ?! それちょっとコワイよ?
「分かったよ。わたしの方からルリさまにうまく聞いてみる。安心しな。たぶんポー君のカン違いだから。ルリさまはキミを裏切るような、そんなヒドイ子やないし! わたしが保証するし」
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とはゆえ。
どう彼女に問い質そう? もし仮に、ホントにポーくんのゆう通り、違うオトコに乗り換えてたとしたら、いったいどーする? わたし、彼になんて報告すんの?
「うぅ、自己嫌悪。こんなコト考えるなんて、ポーくんにはあんなコトゆったクセに、自分も親友を疑ってるやん」
ゆわれてみればルリさま、ここ最近姿見てへんな……。最後にカオ合わせたんはアステリアでのドタバタ騒ぎのとき……か? そう思ってたらなんだか急に会いたくなったぞ。
行くか。魔法学校に。
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その日の放課後、家に帰るなりアステリアへの入口に向かった。
安易に異世界に行けるなんて非常識も甚だしいが、もともとわたしは魔女っ子の異世界人。そーゆーイミじゃ、こっちの世界がむしろ異世界なんやし里帰り? みたいなもんやよね。
魔法学校……には、実はわたしも(あまり通えてないけど)籍は置いてるんで、堂々と入校する。
校舎周辺は緑が多くて、まるで公園か庭園にいるような落ち着きを感じ、心健やかな気分になる。ところどころに池や川とかもあって、そこに陽光が当たってキラキラ反射してて、橋を渡るたびについ立ち止まって、穏やかな景色に溶け込む水鳥たちを眺めてしまう。
ちなみにすれ違う生徒たちも多種多様で興味深い。
――もともと通ってた魔女学校には人族の女生徒しか居なかったから、男子学生や魔物族の生徒が大勢いるってのは様々な点で開放的だし、いいコトじゃないかな。
などとよそ見ばかりしてると、なんせ久しぶりの登校だから迷子になってしまい、若干オロオロしながらやっとこさ教科棟に着くと、どうやらもう放課後で、帰り支度をする子や部活に出る子たちで廊下が賑やかになっていた。
「あの、すみません。ココロクルリさんは? 確かこのクラスやと思ったんですが?」
クラスメートっぽい生徒を捕まえて尋ねると「ああ、彼女なら今日も図書館よ」と教えてくれた。
「あなた、彼女の知り合い? 昨日も別の人が訪ねて来たけど、……お祓い?」
「は? お祓い? いいえ違います。気にせんとってください、有難う」
お祓いって何なんよ。
ちょっと不審者に思われちゃったのかな?
ちゃんと制服着て来たし、そんな目で見んとってよ。
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図書館の入り口でルリさまに会った。
いつものようにすそ広がりの黄色いミニスカート、上はグレーの学校指定服を着てる。なんだかチグハグなのに彼女にはそれが似合ってるからフシギ。
ルリさまはわたしをムシして図書館の奥に進んでいく。シカトやなく、わたしに気付かなかっただけ、だって普段わたしここに来ないんだもの。いるはずの無い人がいるって思わんでしょうし。
ルリさまが腰を落ち着けた場所を確認すると【自習ブース注意】と書いてあった。注意って何よ?
ブースは、勉強の障害になる雑音を防止するためか、四方に分厚い壁があり、同じ建物内でもいっこの独立した空間になっている。街でよく見かけるコーヒーチェーン店をイメージさせる広さと内装だ。
見渡す限りルリさま以外に利用者は誰一人いない。声を掛けるんなら今かな。
――と思ってたら、彼女の席の向かいに座った人がいた。背格好からしてオトコだ。ザンネンながら背中を向けてるんで顔かたちはつかめない。ポーくんの証言通りかなり体格のおっきな人物だった。
彼……は、わざわざ元いた席から移動したようで、気付いたルリさまが手を振って招いていた。
「ルリさま、ニコニコ笑って挨拶してる……!」
「ご注文をどうぞ。何になさいますか?」
へ? 店員さん? がヘンなカオしてた。わたし無意識に出されたお冷をすすってたようで。
「あ? え? ここ、喫茶店やったんですか?」
「いいえ、ここは図書館です。しかし学生支援施設でもありますんで、お店、というわけではないのですが、わたしは接客関係の魔法企業に就職したくてここで給仕の真似事をしています。すみません、オジャマでしたね」
「ち、ちょっと待って……クダサイ。じ、じゃあ、モーニングセットをひとつ……」
「申し訳ありません、モーニングサービスは朝の10時まででして、この時間はちょっと……」
「あ……そっか。ごめんなさい」
ひいぃ恥かいたぁ!
今もう夕方5時前や! 昨日から起きっぱなしで昼夜の感覚がなくなっちゃってたし!
「何かお召し上がりになるのでしたら、オムライスセットがありますよ?」
「あ、じゃあそれで」
学生証を提示して注文する。こうすると無料で飲食できるそうだ。知らんかった。これから大いに利用しよう。
「済みません。あのふたり、いつもああやって勉強してるんですか?」
注文品を届けてくれた店員さんに再度質問する。
「え? ああ……そうですねぇ。――でもあのう、あの方々とはどういう……」
「い、いえ、その。クラスメートなんですが、結構頑張ってるんで負けらんないなぁって」
「そう、ですか。ええ、ここのところ毎日頑張ってらっしゃいますよ?」
わたしの手元を見ながら答えてくれる。
そのときわたしは水無月マナから与えられた課題の、マンガのネームを描いてた……! 見られた! ササッと隠す。――カンゼンに手遅れですが。
「アハハ。ま、毎日、ですか?」
「ええ、毎日です。毎日お会いになられてます」
そ、そーなの? 毎日?
そりゃちょっとキナ臭いなぁ……。
「……あのう。なんならわたしヒマなので、お二方をさり気なく観察しましょうか?」
な、急に協力的やねぇ。……でも考えてみると、店員さんならお客の様子、窺いやすいか……?
「だったら可能な範囲で良いんで。お願いできますか?」
暗闇姫ハナヲ作業着ver
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「どうぞ。オムライスセットです」
「う、ウンマあッ!」
「お口に合ったようで良かったです。では続き、頑張ってくださいね」
ハズイよ。
けど有難う。
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…………。
「――っつ! ヤバッ!」
突っ伏していたテーブルから跳ね起き、ヨダレを拭う。
わああッ! オナカふくれて眠くなっちったしッ! てか寝ちゃってたしいッ!
寝ぼけた思考の回復と記憶の整理と状況確認を同時にこなし、ルリさまのいたテーブルを見る!
「ハナヲ。いつからいたの?」
「うっわああああッ! ルリさまッ!」
「わあ、ビックリした。そんなに驚かなくてもいいじゃん」
さっきのオトコはもう居なかった。
「あの、ルリさま」
「何なの? ――あ、分かった! わたしが自習室にいたのが珍しくてちゃんと勉強してるか見張ってたんでしょ! やっぱりね、わたしだって頑張るときは頑張るんだからね!」
怒ったルリさまの、ふくれたホッペがやたらカワイイ。
「いや違うくて」
わたし、ここでルリさまにウソついたり誤魔化したりするのはアカンと思って。
「実はポーくんに頼まれたんだ。彼、ルリさまのコトをメッチャ心配してる」
「え? ポーが? わたしを? なんで?」
事情を説明したらコロコロ笑い声を立てるルリさま。
「何よ、わたしが浮気してるっての? そんなワケないでしょ! ホンットにバカなんだからアイツ」
「でもさ。さっきもルリさま、知らんオトコと仲良くベンキョーしてたよね?」
「あーアレ、見えてたの? あの人は元学校のセンセイ。この場所で暮らしてるユウレイなの」
「はい?」
「魔法学校建てたときに、領内の浮かばれないユウレイを募って警備員させつつ住まわせてあげてるんだって」
「――で、あの人がユウレイ?」
「ウン。初めてここに勉強しに来た時に気に入られちゃって。勉強教えてもらう代わりに2週間通い詰めで話し相手になってくれって。担任の話だと、1日でも欠かしたら一生憑りつかれるそうだし、せっかくだから人助けだとおもって勉強頑張れよって言われて、ね」
「はぁ……」
「でね。定期テストの苦手科目の成績、スッゴク上がったんだよ! あの人のおかげなんだよ。ホントに感謝だよ」
ルリさま、ウソはゆってない様子。
うんにゃ、だいたいウソなんてつけない子やったよ、ごめん。
「じゃあポーくんの電話に出なかったりしたのは?」
「勉強中に出れるワケないじゃん」
「約束したのにデートすっぽかしたのは?」
「デート? じゃないけど、約束してた時間と勉強の時間が被っちゃったから」
「メッセージをなかなか返さんかったんは?」
「もお。今さっき、勉強後に返したわよ」
ポーくん。つまりそーゆーコトだ。
「ルリさま。ユウレイさんとの約束はいつまでなん?」
「ちょうど今日で終わったよ。彼、これで成仏できるってお礼言ってた」
「だったら明日、久しぶりにウチに夕ご飯食べに来なよ。陽葵にオイシイもの、作ってもらうよ」
「ホントウ?! やったあ!」
良かった良かった。無事解決やんね。
「――あれれ、もう店員さん、帰っちゃったんやね。お礼言おうと思ったのに。ここの学食、ただだったんやんね。メッチャおいしかったよ」
「店員さん? バカなの? ここは図書館だってば。学食なんて出るワケないじゃん。ましてやタダなんて」
「けど店員さんが――あ。……そか、あの人も」
「ユウレイでしょ。あー、そーだよ。ハナヲも気に入られちゃったんだ」
わたしの横にポツリと立ってる人。店員さんッ!
「ご来店、有難うございました」
「ひゃああぁ!」
――わたし、この人と約束しちゃったんだよね。
「オムライス、スッゴクスッゴクおいしかったです」
「はい。またいらっしゃってくださいね。ずっとお待ちいたします」
「ウン。また食べに来ます。必ず」
なんて。
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その図書館内の自習室、入学時のしおりにもちゃんと注意書きされてあった。
それでやっぱり気味悪がられて近寄る者は普段ほとんどなく。
なので珍しく利用者が現れると、ユウレイさんたちは一生懸命のおもてなしで応援しようとするらしい。
後日判明したんやが、実はポーくんも別のユウレイに気に入られてたそうで。
「フクシュージン。今日ハ約束ノ月命日ダヨ、図書館ニ参ルカラ休ムネ!」
「もしかしてそれ、女の子のユウレイか! どーせそーやろ?!」
「ゆうれいニ、男モ女モ関係ナイネ。ボクハタダ、シタ約束ヲシッカリ守ルオトコダヨ」
はいはい、ゆっとけ。
「チョイ待て。んじゃわたしも行く。約束のオムライスを食べに行く」
わたしはあくまでキミの見張り役なんだからね。少しでもルリさまを裏切るようなマネしたら、許さないんだからね!
などとツンデレ的に言い訳し、ウキウキと魔法学校ユウレイ図書館に赴くのであった。
おわり。
――「はっき」に続く……のかな。
20220410ブクマ145件目感謝
ずっと「はっき」の前日譚と称していますが、ハッキシ言って「はっき」みたいなもんです。
1話完結って案外楽しくてワクワクします。実は自分に合ってるかもです。
「文なげーよ。読みづらいし飽きる」って声が聞こえてきそうですが。
でも。この後書きをお読み頂いてるってことは、それでも我慢して最後までお付き合いしてくれたってコトなので、ホントにホントに厚く感謝です。
次回もどうかよろしくお願いします。有難うございました!




