ごじゅう! 終わりの手前
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
コト。
シンとした食堂内に、グラスの置く音が立った。
「――……ハァ、また貴様か。性懲りもなく」
うざがるポルタヴィオンにペコリお辞儀した惟人の横で、わたしもとりあえず一礼する。「ナディーヌは座って良し」とゆーが、彼を差し置いて座れますかい。
「お父さん。陽葵のコトや」
「あー、もう言うな。不味い酒がいっそう不味くなる」
ポルタヴィオンのま向かいで酔いつぶれてつっぷす漆黒姫が、「ガコゴ」といびきで同意した。器用なやっちゃね。
「お父さん。陽葵のコトや」
「繰り返すな。聞こえてる」
「わたしたち、惟人と一緒に暮らしてんねん。知ってた?」
あ。
そのカオ。
初耳ダッタンデスネ?
「な……な……な……」
「ナイショにしてたワケやなかったよ。ただ話す機会が無かっただけ」
「な……な……な……」
「成り行きでね」
「なーッ! 何をアホ言うとるのだぁーッ!」
その「な」やったのね。
ポルタヴィオンが波打つ衝撃弾を惟人に当てた。彼は避けなかった。
跳ね飛ばされて壁ぶち当たる。少しカオを歪めながら抵抗せず正座した。
「惟人!」
「オレは大丈夫」
いやキミ、額から血、垂れてるし!
「お父さん! 惟人が勇者の責務を放棄したのはお詫びします。頂いた能力を返せというなら返させます。ただわたしや黒姫と暮らすのは認めてあげて」
チョイチョイ手招きするのでお父さんに寄る。
小声で、
「アイツ……二股かけてやがったのか。許すまじだな。ナディーヌ、黒姫、ほんに不憫よのう」
「そ、それはカン違いや。彼は陽葵一途や。わたしの付け入る余地は無し」
惟人が声を励ます。
「別にオレはあなたに仕えるつもりで魔物たちを倒していたわけじゃないです。それが正しいと信じてやって来たことです。それが世の中のためになると……。けど今は違う。人族には人族の想いがあるように、魔物族にも魔物族の想いや生き方がある。両者の共栄は難しいのかも知れない。それでも認め合う事は出来るんじゃないかとオレは思います」
指でテーブルを叩くポルタヴィオン。
イライラが伝わって来る。
「要領が得ん。何が言いたいんだ?」
「魔物退治はもうカンベンしてください。それと、今後、魔物に危害を加えるというのなら、オレは魔物側につきます」
ポルタヴィオン、挙手。
給仕がそそくさと梅酒入りの瓶を運んだ。乱暴にグラスに注ぎ、あおる。
「――で、ジャマなオレを倒すと?」
「あ、いえ。あくまで可能性の話です。敵対するつもりはありません」
「だから二股を赦せと?」
「ち、違います。オレは……」
酒瓶を取り上げてポルタヴィオンの正面に立つわたし。
「マジメに聞いたってや、お父さん。わたしは惟人と陽葵が元気で楽しくいてくれるのが一番の望みなんや。そこにお父さんが加わってくれたら更に嬉しいと思ってる。……ホントはここに陽葵も連れて来たかったんやけど、いまお務めから手を放されへんってゆーから、お父さんに会わせられへんねんけど、……その、お父さんのコトは陽葵も気にしてんねん、それはホンマやねん!」
ポルタヴィオン、腕をついてカオを隠した。
ハァと嘆きのような息を吐いた。
「黒姫お姉チャンならさっき来たよ。惟人クンを解放してやってくれ、魔物にこれ以上悪さをしないてくれって。土下座する勢いで頼んでたで? なんなんアンタら?」
寝てると思ってた漆黒姫が横入り。
陽葵が先に来てたって?!
あの子、そんなん何もゆってなかったで?!
「イイコぞろいで寒気する。おちおち寝てられへん」
「リラ。聞いてたんやったらアンタもお父さんにお願いしたって! 陽葵姉ちゃん好きなんやろ」
「グガー」
わざとらしいイビキで返事された。こんのぉ。
正座する惟人を踏みつけようとするお父さんと、その脚をつかんで抵抗する惟人。
もーっ、何やってんの!
「わたし、惟人に頼まれたんや。陽葵とお父さんを仲良くさせてくれって! それにわたしの望みも付け足したい! 惟人とも仲良くして! 足蹴にするんやったらわたしを足蹴にしたらいい!」
「あーッ? お前ら一体何や? 自分より他人のコトばっか。きしょくてたまらん! 正直バカ集団ばっかで付き合いきれんわ」
漆黒姫、食堂を出て行こうとする。
それをポルタヴィオンが止めた。
「待て待て待て。出て行くのはオマエじゃない。オレだ」
「は?」
「最も素直でないのは漆黒、オマエだぞ。ナディーヌや黒と仲良くしたいんだろ? 長期間屋敷にこもって寂しかったんだろ?」
「ハハハ。知った口をきくジジさまやね。まーるく場を収めたいとか思ってんやったら逆効果やで? アンタを一番嫌ってんのはわたしや。お母さんのカタキ。アンタはな」
フムとうなづき漆黒に歩み寄る。
心配し間に立ったわたしをヒョイと抱え上げ。
「うわッ?!」
そのまま漆黒も持ち上げられた。
「なあっ?!」
「お前ら。口だけは達者だがまだまだガキだな、軽い軽い」
ワーハッハ。
どこのどの部分がツボなのか。
さも愉快そうに肩を揺らせてから、わたしらを降ろした。
「さてと。オレは出掛ける。しばらく帰らんのでな、留守は頼むぞ?」
「出掛ける? どこへ? 何しに?! まだ完治してないでしょ!」
ゴオシゴオシと頭を撫でられた。
「完治? しとるよ。迷子のロサンを見つけてやらねばならん」
「ろーさんはわたしが探しに行くから。お父さんはとにかく大人しくしといてよ」
「夢枕でな、かーさんがな、『今度の子はもっと大事にしてあげろよ』って怒鳴るんだ」
グラスに残った梅酒を飲み干して。
「したいようにする。生きたいように生きる。それだけだ」
「ちょ、陽葵たちのコトは?!」
「ハッ! そもそも親の赦しを乞う性格かぁ、お前ら? 好きなようにし、自分で責任をとる。お前らも、オレも。……な、そーだろ、漆黒?」
「…………ウザ。死ね」
「そうそのカオ。可愛いぞ」
通りがけに惟人を蹴りつけようとして避けられ、殴ろうとしてカウンターを入れられた。
よろめき鼻血を垂れ流しつつ、「いいぞいいぞ」と大笑いで出て行った。
「コケて頭打って死ね」
漆黒が背中に呪いの言葉を浴びせたからか、ポルタヴィオンがくねくねダンスしながら戻ってきた。
「ナディーヌ。オレ、死ななくて良かったぞ。死んで冥界に行ってたら、お前をたぶらかしたヤローを見つけ出して締め殺すところだったしな。ソイツ命拾いして良かったな」
コケてアタマ打って死んでクダサイッ!
ハナヲ「あけおめさん!」
次回で終わりかな? と思います。




