もっかいゆっての補! -シンクハーフと長柄(アルマ)-
「いっき」の挿入話。
◆ 長柄 (シンクハーフ・バレーヌの世話係)
なぜ。
わたしが今回の主役に選ばれたのか?
いえいえ、わたし自身が分かっちゃいませんよ。
まぁ、それは置いといて。まずは自己紹介しますね。
「わたしは長柄。本編ではナース姿でした。覚えてませんよね。色白すぎると暗闇姫ハナヲさんのモノローグで酷評された女です。現在、シンクハーフさまのお世話係をしています」
「……カエ? さっきから壁に向かって何を話してんですか? 体重が大台に乗ってしまって落ち込んでいますか?」
フフ。
シンクハーフさまがまたイジワルな発言でわたしを可愛がってくれています。
ハラスメント最高。
……お察しの通り、シンクハーフさまは他人への気遣いが非常に苦手なのです。苦手というより、嫌いなのです。相手が不快な気持ちになる言葉を吐くのが何よりの快感なんです。なんだかゾクゾクします。
「壁さん、壁さん。聞いてくださいな。シンクハーフさまは、いけ好かないマイペースヤローなのです。そして、そんな主人に仕えているわたしは、大変健気な少女なのです。いまもこうして、ミニスカ・チラ見せ・セクシー魔女っ子なる旧時代的【しゃらんら】衣装を着せられて、さらに心が木っ端みじんになるほどの辛辣な言葉を投げつけられてます。わたしの心は絶頂期です」
「……ほんとうに大丈夫?」
やだ、少し調子に乗りすぎました。
いいかげんシンクハーフさまがマジ顔になってきたので、そろそろ平常運転に戻ります。
「お気になさらず。急に舞台に上がったので、ややハイになっていただけでございます」
ポワンと頭上に疑問符を浮かべて首をかしげたシンクハーフさまでしたが、気を取り直しふたたび趣味……いいえ、仕事に没頭し始めました。
シンクハーフさまにとって趣味と仕事は同義語でございますが、その趣味、星の数ほどお持ちでらっしゃいます。簡単に申しますと【熱しやすく冷めやすい】、そうズバリ、飽き性でございますね。
……あ、チラリと横目で睨まれてしまいました。わたし、声に出してましたかね、これは剣呑剣呑。
……で、今ドップリとはまっておられるのは魔剣づくり。
なんでも先日ココロクルリさまと一緒に訪ねてこられた小っちゃい魔女っ子、暗闇姫ハナヲさんのために剣を仕立てているんだとか。
なんとその剣は魔法の杖と魔法の剣の融合体だそうで、わたしにはナニをおっしゃっているのかチンプンカンプン。
「お昼はどうなさいますか、シンクハーフさま?」
「んー、スイカがいい。八つ切りの半分で」
「承知しました。しかしながら山々が紅葉に染まったこの時季にスイカの仕入れは困難です。鍋焼きうどんにします」
「んー。熱いから氷入れて冷やしてね」
「それでは鍋焼きうどんの名にふさわしくありません。じゃあ代わりに先日ココロクルリさまがお土産に持ってきたキチンラーメンなる珍品にします」
「んー。それ、異世界の?」
「はい。本来は卵をおとしてお湯入れて3分です。ほとんどわたしが毒見しましたが、まだ一袋残っています」
せっかくボケたのに、だいたいの場合、シンクハーフさまは聞いてない。案外ショックです。
大きな【しゃもじ】の形をした、剣と言い張っている物に魔力を込め始めたタイミングでしたので仕方ありませんね。
どうでしょう?
あんなのが果たして剣になるんでしょうか。皆さんはどう思われますか?
やはり病院で検査を受けるべきでしょうか。むろんわたしが。
わたしは注意深くシンクハーフさまの息継ぎのタイミングを見計らい、作業机のはじっこにドンブリを載せました。このドンブリはメイドインジャパン。これもココロクルリさまからの贈答品です。
「シンクハーフさま、ずっとそのドテラを着てますが、今夜のパーティはちゃんと着替えてくださいね」
「んー、それはムリです。このドテラはわたしと一体をなすもの。もう体の一部ですから。もし脱いだらわたしは死んでしまう……」
「御言葉ながら、おふろの時は脱いでますでしょう? なんとなくなのですが、シンクハーフさまがお亡くなりになったご様子は今のところございませんが?」
「あなたは魔女というものをよく分かってない。じっさい湯船の中で一度死んで、転生して、すぐにドテラを着てるから大丈夫なんだと思います」
もはや何を言っているのか、異次元過ぎて分かりません。
やはり病院行きですね。むろんわたしが。
――そのドテラは以前わたしが仕立てたもの。
それまではずっと、男物のTシャツをとっかえひっかえして着つぶしていたから、からかいのつもりでプレゼントしました。
すると今度は着た切りスズメ。ブカブカのTシャツの上にドテラ着用のみという、ド変人丸出しのいでたちで今日もお過ごしでいらっしゃる。逆にあるイミ、偉人の域ですね。
とは言え、わたしもすぐに仕返しされ、今やコスプレ街道をひた走りの毎日です。
そして今月は【お色気魔女っ子週間】というワケでして。
これって完全無欠なセクシャルハラスメントもしくはパワーハラスメント事案だそうですが。これは暗闇姫ハナヲ嬢が教えてくれた日本での一般常識だそうです。目からウロコで勉強になります。
どおりで、最近ひっきりなしに訪ねて来るアステリアお役人の方々が「うひょー」とか「でへー」とか、擬音を発するなあとフシギに思ってましたので、今の世の中、【ハラスメント・ダメ・ゼッタイ】らしく、「それセクハラです」そう呪文を唱えると、一様に彼らは青ざめ、固体化するほどの劇的効果のそのワケも得心が行きましたよ。
「――できた。これであの子にこれを渡せる」
「お疲れさまです、シンクハーフさま。今回こそ、ちゃんと起動できそうなのですか?」
「ハナヲならなんとか使いこなせると思います。だってココロクルリが慕った子だから。わたしも信じようと思ってます、あの子のことを」
そういうところ、ちょっとジェラシー。
しかしながらシンクハーフさまは極度に鈍感ですからね。わたしの気持ちなんて分からない。
「アルマ。ありがとう。コレ。なんだっけ、えーと……」
「キチンラーメンです。ところで昔の名前、やめてください」
「そ?」
「その名前聞くと、忘れた辛い過去を思い出す気がします」
「んー、分かりました。ではカエ。明日のお昼もキチンラーメンがいいです」
アルマなどと不意に生前の名を呼ばれ「ドキッ」としたわたしは、つい「承知しました」と返事してしまいました。もう在庫ないですのに。
うーん、さて明日はどう切り抜けましょうか?
アルジさまのとっておきの逆襲に、心を震わせるわたしなのでした。
FIN




