にじゅはーち 戦場奇想曲
文と絵、両方好き。
手間なのは仕方ない。好きなんだもの。
うっかりしてたよ。
バズスがいないと瞬間移動が出来ん!
ーー山裾の草木をかき分けてかんなぎリンとふたり、戦場に向かう。
わたしはウンザリし始めてたが、リンはわたしと違って「戦場なのにまさか!」 のピクニック気分? なんかやたら楽しそう。なしてそんなにウキウキしてられるん。
「センパイ。リーマン時代にこんなコトがありましたねぇ。――ほら、顧客先からの帰り。乗ってた車がエンストしちゃって」
「ん? ……それってたしか、単にガス欠やったろ。リンが給油をメンドーがったせいで」
「まだ持つと思ったんですもん。山道で車が動かなくなって。あのときセンパイ、麓のガソリンスタンドに行ってくれたんですよね」
「どーも話を歪曲させて憶えてるなぁ。アレはリンが『崖下に貝のマークのスタンドが見えます』って叫んで、わたしが止めるのも聞かずに斜面を駆け下りて行ってもーたんやろ。わたしはそれを追い掛けただけ」
「だって。真っ直ぐの方が近道だと思ったんですよ」
何をゆっとるか!
ホントあのときは焦ったんやで。
田中のヤツ、妙に責任感じて暴走して……。
「センパイ、ぐねぐねの車道を全速力で走り降りて。結局わたしより早くガソリンスタンドに到着しちゃったんですよ。待っててくれたんですよね」
「そりゃそーや……下手すりゃ捜索願を出さなきゃアカンと思ったし、こっちは必死で」
「あのときの一生懸命走ってるセンパイのカオ、素敵でケッサクでした」
「……ケンカ売ってんのやね、リン? 見てたんなら引き返して欲しかった」
ハー。もう思い出し禁止。ロクでもない昔話。もーいい、もーいい。
まったく苦々しいなー。記憶のフタを閉じよう。
そしたらリン、ふふふと笑い。
なんやのそれ。そのカオ。
不快なんすけど。
そうそれや、それ。そのカオやって!
やたらカワユク微笑んでるし。
逆にブキミで不安にナリマスから!
「……あのさ。わたし、ひょっとしてそんとき、何か仕出かした?」
そう聞かざるを得ない。
「センパイ、ハーハー肩で息を吐いて、汗をダラダラ流しちゃって。――で、そのときわたしにこう言ったんですよ」
「…………(ゴクリ)」
どうにか急斜面を降りきったところに頃合いの良い岩場があった。ちょうどいい足場に思えた。一段落だ。
――そこに、武市くんが、ハーハー苦しそうに息を吐きつつ突っ立ってた。
かなり苦し気なカンジで。やたら汗を垂れ流してて。
って、武市くん?
山の中腹にいたはずやん?
ここまで走ってきたん?
……なんかわたしを睨んでる?
「勝手に行動すんなよ。相談無しの頑張りは自分のためだけにとっとけって。オレはお前が思うほど頼りなくないからな。そのこと、次からちゃんと憶えといてくれよ」
「……あ、その。そーやんね。勝手に行動しちゃって……心配させてごめん」
武市くんが見せた凄みにタジタジになって詫びた。えらく怒ってんなぁ。
ホント驚いた。
あの山の上からどーやって降りて来たん?
ほぼ直線距離で降りたはずのわたしらより早く?
置いてかれたって思ったん?
そんなに必死に追いかけてこなくても。
「フー。ホントやっかみますね」
「え? あ、ごめんリン。……で、わたし、そんとき何てゆったって?」
「…………もーいーです」
リンも怒り出した。
なんやの、もーッ!
ヒューッとバズスも降りて来た。
「作戦立てんとイカンげや、ペロペロキャワイーちゃん。軍事において単独行動は厳禁ヨ」
「……いまも武市くんに怒られたトコです。ごめん」
また怒りモードの人が増えた。
「いえしかし、これ以上グズグズも出来ません。魔軍がもう崩壊寸前です!」
指差すラルトさんの声は震えている。
圧倒的な人数で押し寄せるヘルムゲルト連盟騎士団に、少数で耐えるアステリア魔軍は完全に崩れかけていた。剛健無双の魔物が次々に斃れ始めていた。
「石像は? 例の石像は見当たらないの?!」
バズスの肩に乗って遠望鏡を探るシータンが首を振る。
その石像の影響で視界不良らしい。
正確な位置は特定出来そうにない。
「とにかく突っ込もう! せめて味方の戦力にならなきゃ!」
「わたしの部隊を投入します」
「頼みます、ラルトさん。わたしらも側面から奇襲をかけます」
キャラ紹介④黒姫ひまり




