よんじゅうごっ。 「同人誌即売会」
我が家の最寄り駅を出発し、大阪メトロからの直通でコスモスクエア駅を下車。
途中の駅から南田センパイと水無月かなとも合流し、うちの陽葵と4人でインテックス大阪に勢い乗り込んだ。今日は南田センパイ率いる我が同人誌サークル、初参戦の日なのだ。
「えーと。DXDXコミックカンツリーIN大阪? なんつーイベント名や。主催者のココロザシの方向性を問いたいよ」
「何言ってんだ。デラデラコミカンってのはな、先祖代々のツワモノたちが熱い想いで引き継いでいった由緒あるイベント名なんだぞ?」
「へー……」
ところでわたしらは何てサークル名で応募してたんだっけかな?
「オリジナルモダニズムエンターテインメントアート同好会だ。誇り高い正会員ならそれくらい憶えとけ」
……あ、怒られた。
「で、そのマンガ部が作った本はちゃんと持って来たの?」
「略すな、バカ。うちらの本は既に会場入りしてるハズだ」
……連チャンで怒られた。
「ひょえ。すごいぃ!」
メッチャ人いるよ。目立つTシャツ着てる男の人もいっぱいいる。たとえば萌え萌えな女の子キャラ。あれで電車乗ったのかな?
「彼らの正装なんでござろう。あっぱれ見上げたものでござる」
「じゃあなんでマナは、フツーのメチャカワ着してんの? 正装やないの?」
「妙に挑戦的な言い方でござるなハナヲ。簡単な話、わたしのレベルはまだまだという事でござる」
お察しの通り、わざとからかいマシタ、ごめんなさい。だってマナ、目が泳いでるし、ウキウキしすぎて足が宙に浮いてるカンジやもん。
それは陽葵も同じ。
ポーカーフェイスを気取ってるクセして、その頬の温まり具合はハンパない。電車に乗ってるときからゆでだこ状態やったよ? 自分でも気付いてる?
「陽葵、何だか気合じゅうぶんやね?」
「別に。ただのマンガ祭りに興奮してどーすんねん」
フフフ。どの口がゆってマスカ?
「さあ! サークル入場するぞ!」
さてここで、ひとつの失態が判明した。入場券が3枚しか無かったのだ。
「じゃあダレか、一般入場しなきゃダメだってコト?!」
ここまですべて人任せにしていたわたしも悪かったんやが、マナがドヤ顔でわたしの肩をバンバン叩いた。なんだよーイタイって。
「水無月家の力を侮っちゃイケませんぜ。そのへんは抜かりなく段取ってるでござるよ!」
予告なしの初登場、水無月まなのお兄さんと称する高校生に挨拶された。
「いつも妹がお世話になってます。今日は妹にお付き合い頂き有難うございます」
聞けば中学生はサークル参加申し込みが不可だそうで。そこで苦肉の策としてお兄さんが代表者となって2つ分サークルスペースを押さえたそうだ。ちなみに彼は高校の文芸部。置く本はなんなとあるそう。
「では、僕はこれよりカノジョとUSJに行きますので。後はよしなに」
「ラジャーでござるーお兄さまー」
なんだーソレ。
「それより見ろよ、文芸部の本と合わせたら同人誌4種類になるぞ?! 壮観だなぁ」
「けど南田センパイ。実際わたしらのは1種類だけやし、何かサビシイよね?」
「その点は抜かりないぜ?」
長テーブルに「ポツン」感がたまらなくツライ。そんな気せんですか?
……と嘆いてたら絵入りのスケブやら人目引きそうなポップやら、持参のガラコロケースから、まるでマジックショーのように色んなアイテムを取り出してテーブルを飾り始めた。
へぇ! なかなかやりますねぇ。
それに、
「うっわあ、めっちゃコーフンする! わたしらの作った初の本格印刷本だぜ?!」
南田センパイが気勢を上げるまでもなく、わたしもマナも、そして陽葵も、興奮度がMAXに達した。
あの黒姫、魔王魔女の暗闇姫陽葵嬢が喜色を抑え、震えながら「そおっと」ページをめくっているのやから!
闇館の妹、漆黒姫には決して見せられない、レア表情をした彼女の最高スマイルゲットだよ。
「そうだ、始まったらさ、更衣室行くからな」
「更衣室?」
「ああ。ハナヲと陽葵は、そこで魔女っ子衣装に着替えるんだよ。南紀白浜でもしてたろ? あの格好だ」
「なっ?!」
奇声まで上げてしまったのは陽葵の方。南田センパイへの抗体がまだまだ低いせいだ。ここはわたしがフォローせねば。
「作った本、ゼッタイに完売しよーよ? 陽葵! そのためにはお姉ちゃん、手段を選ばない」
ぐぬぬ……。
そんな表情をさらして陽葵が言葉に窮する。
本日ふたつ目のレア顔ゲットやでぃ。




