よんじゅし 何百年ぶりかの親子会話(4)
惟人が黒姫をたぶらかしたとゆう。
「か、カンベンしてよっ。惟人はなーんも悪くないでしょ? 身勝手な物言いすんなって」
「ヤツはその昔、オレの教えを乞い、光の加護を得よった。それなのに、あろうことか裏切ったばかりか、主人の大事な娘にまで手を出そうとするなんて……!」
アイツだけは赦せんとポルタヴィオンが吠えた。
よくある父親の叫びかとスルーしかけたが、眼がマジイキしてるカンジで引いた。
それを聞かされたわたしも他人事やないとビビった。
前世でわたしも兄さまとその、……仲良くなっちゃってるし、キョウちゃんとのコトもある。片想いなんやが。
ゾゾ気が走って思考をストップさせた。
「……お前いま、オトコの事を考えてたな?」
「め、滅相もないよ。いやつーかさ、お父さん、キモすぎちゃうか! 干渉しすぎを通り越して狂気の域に足ツッコんでんで!」
ポルタヴィオン、右の手を天に持ち上げ、
「反転。怨敵アステリアめがけて前進!」
と号令した。
ザザッと整列し直した軍隊が、川沿いの細道を行進していく。
「ま、待って! どこに行かせるん?!」
「無論、トゥールーズ城だ。破却せしめた上に、下郎コレットを成敗する」
「ち、何ゆってんの! そんなコトしたら大ごとになるし!」
「大ごと結構。それで黒姫が救われるなら、大いに結構」
「結構ちゃう! そんなんしたら陽葵、……えーと、黒姫が救われるどころか怒る! アンタと大ケンカになる! そんで、わたしも怒る。親子断絶するッ!」
「なぜ? 害虫を払ってあげて、感謝されるはずだ。怒られる道理など無い!」
わたし、必死の通せんぼをする。
コレットに危害が及ぶ……それはあんまし心配してない。
だって彼は強い。
ポルタヴィオンに簡単には倒されない。
わたしが心配してんのは、こんなバカげた親子の騒動に巻き込まれた兵士や民たちだ。
遠路他領から連れてこられた兵、既に戦闘で死傷を被った兵、そしてアステリア領内で避難や自営を余儀なくされた村や街の人々――。
そんな関係者たちへの影響や。
それと当たり前ながら、今回のコトで悪化した親子関係も。
もうこれ以上、迷惑をかけるんやないッ!
バカオヤジ!
「……何だと? 親に向かってバカだと?」
「そーや。アンタはバカ親や。子供に説教されて情けないと思いっ!」
ピタッ! と兵団の歩みが停止した。
「……ナディーヌ。ずいぶん生意気な口を利くようになったな。ちょっとばかり、親を怒らせすぎたな。……良かろう。これより先、進軍を続けるか、世迷言に付き合うか、条件を与えてやろう。――オイ、ノースジャバーウォック。前に出よ」
ノ、ノースジャバーウォック?!
その名を聞いておののいた。
だって、惟人さえ遭遇したコトのない伝説の怪獣なんやろ?!
「このオレの従獣に勝てたら、お前のホンキ度を認めてやろう。しかし敵わなければ、オシリペンペンの罰をくれてやる!」
お、オシリペンペン?!
公衆の面前で?!
わたしダッシュで逃げた。
このオヤジは昔からそーだ。
自分の意思をガンとして実行する。
マボロシの怪獣と戦って勝てる見込みなんてないッ。
幾らなんでもムリッ。
――と、女の子に行く手をふさがれた。
わたしと同年代くらいの子。粗末な身なりで、まるで奴隷のようやった。
若葉色の髪を地面まで延ばし、首輪をつけて、そこからジャラジャラした鎖を垂らしている。
「ち、ちょっと! キミも逃げるよ! バケモノが襲ってくるよ!」
手を取ろうとしたら、「スッ」と引かれた。
「――アナタ、敵ね?」
「て、敵?」
背中でポルタヴィオンがわめいた。
「敵ではないが『困ったちゃん』だ。お仕置き対象だ。死なない程度に懲らしめろ」
「あいあいさー」
オナカに穴が開いた。
そう思った。
吹っ飛ばされたわたしは、全身の力が抜け地面に這った。
そのクセ、胸がドスンと固まり苦しい!
出発前に食べたものが、ぜーんぶ吐き出た。
魔法紹介④「火弾と火爆」




