01話 少女に何が起こったか! わかんないよっ [ 少女に何が起こったか! ]
昭和のドラマ名をサブタイに利用。「にきっ」スタート。
右手にホウキ。左手にチリトリ。
その両方を床に落っことす。
――放課後の渡り廊下。当番の掃除をしていたところ。
「暗闇姫ハナヲッ!」
いまどき希少な坊主頭の男子中学生が、カオを真っ赤にして突き付けてきたモノ。
「……それ、ナニかな?」
あえて聞く。聞いてしまう。
「脅迫状とかに見えるか? 恋文ってやつだよ」
「……はぁ、恋文」
――コレハ、告ラレテルゾ!
カオがカッカしてきた。
待ってくれ、告る相手はオトコ、しかも中坊だ。冷静になれ!
元オジサンのわたしが、男子中学生にラブレター渡されかけてるって、ありえない!
――数か月前。
異世界にて魔女っ子に生まれ変わったオレは、そのまんまの姿でめでたく(?)現世に帰って来た。
そしてこの春、中学に入学。
人生二巡目の義務教育突入となった。……のだが。
「か、考えさせて」
ダメだ。それではNOと言えないダメリーマンのまんまじゃないかっ!
「おや? どーしたんですか、暗闇姫ハナヲさん。奇遇ですね?」
「し、シータン! な、なんでここにいるの! ここ学校ですけど?! しかもなんで制服なのっ?!」
予告もなしに登場したのは、制服の上に【ドテラ】をはおった魔女っ子、シンクハーフ。
呼び名は【シータン】。
キラキラアッシュのストレートヘア。紫紺がかった瞳を持つ、異国感漂うカワリモノ美少女。
「だって……ヒマだから。かまってもらおーと思いまして。それにわたし勉強好きですし」
告白少年のアタマをポンポン叩くシータン。ヤメロ、馴れ馴れしいぞ。
彼はマネキンじゃない、初対面の男子だぞ。
「言っときますが少年。暗闇姫ハナヲはヒトヅマですよ」
「な、なんだって? ひと……づま?」
「そう。ひ・と・づ……、もがっ」
シータンの口をふさぐ。
「ゴメン、この手紙もらっとく。後でちゃんと返事するよ」
「ふぁごふぁご」
キョトーンな少年。
「……まぁいいや。手紙、渡したからな。返事、くれよな」
「うん。ゼッタイ書くよ」
愛想よく手を振り、廊下の角に消えるまで少年を見送る。
「シータンっ! あんまし学校の中、かき回さんといてよ!」
「ツマンナイです」
教室にカバンを取りに行く。もう今日はさっさと帰ろう。
やや薄曇りの空に、飛行機がゆったり飛んでいる。それを眺めつつ、シータンの待つ廊下に出た。
――そのときだった。
心臓が止まった。止まったんや!
ホントウやって! ウソじゃない。
かつて経験しなかったほどの、どえらい苦痛とともにピタリと止まった。
強いて例えると、ひきちぎった竹の断面部でゴリゴリっと。
躊躇なく心臓を掻き出された感覚。
そんなときって、意外に声って出ないもんだね。
今わの際、横に居たシータンも倒れているのが見えた。
シータン、白目向いてる。
……ああ。シィィィーターン。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ぱちくりぱちくり、我を取り戻すと、そこは見慣れぬ部屋。
「いつまで寝てる? 起きろ」
無機質な冷たい床から身を起こし、キョロキョロ。
……んー牢屋? ではなさそう。
仕方なく、エラそうな態度のスーツ男に問い掛ける。
「ここドコ? 要するにわたし、誘拐されたん?」
「違う。ここは私の執務室だ」
「でダレ?」
「浄化部死後受付課のマコトイトーと言う。まあそこに座れ」
「シータンは? あの子も誘拐したよね?」
しかしその問いに対する答え無し。さっさと話を進めようとする。
「早速だが名前と年齢と住所を言え。そこのマイクに向かって」
「なんで? 【ジョウカブ】なんとかってナニ?」
このワカゾーめっ!
説明不足だっちゅーの!
見ず知らずのナマイキ男に名乗る名なんてないっ。
「もう一度言う。ここは浄化部死後受付課。通称【エンマ課】だ。氏名、暗闇姫ハナヲ、年齢は46、現住所は東京都杉並区桃井……」
「ちょっ、待って! いまのわたしの歳は……!」
狼狽するわたしに、ニコリともせず。
「暗闇姫ハナヲ。キミ、先日三途の川を渡らなかったね? 世の理に真っ向から反した罪」
「なッ?」
「死を覆すなど、最悪の犯罪。――よって暗闇姫ハナヲ。キミは【七生の刑】に処せられる」
オイオイ、一方的だな!
死を覆したって、そりゃあ……!
反論しようとした。が、そのとき、マイク装置に付いていた、豆粒大のランプが赤灯。
マイクから、何とハナヲであるオレ本人の声が聞こえだした。
『サラさんがねー、船に乗るなゆーたから乗らんかってんー。だって死にたくなかったもーん』
「ふえっ?」
何口走ってんだ?!
「本名や性別を改ざんし、赤の他人を家族にして、新たな人生を謳歌しようとしている。そんなことが許されると思っているのか?」
「そ、それは……」
『わたし魔女やからムズカシイコトわかんなーい。エヘッ……』
「だまれっ、バカマイク」
マイクをへし折ってやった。
「ふ。そのマイクは本心が透けて見える特殊アイテムだ。一台50万円。弁償できるのか?」
「べ、弁償?」
「ムリならやはり身体で償うしかあるまい。【七生の刑】決定だッ」




