04話 ハーフポテトなわたしたち [ ハーフポテトな俺たち ]
「ハナヲちゃんッ、旋回、右ッ!」
「はいっ! 撃破、2体ッ!」
「後方、トビラ!」
「首尾良し、完死3、逃亡2! 後ろッ、キョウちゃん!」
「うんっ、分かってるっ、アリガトっ! ハナヲちゃん!」
取り逃がしを見送ったキョウは、今日も今日とて、鮮血にまみれた面をニッコリと振り向かせた。……だからやめろ、ソレ。メッチャこわいから。
亡者払い、通称防人にデビューしてから4日経った。
否応なく息の合って来たふたり。
「ハナヲちゃん。シャワー入っちゃいなよ」
「先入って。わたしはあとでいい」
ショーケース内の結城実柑ちゃんフィギュアを凝視しつつ、ツンケンと応える。少々怒モードなのは、この子と同じ格好をさせられているからだ。
「メイド服。実柑ちゃんとお揃いで、とっても似合ってるよ。あっそうか、分かった。ご機嫌ナナメなのは、着替えたくないせいなんだね?」
「アホか、ちゃうわっ!」
「カワイイよ。ちなみに明日はコレね。アハ、今からタノシミだねっ」
「……これはレロマンガ先生。ただのTシャツ。もはや衣装ですらない……」
このよーなやり取りも徐々に慣れつつある。
「なぁ、キョウ……ちゃん」
「なーに?」
「アンタのゆう人探しって、ひょっとして女の子?」
「うん。彼女」
答えてはにかむキョウ。しかし一瞬寂しそうなカオをし、それをムリやりの笑顔でごまかした。
「聞いちゃいけなかった?」
「いいよ……。彼女って言っても元、ね。前世で別の人と結婚して死んじゃったんだ。七生の刑を受けたって聞いて助けに来たんだよ」
……そんな目、すんな。
悪かった。
「ハナヲちゃん。着替え、ここに置いとくね?」
「レロ先生は無かったよね。これならどーかな。ちゃんとした戦闘服だよ」
戦闘服……ねぇ。
「まじもちるるも。そーきましたか……」
手に取り、タメ息。しかし着るしかないので、着る!
この部屋に来てからコスプレしかしてない。
呆れ心地で部屋に戻ると、テーブルに暖かな食事。大好物のチーズハンバーグ!
うおーっ、メッチャおいしそーだ。
……くうっ、まったく卑怯なヤツだ。
「さっきの話やねんけど。明日からわたし一人で頑張ってみる。キョウちゃんは蜘蛛の糸を伝って、別の部屋をのぞきに行けばいいし」
「……」
「不満?」
「ううん、そうじゃない。気遣ってくれてアリガト、ハナヲちゃん」
何か言いたげだな?
そのときはそれくらいしか思わなかった。
「おいしー!」
「そお? 喜んでくれて嬉しいよ、もっともっと食べて」
勧められながら、フォークを置く。
「どーしたの、ハナヲちゃん?」
「……あの棚の同人誌・エロイのぜんぶ捨てて!」
「えーと、それはムリ」
「こわいんやって。じゃあ、今夜からバルコニーで寝て」
「やだよぉ。そんなに怖いならボクが一緒のベットで寝てあげるから」
「それがコワイってんの!」
「……ハナヲちゃん。ひょっとしたら同人誌に妬いてる? ボクがえろ本読むのを嫉妬してる?」
「そんなんとちゃうわっ! 捨てたる、ぜーんぶ、捨てたるっ」
「アハハ。目が本気だね?」
コイツとの生活も慣れてしまえば悪くない。
なんとなくそー思えたオレだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シータンとサラさんからもらった魔剣、双妖精を振りかざし、目前の亡者一体を焼き払った。そのまま【蜘蛛の糸】をも焼き尽くしてやろうと思ったが、ウネウネしてるのがキモチ悪くって狙いが定まらずダメだった。
踵を返し、トビラに近接する亡者らに八つ当たりの魔力砲をぶつける。3、4体がいっぺんに飛散した。
そこで最後の鐘とベル音が鳴った。
バラバラ……と肉塊が散らばる。
嘔吐いたが、亡者の成仏が早まるんだと強く心に言い聞かせて耐えた。
それから1分もたたない間にツタが消えて、コインが残った。
その頃合いになると、キョウちゃんがバルコニーに帰還していた。若干、肩を落とし気味なのは、今回も成果が無かったせいだろう。
「いつもアリガト、ハナヲちゃん」
「また明日があるって。そう気ィ落とさんで」
キョウちゃんは戦闘中、隙を見つけては別室(房)を訪ねている。行方知れずのカノジョを探すために。そしてついでにシータンも探してくれている。
最大限の協力をしたいので、自分も日々魔法の技を磨き、亡者たちと相まみえている。
タオルで、意気消沈したキョウちゃんのカオを拭いてやる。
メゲんな、さっさとフロに入って来い。
「いつも優しいね、ハナヲちゃん。ボクを待ってる間、オキニの同人誌存分に見てね」
うひっ。バレてたー?
「そ、そ、そ、そんなん、ちっともキョーミあれへんし。やっぱし燃やすしかない」
アハハと笑い立てた後、不意にキョウちゃんが真顔になった。
「ひとつ言ってなかった話があるんだ。今更なんだけど」
「な、なに?」
本棚から月の満ち欠けが紹介された冊子を引っ張り出した。
「明日からはしばらくふたりで戦おう」
「は? どーして? 何でいまさら?」
「ゴメン。説明不足だよね。この月齢表で言えば、今日は望。つまり満月だったんだ」
「うん、それで?」
「明日から徐々に月が欠けていく。月の光が弱まれば弱まるほど、亡者は数を増し、力も強まっていくんだ」
事態を飲み込んだオレは、イラスト表をもう一度眺め直した。
「立待、居待、寝待、下弦……」
「この表で言うと大潮から中潮になって、小潮……で、新月。亡者最強の日」
口をパクパクするオレ。
そーか! そうだったのか!
オレは大きな思い違いをしていた。
思わず大声でわめいてしまった。
「今日の相手は実はメッチャ弱かったって?! 明日から敵がどんどん強くなっていく……そういうコト!?」
むろん自分も場馴れしたやろし、前に比べれば強くなってたって思う。
でも、それだけじゃなかったってコトかよ!
「わたしが強くなった。――というより相手が勝手に弱くなってたんや?!」
ブルッと身中が震えた。足の力が抜けた。キョウに支えられて、どうにか体勢を維持する。
「なんでっ! なんでそんな重要な話、もっと早くゆってくれんかったんっ!」
「……ご、ごめんなさい」
「わたし……自分が強くなってて、ちょっぴりずつ自信が持て始めた……。もっと、アンタんために役立って……、こんなわたしでも頑張れるもんやねんなぁって……。やのに……」
「違うよ! それは違う! ハナヲちゃんは十分強くなってるよ! ホントだよ? 確かに相手はパワーダウンしてた、でも、それ以上にハナヲちゃんも強くなってたよ!」
何を言ってくれようとオマエのなぐさめなど耳に入らん。
「な、聞いていい?」
「なに?」
「亡者との戦いで死んでしもたら。……いったいどーなるん?」
相好をくずしたキョウ。
「死なないよ? ハナヲちゃんは。ゼッタイに死なせない」
「いい。そーゆー気休めは! 殺されたらどーなるん?!」
「……ハナヲちゃん」
「おしえてっ!」
「地獄の底で再生する。そして七生の罪が一つ減る」
「なるほど……。死んでも終わりやないのか。部屋とられるよりかはマシと?」
「……恐ろしく前向きだね、ハナヲちゃんは」
「そりゃ……望みがあるってのは有難いからね」
「不安にさせちゃったね」
だからさ。優しすぎんだよ、キョウちゃんは。
「よっく分かった。明日からも留守にしていいよ! とっととカノジョ見つけて来てや!」
「ハナヲちゃん」
「わたしはキョウちゃんのオホメの言葉を信じる。真に受けて自信過剰になる。やからアンタも、わたしのなけなしの親切心を存分に利用したらいい! どーゆー形にしろ、わたしらはチームや! 互いに援け合って、信頼し合ってこそチームやって、その一点を念じよう」
キョウちゃんをこづく。
「……同人誌、いつでもどれでも見てね」
「ま、まだそれゆう?」
台無しな男や。キョウちゃんよ。
――やるときはやったる。意地でもな。
「カノジョ、早く見つかるといいね」
言ったつもりが声にならなかった。……ナニ緊張してんだ、オレ。




