はち 4人交錯
冥界経由でアステリアに入領。
ここはアステリア領内、王立魔女学校所轄の女子寮。
元わたしの部屋で、いまはルリさまが使ってる。
冥界と接続させたのはこの部屋のクローゼットでして。
既存ルートを利用し開通させたのは、その方が手っ取り早かったってゆーのと、早急にルリさまと合流したかったため。
でも。
「……残念ながら不在のようですね。ココロクルリ」
シータン、惟人、サラさん、それにわたし。
六畳ほどの空間にひしめいた4人は伝手を失い、分かりやすく肩を落とした。
「それにしても。なーんも変わってないわね」
小窓から外の空気に触れ、サラさんが目を潤ませる。
元々はここの生徒だった彼女。
ウミ御前さんにムリやりな任務を押し付けられてムクれてたけど、なんとか和やかモードに気持ちを転換してくれたようだ。
「まだ籍があるようでして、わたし。ここ1年ほど休学扱いになってんです。スピア姫のおかげです」
「そっか。良かったわね、ハナヲ。それならいっそ、日本の学校を辞めてこっちの学校に通えばいいのに」
「それも考えましたが、日本の義務教育くらいはちゃんと終えたいなって思って」
最近になって、人間と魔族が席を並べて魔法を学ぶ【王立魔法学校】も併設されたと聞き、サラさんはとても驚いた様子だった。
そんな前例は皆無。
人魔の共同事業なんて、かつて無かった出来事なので。
「人族代表のスピア姫と、魔物族代表の漆黒姫が手を取り合って開校にこぎつけたのか。……そりゃ彼女が魔物族寄りだと世間から捉えられても仕方がないことよね……」
「わたしはそこで教鞭をとってます。あなたは魔物族が指導者になっていることには賛同できないと?」
嘆息したサラさんに気を害したのか、つっかかるような物言いをするシータン。
サラさんが首を振った。
「違うわ。スピア姫の偉大さと黒姫はじめ、魔女っ子たちの頑張りに感心したの。けれども同時にとても心配してるわ。彼女の身だけでなく、アステリア侯領の行く末も。人間と魔物が共存する理想郷……――その点、勇者はどう感じてるの?」
「単純な感想で悪いですが、既にアステリアは魔物の手に落ちたと周辺国は思っているでしょう。フィルメルク大陸を人族に解放した元勇者のオレが、アステリアの出身だったなんて誰も覚えてないでしょうし、そんな事実はとうに歴史の彼方に消えてますし。それにオレはもう人間側に付く気もありませんし」
惟人が答える。
久々に出現させた勇者の剣を眺めながら、自虐めいた弁。
サラさんの思うほど、今の勇者に求心力は無いと彼は嘆き半分で語ってるようにも聞こえる。
「……そうなのかしら。あなたの存在、決して小さなものではないとわたしは思いたいわ」
「それは……買いかぶりすぎです」
剣をしまった彼は部屋を出て行こうとした。
「いつまでもここにいても仕方ないですし。僕は自力で黒姫と合流します」
「ずっとソワソワしてるもんね?」
彼女が心配で心配でたまらないらしい。
そうからかうと、彼はカオを赤らめ、怒ったようにゆった。
「頼りない妹を心配しない兄なんていないよ。ハナヲちゃんこそ、早くココロクルリを探し出さなきゃでしょ?」
妹と兄か。
まぁ、そーやんね……。
「そうそう。わたしもルリさまを見つけ出すよ」
彼女を見つけて、一刻も早くスピア姫の居場所に転移させてもらわなきゃ。
――ルリさま……、あれ、待てよ?
よく考えたらルリさまならとっくに陽葵の陣営に駆け込んでるかも知れない。
だってシータンの話やと、わたしと惟人をアステリアに来させないように依頼したってんやから……。
「……誰だ?!」
惟人が鋭い怒気を放った。
クローゼットの方角だ。
「わぁ、カンベンでっせ、青鬼だす。武器をしまってぇな!」
――青鬼?!
青鬼の後ろに、ウミ御前さんと武市半平太クンが続いた。
な、なんや、アンタら?!
サラさんとハナヲ




