じゅうきゅ 嘘か虚構か
怯え縮こまる少年の肩を抱いたスピア姫は、
「……あなた、本当は誰なの?」
と優しく語りかけた。
「お母さんがここにいなさいって言ったから……大人しくしてたら迎えに来るって……」
「……お母さん? それじゃあね、ボレル。お母さんの名前、言えますか?」
しかしボレル少年が答えた名前には、誰も心当たりが無かった。
「わたしの勝手な推測ですが」
サラさんが前置きしてから憶測を披露。
「この子は宮廷内の誰かの子供なのでしょう。そして何かの事情で別の誰かが王の役を与えた。もしくは与えるように指示した」
黒姫が咳払いしてそれ以上の発言を控えさせた。当の子供のいる前で話す内容や無い。全員一致の考えでもあった。
「じゃあどうするの? 母親の元に帰すっても取っ掛かりがないし」
ムズムズ身体を揺さぶってルリさまが問う。彼女、ハッキリしないのが大の苦手。
ま。そりゃ、わたしもやが。他の人らだってそうやろ。
「あのさ。今はっきりしてるコトだけ整理したらさ。この子がこれ以上王さま役をせんでいいってのは、確定でいーんでしょ? まずはそれだけで充分やないの?」
わたしの発言で、一同ひとまず気持ちを落ち着けた。
「少なくとも偽装を仕組んだ犯人以外は、反対する者はいませんよね?」
ζ' ζ' ζ' ζ'
けどまぁ。
事情はどーあれ、わたしらのやってるコトは客観的には誘拐なワケで。
ボレル少年をいったん休める部屋に連れてってから善後策の話し合いを再開した。
謁見の間から円卓の間に移動して。
テーブルに夜食のトマトチキンスープとクルミ入りの大麦パンを並べて。
議長は黒姫が引き受けた。
「そもそも救国を訴えてヘルムゲルト連盟が我がアステリア領を眼の仇にしたのと、京師サントロヴィール宮廷内でもめ事が起こったのは何か関連性があったのでしょうか?」
「ヘルムゲルト宮廷が2派に分断し、それぞれが立場を有利にするために魔物族の兵を擁するアステリアを利用しようと思い付いたのは真実です。現に双方から打診を受けました。わたくしは明確な返事を出さないまま今日を迎えています」
2派ってのは、王を利用しようとする派と、新王擁立を図る派、やね。
人ギライのルリさまやないんやが、人はどーして醜い権力争いをするんやろね。偉くなるだけが幸せの道やないんだぞう?
「はっ。魔物をゴミのように嫌いながら、軍事的価値は認めている。ソイツらこそゴミのようなヤツらや……」
ブツクサ独り言ちた黒姫が、ジッと考え込んだのが気になった。
「いっそこのままアステリアであの子の面倒をみるべきやとちゃう? それできっと双方丸く収まるやん? な、陽葵?」
「…………」
「なしてムシなん?」
いつもならここで「黙れ」とガン飛ばされて終わり、なんですが。……それはなく。
「……なんか気になるん?」
彼女の様子がヘンなので再度、ちょっと真剣に聞く。
おかしい。
とつぶやいた黒姫。
この場にいるのはスピア姫、サラさん、ルリさま、そしてわたし。
その全員が黒姫に注目した。
「――気になる。いや、これは確信や」
円卓の間、別名【密談部屋】は魔法加工が施されていて防音対策はバッチリやと聞く。
けども入口のトビラを睨んだ黒姫が「集まれ」と命じると、三本の矢のひとり、オメガがノックとともに入ってきた。
「あの子供、――刺客だな?」
彼の姿を認めるとだしぬけに黒姫が質問した。
小デブ参謀のオメガが肯定のうなづき。いきなしに訊かれてよく対応できるな、キミ。
「正確には刺客の移送媒体ですね。領府敷地内に数体の未確認魔物が侵入しました」
「やはり連れて来たか。ココロクルリ、追跡されたぞ。ミスったな」
えッ?! と悲鳴に近い驚きを上げるルリさま。サーッと額を青ざめさせた。
「まやかしでもニセモノでも、相手はヘルムゲルト王やぞ。あっさり誘拐できた時点で疑うべきやった」
「恐れながら。黒姫さまのご命令通り、かんなぎリンに素性を調べさせたところ、あの少年はやはり王ではありません。まったくの平民、ヘルムゲルトの宮殿に紛れ込んだ、ただのコソドロ少年です」
オメガの報告。
「そうだろうな」
今度はスピア姫が叫び声をあげた。
「そ、それは間違いです。あの子は王ではないかも知れませんが……!」
「すべて自白しました。――スピア姫殿下。失礼ながら、あなたさまは記憶を操作されています。彼はただの泥棒でした」
ハナヲ「もう王さま役せんでもいーでしょ?」




