きゅう。 その話引き受けたるな?
漆黒姫の暇つぶしに付き合う決断をしたわたしと陽葵やったが、契約書とやらのサインをするときに、
「なぁ、漆黒姫。なんやったらわたしからも賭け条件の上乗せ提案したいねんけど?」
「賭けの上乗せ? くっく。そりゃオモロイ! 足せ足せい! ウエルカムじゃあ!」
わたしはグリーンルーム行きの期間の1週間延長に加え、逆にこっちが成功した場合の漆黒姫への要望を突き付けた。
「何やと……? わたしがこの家に泊まりに来る?」
「そうや。アンタも、わたしと陽葵の身内や。独り暮らしばっかせんと、たまには実家に帰って来るんや」
「言うてる話のイミが分からんが、良かろう。乗った。んじゃ条項を変えようぞ」
書面を一撫でした漆黒姫は明らかにワルガキの面でニンマリ。わたしらにサインをうながした。
陽葵は不服げな表情を浮かべてたけど、黙ってペンを走らせた。わたしも連署。
εξ εξ εξ εξ
「――え? 黒姫さまが?」
かんなぎリンが驚いて訊き返した。
黒姫が漆黒姫との賭けを降りたからである。
「ウン。わたしが引き受ける」
「……そんな。ハナヲセンパイが負けたときのペナルティを背負うってんですか?!」
「そうやね……ってゆいたいトコやけど、それは陽葵が頑なに拒んだよ。『後の責任は全部自分がとりたい』って。あの子らしいよ」
リン、喰い気味に、
「黒姫さまが降りられる理由は?!」
εξ εξ εξ εξ
――昨夜のコト。
アステリアから、リボルトセンセが訪ねて来た。
元ヨメのわたしではなく、黒姫に用件らしかった。
「マズイことになった。魔物族の盗賊集団が、人族の暮らす村を襲撃したらしい。死人も出ているそうだ」
「な、なんやて?!」
「急遽討伐隊が編成されて明朝出発するが、問題はアステリア領府の人間たちでな。人族の穏健派と、魔物族を一掃すべしと息巻く強硬派との間でいざこざが起こった」
その夜に、強硬派の幹部が何者かに襲われ死んだとの一報が入り、犯人とされた魔物族の青年が逮捕された。
本人は事実無根を訴えている。
が、それを証明してやろうとゆう魔物族がいないらしい。皆、人族強硬派の報復を恐れてるから。
陽葵は瞑目して、発しそうになった怒りを飲み込んだ。小刻みに頬を震わせている。
「そのこと、スピア領主は何と?」
「スピア姫さまは運悪く、現在、フィルメルク大陸全土の宗主国、ヘルムゲルトの首府である京師に伺候しておられる。パヤジャッタとの和議を結ぶよう、ヤツらとともに出頭を命じられたんだ。先の戦に負けて、分の悪くなったパヤジャッタ側が宗主に泣きついたというわけさ」
「――調停が入ったので、仕方なく和平のテーブルについたというコトか」
「それで世の中が平和になるんやったら、良いコトやって思わなきゃ」
楽観的にゆうと、
「それは安直ってもんや。きっとパヤジャッタの連中は、力を取り戻した後にアステリア領にチョッカイを仕掛けて来る。ホンマどうしようもないヤツらや。これはナアナアで手打ちできんな。ナルホド、やからスピア自ら赴いたんか」
「考えすぎかも知れんが、姫の留守を狙ってアステリア国内を乱そうって輩の陰謀じゃないか? 村の襲撃もひょっとすると、人族の強硬派が仕掛けた偽事件の可能性もある」
「ま、状況は理解した。――要は、村が襲われた事実が無いコト、それと強硬派幹部の死がフェイクであるコトを突き止めればええんやな?」
呟きつつ陽葵は眉を寄せてる。
やからわたし、こうゆった。
「じゃあ手分けしよう。陽葵はアステリアの件、わたしはミズーリジイチャンの件。とっとと片付けてお疲れさん会したい」
εξ εξ εξ εξ
――かんなぎリンは大きくうなづいた。
「さすがわたしのセンパイです。アステリアの危機を憂い、黒姫さまをおもんばかり、わたちたちとの遊びにも付き合って下さる。わたし、あらためてホレなおしました。ハグしてチューしてあげましょう」
「ヤメれ」
……とはゆったものの。
わたしひとりじゃ正直不安かも。
漆黒姫側のリンに助けてもらうわけにはいかんし。
うーむ。
かんなぎリン「ハグしてあげましょう」




