にじゅー ヘルムゲルト聖教会
「発端はアステリア内で起きた盗賊襲撃事件。――やが、しかしこれは当初の推察通り、何者かが仕組んだでっち上げの事件やった」
「そうそう。それを解決するために陽葵……あ、ごめん、黒姫がアステリアに乗り込んだんやったね、確か」
アステリアに来た黒姫は三本の矢を召喚。
各村の現状調査に当たらせたところ、実際に襲撃を受けた村は存在せず。
「ただ、魔物族が良からぬ動きをしているというデマがいたるところにばらまかれていた。立ち入りを拒んだ村はひとつやふたつどころやなかったな」
中には自衛のための武装をして、外界との接触を絶った村もあったらしい。
ルリさまが説得に失敗したのもそれらの村だったそうで。
「スピア姫殿下が京師サントロヴィールに赴いたタイミングで騒動が起こったこと。まだまだ村同士のネットワークが未発達なのに、こうも効率よくフェイクニュースが拡散したこと。――ただの偶然やと見過ごすにはあまりに呑気すぎる」
黒姫が目を光らせて力説すると、オメガがそれに乗じた。
「京師サントロヴィール内で起こっている政局不安と、我がアステリア領国で起こっている情報混乱は直接の関連は無いにせよ、この機に地方併合しようと目論むあくどい列強諸侯が現れてもおかしくありませんね。例えばもしわたしがパヤジャタ王なら、大荒れのドサクサに小国を掠め盗るくらいはしようと腰を上げますよ」
堂々と固有名詞を出したね。
確かにその国はうちらアステリアを目の敵にしてるし、それに【ヘルムゲルト連盟騎士団】に名を連ねてるんやしね。
でもいっこ疑問が。
「いい? 今回の件、パヤジャタ一国だけでそんな大掛かりな仕掛け、作れんのかなぁ?」
「暗闇姫ハナヲさま。それ案外ご明察ですね」
案外ってナンデスカね!
「ヘルムゲルト連盟騎士団全体で仕組んだとしても、しょせん4ヶ領の寄せ集め軍隊。まとまりにかけるかもやし、アステリアの土地を分けっこするにはちょっと狭すぎちゃうかな?」
それにスピア姫が即座に反応。狭いのワードにカチンと来たらしく。
「領土はさほどではありませんが、アステリアには肥沃な農業地帯と宝石鉱山があります。なかなか侮ったものではありません」
「……なら、パヤジャタの話に乗って、自領の軍隊動かしてまで奪いに行くのはアリかぁ」
「話が逸れましたが無論ヘルムゲルト連盟騎士団のみが単独行動しているのではありません。首謀者は他にいます」
だ、ダレ?
「――フィルメルク大陸全土に隠然たる勢力持つ集団、【ヘルムゲルト聖教会】ね?」
先読みのサラさんが口走っちゃった。
わたしがゆおうかなって思ってたのにー。……そんな団体、知らんかったけどぉ。
「聖教会はアンチ魔女で知られます。ときどき大審判と称して事実上の魔力保持者狩りを行なっていますし、総主教のポルタヴィオンはかの漆黒姫さまと長年抗争を続けています」
漆黒姫の名前でたー。
あの子といがみ合うなんて相当なツワモノか、カワリモンやなぁ。
「京師サントロヴィールの入り口に魔力封じの石像を置いたのも、きっとポルタヴィオンの仕業でしょうねぇ。我々はアレのせいで散々な目に遭いました」
スピア姫奪還を指揮した黒姫軍が京師手前でこれに阻まれ、全軍弱ったところでヘルムゲルト連盟騎士団の奇襲を受けて追い散らされたわけや。
わたしやルリさまもその石像による体調不良は体験してる。
魔力行使出来んくらいへたったから、そのときの状況はすごーく想像できる。
大変やったね、黒姫。
「あの石像を押し立ててアステリア領に攻め込まれたら、さすがに我々もかなりの苦戦をしますね。魔物族は魔力あっての魔物族ですからねぇ」
オメガの忌憚ない意見に、黒姫陽葵がしかめっ面を再燃させた。
「共闘するしかないね、黒姫?」
「――共闘? ……ハッ、アホらしい。暴走の間違いやろ」
そーはゆーけど陽葵。
味方は漆黒姫だけやないよ?
漆黒姫が有する魔法管理局、領内の人族、親交国のカモデナンディ領、そしてキョウちゃんのいる冥界の人たち。
アステリアを助けてくれる人たちはまだまだいっぱいいるんだ!
「ボクも仲間に入れてくれ。勇者協会のひとりとして」
帰還し発言したのは暗闇姫惟人。いまは完全にアステリア人のコレットに戻っている。
「手分けして四方に救援を求めよう」
散会したのは太陽の昇り始める少し前やった。
ルリさま、村人を説得の図「アンタら言う事聞きなさいっ」




