にじゅさん。 漆黒姫は籠の鳥?
更新します。
絵、好き勝手に描いてます。(文末)
「ひとつ聞いていい? 漆黒姫」
「なーんだい、ハナヲ姉?」
「自分でその魔導書とやらは探そうとせんかったん? 今まで一回も?」
ほう。と感心したような声を上げる。わざとらしいわっ。
「これ言ったら怒られるなぁ。だってメンドーやもん」
「……はあっ?! メンドー?」
「そんなにヒマちゃうのよな、わたし。ゲームしたり、マンガ読んだり、ときどきお仕事したり。やからそんな些末な煩いゴトは、ヒマ人がすればエエんちゃうの? ってねぇ」
たぶん。きっと。おそらく。
アンタは良い死に方せん。
そしてわたしはいま、阿修羅の形相を彼女に向けているに違いない。
ルリさまの使い魔、マカロンがわたしのアタマに飛び乗った。
さらに、腕をつかみ自重をうながすルリさま。
「ハナヲ。わたしらは賭けゲームのために本探しをしてるんでしょ? 漆黒姫さまのいうヒマ人の類じゃないよ?」
……うむ。それもそーだ。つい被害者ぶっちゃった。
わたしらの悶えようを楽しそうに眺めて漆黒姫が続けた。
「だいたい、魔導書なるものが本当に存在するのかどーかも知らんしなー」
「が、がびーん! ちょっ?! もっかいゆって、漆黒姫?! 魔導書が無いかもって?!」
コクコクと漆黒姫。
「何故って。わたし、現物を見とらんもの。代々語り継がれとるだけで」
すかさずかんなぎリンの首を絞める。
「ドーユーコトデスカネ? かんなぎ監督官?」
「せ、せ、せ、センパイっ、落ち着いて、落ち着いてクダサイーッッ。説明しますからぁ」
――魔導書の存在はそれを著したとされる大魔道士【原子】の口伝に頼っている。
つまり彼が魔導書の存在を認めているにすぎず。
闇館内に所蔵しているとゆー話も、彼の証言が発端になって伝承されているとのコトで。
「よーはゲンコとかゆーのを締め上げて、本をゲットすりゃ良ーんやね?」
「そーゆーコトですが、問題はその人物がこの館内の何処にいるか、誰も知らないって話でして」
ちょちょちょちょ待て!
知らんオッサンが自分ちの中でウロウロ住んでて、それでよくキショ悪ないモンやな?!
漆黒姫、アンタもよくそれで平気やな?
「そりゃま、キショイ甚だしいぞ。でも仕方なかろ、この闇館、ソイツが居なくなりゃ、たちまち崩壊してまう設計らしいんやからな。ククク、まるで人柱、呪いのオウチじゃあ」
クククとちゃうやろッ!
「崩壊とか呪いとか、いまいちよーワカラン。つまりはその魔道士が設計して……」
「設計、建築、館内の仕掛けまで、すべてその魔道士が手掛けました。依頼主のオーダーはただひとつ」
「当主が快適に暮らせる家」
「それが何で呪いなんや?」
イカくんをクチャクチャしがみだした漆黒姫。
「その見返りに、当主は闇館の【籠の鳥】になるのがおきて」
「漆黒姫さまはこの闇館から離れられないのですよ。離れたら死ヌ」
シヌ。
ハー……死ヌりマスか。
それが呪い……。
「でもさ?! 魔法学校の開校式とか、時たまは外出してたやんね? それってのは?」
「ハナヲ。カンタンな話です。それは幻術の魔法」
シータンの補足で思い当たった。
最初に闇館を訪れたとき、陽葵とふたり、いろんなマボロシを見せられたっけ?!
「それの応用で疑似外出してたというわけでしょう」
「一言ゆうぞ、ハッキリゆってキモイ! そんな家に住んでる漆黒姫が、お姉ちゃんはとてつもなく心配や! そーか、よーく理解した。つまりや、この闇館はそのナントカってゆー、アタマのオカシイ魔道士の好き勝手にされてるってんやな?」
「あ、アタマがオカシイってか?」
「あー、オカシイオカシイ。大いにオカシイよ! お姉ちゃん、そんなヤツ、許さないよ!」
わたし、テーブルのコーラをガブ飲みして咳き込む。ああ興奮してきた。
「ククク。やけにテンションあげてきとるなぁ」
「漆黒姫! アンタはこの闇館から引っ越したくないんか?」
「引っ越しって? 陽葵お姉みたいに夜逃げしろと?」
「ちゃう。堂々とオサラバするんや」
「カカカ。なーに言うてんのや。そんなん出来るかいな……」
「できる、でけんやない。したいか、したくないかや!」
詰問され、にわかに不快気に黙る漆黒姫。
数秒の後、ニタリと唇の端を歪め上げる。
「ハナヲ姉。引越ししたいって言うたらさせてくれんのか? 無責任な結果になったらどーするん?」
「ゴタゴタゆわんでいいよ。アンタはわたしの問いに返事だけしたらえーねん。この闇館生活を終わらせたいんか、それとも続けたいんか?」
漆黒姫、再び沈黙。
シータンの、チーズバーガーを咀嚼する音だけが耳につく。
やがて。
「ハナヲ姉。引越ししたい。もうこの家は飽きた」
それを聞き、シータン、ルリさまが同時に立ち上がった。
わたしも大きくうなづき、立ち上がった。
――な、リン、この賭けゲームの勝利への道すじ、拓けたで。
リンもアイコンタクトで強く賛意を示した。
ハナヲ「道すじ見えたー」




