じゅうはち 黒姫暴露
扉が壊れるのなんてお構いなしの、乱暴な叩き方。
まったく無礼やな。かりにもここは王の間なんやろ。
少年王は震えあがってスピア姫にしがみついた。
「ココロクルリ、アステリアまで跳んでくれる?」
「……しかし。この子の意思をまだしっかり聞けておりません」
「恐れながら姫殿下!」
サラさんとスピア姫の意見がぶつかる。
「うっ?!」
ハイクラス能力者が半透明の姿でわたしの前に立つ!
グッ、と首をつかまれ持ち上げられた。腕力も相当だ。
周囲からは見えてないと直感した。けれども異変だけは察知してくれている。
「ハナヲ?! どうかしたの?!」
わたし、返事する余裕無し。相手の腕を押さえ、魔力を引き絞った。
赤くただれた手を放す男。依然無表情のまま。
魔剣双妖精を出現させたと同時にそれを横に振り払ったわたしは、男が後ろに跳び退ったのを見極め、「侵入された! 透明人間や! 注意して!」と警告を飛ばした。
素早くわたしにくっついたルリさまは妖猫マカロンを呼び出し、「襲え」と指示する。爪を立てたマカロンが鼻を鳴らし、男に飛びついた。
「そこか!」
叫んだのは武市くん。
男に手をかざして能力吸収を実行しようとする。
「武市! 気を付けて! 気配がもういっこある!」
ルリさまに目をやり「ビクッ」と手を止めた武市くんに、後ろから凶器が襲った。ハンマーのようなもので殴打された彼が倒れる。
「武市くんッ!」
「だいじょうぶ! 痛くないッ」
「いや! めっちゃアタマから血が出てるって!」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。オレの血じゃないって。ははは……」
いやいやいや。誰かどーみてもアンタが流した血やって!
「スピア姫殿下! とにかくいったん引きましょう」
「さすがに建物の中じゃ暴れられないわよ」
サラさんとルリさまが相次いで具申する。
ためらいを見せた姫、王を抱擁し。
「分かりました。ココロクルリさん、お願いします」
「了解。行くわよ」
グニャッと部屋の壁がひずんだ。
ζ' ζ' ζ' ζ'
ドドドと地面に降り着いたが、そこは、陽葵のいるアステリア領、領府レイシャルの宮殿内。
瞬時の帰還だ、何とも便利すぎる。
「ただいまー、黒姫」
「……ダレや、その子は?」
「任務完了したよー。スピア姫を連れて帰ってきた」
「ハナヲ姉。わたしはその男の子がダレやと聞いてんねん」
「あ、えーとこの子は……」
答えようとすると、スピア姫が先んじた。
「この方はまだ年若いですが、ヘルムゲルト王その人です」
陽葵、絶句した表情を見せたが無言で玉座を発ち、スピア姫の前でいったん膝をついた。
「まずは無事の帰還、何よりでございました。本来の座にお戻りください」
「有難う、黒姫。早速なのだけど、戦況を教えてもらってもいいかしら?」
「それより姫。恐れながら進言します」
「何かしら」
陽葵……いや、ここはアステリアやから黒姫と呼ぼう。黒姫は、低めた頭をさらに下げた。
「スピア姫。姫の申されるその子供は、ヘルムゲルト王ではありません」
「……え? いま、何と?」
「ですから。現ヘルムゲルト王はこの世に存在しません」
ζ' ζ' ζ' ζ'
息を止めたスピア姫。
驚いた、とゆーより少し怒っている。青ざめながら抗弁した。
「この御方はまだ年少の身ですが、ヘルムゲルト王ですよ!」
「いいえ姫。ヘルムゲルト王は昨年末、不慮の死を遂げています。高所からの転落だそうです」
「……黒姫。どうしてそのような事が言い切れるのですか?」
「1年ほど前、王都軍を追い落としたときにそこのココロクルリとともに王都に乗り込みました。そのときに直接ヘルムゲルト王のカオを見ています」
わたし、ルリさまの方に目を遣った。挙動不審の表情を浮かべている。敢えて彼女の心うちを類推させてもらうなら「アレ、そーだっけ?」てなカオだ。
そう、ルリさまは人間さんの識別が極端に苦手なのだ。……って苦手すぎるやろ!
「スピア姫。わたしからも質問ですが、逆に姫は何故この子供がヘルムゲルト王だと言われるのですか?」
サラさんがボソッと、
「……そういえば。……恐れながら姫殿下は、王に謁見できる身分じゃないはずだわ……」
なんやって?!
あらためて少年をガン見する。
……って。ホンモノか否か、わたしに判るかーい!
「魔女は無法者やから無理やり会えましたが。スピア姫はマトモな人だから会えなかったでしょう。――それに第一。亡くなったヘルムゲルト王は女の子です」
――な。
黒姫ひまり「無事のご帰還、何よりです」




