よんじゅうさんっ。 「ルリさまとポー」
わたしと陽葵の口での応酬。
それを中断させたインターフォン。
ガンムシの陽葵に負けてしゃーなしに出る。
「ヒラノリツネです。暗闇姫ハナヲさんはご在宅ですか?」
まったくの無防備やった。
ガタブルして返事できない。なんだか涙さえ出そうになってる。
「はい。いま出ます」
割り込みした陽葵が代わりに返事し、わたしを見た。
「お姉。行くよ」
「……い、いやや」
「さっき啖呵切ってたん、ウソやったんか?」
「ウソ……やない。けどこんな急やとは思っても見んかったし、それにまだ心の準備が」
「愚図いなぁ。そーゆーのが敗因やってんで?」
「は、敗因ゆーな」
背中を押され、玄関へ。
半泣き状態でドアを開ける。
「な、なんなん、そのカッコウ……」
瞬時に怯えが飛んだ、その出で立ち。
キョウちゃんが、お百姓さん丸出しのシャツとモンペ着で立っている。手にはエコバックいっぱいの野菜を抱えて。
「や。ハナヲちゃん」
「や、やない。どーしたの、いったい?」
「バイト終わりの惟人クンに、家まで案内してもらった。これはお土産の野菜たち」
「見りゃ分かるよ。そーゆーイミやなくって」
彼の後ろに惟人と、なんと、ポーくんがいる!
「……はなを、突然ノ来日、途惑ワナイデクレ。怪シイモンジャナシ」
惟人、わたしと目を合わせにくいらしく、チラチラよそ見しつつ、
「ゴメン、ハナヲちゃん。ふたりに頼まれた。中に入れてやってくれ」
謝ったりアタマを下げるコトは無いよ。ただ、センチメンタリズムなオトメゴコロは台無しになったよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
急遽ルリさまを家に呼んだ。
拒否るかも知れんと心配したんやが、シータンが付き添ってくれてポーくんとの再会が果たされた。
ポーくんはルリさまを見るなり、いきなり土下座。
「じゃぱにーずオ詫ビデ平謝リデース! るりチャン、本当ニゴメンナサイデシタア!」
「……どーゆーコトなの? なんでいまさら謝るの?」
「ボク、トニカク可愛イスギナるりチャンノ気ヲ引キタカッタ! アア言エバ、るりチャンノ心ガ動クと思ッタ! 今トテーモ猛省シテール、後悔シテール。悪イ、思ッテール!」
ちっともなびかないルリさまよりも、ガードの甘い女の子がいい。
そんなようなニュアンスやったっけ?
ポーくんさ、ルリさまが怒るのもそりゃトーゼンやで?
「ボクニハヤッパリるりチャンシカ居ナイ! ソレ本当! 実ニ実ニ、オンリーユー! モウ暴言シナイ、心入レ替エル! ダカラ赦シテクダサーイ!」
「ほんっと調子ノリやな。こんなフワッフワで薄情なオトコ、頸ひねって殺してもーたれ、ルリ」
「ひ、陽葵、アンタがゆーと相当ホンキに聞こえるから!」
「陽葵のことだ。本気だよ、きっと」
惟人、アンタ彼女を理解しすぎ!
「るりチャン、るりチャン、ゴメンナサーイ! モウ二度ト、ヘンナ傷ツケルコト、言イマセーン!」
「ウソつけ。オマエはこれからも絶対にココロクルリを泣かせるに決まってる。そーならんように今ここで処刑しといたる」
「やから陽葵、目がマジやから!」
「マジで言ってるんだって陽葵は」
惟人、もう解説はせんでいいから。
呪い殺すのか? って思うくらいポーくんを睨みつけていた陽葵が、ルリさまの背をポンと叩いた。
遠い目をしていたルリさま、「うわっ」と我に返った。
「ココロクルリ。冥王星にでも行ってたん? ポーが自分勝手で都合のいいコト言ってるけど? どーすんのか、最終的にアンタが決めなさい」
「陽葵……」
「そーやで? ポーのヤツ、サイテーサイアクや。で、それを心から反省して謝ってる。せめて返事したったら?」
「わたし……」
「わたし?」
「殺したい?」
「……陽葵、シャラップ」
ウルウル目のルリさま。ポーを見詰めた。
「わたし、フラれたんじゃなかったの? また、会いに行っていいの?」
「ポー! ルリさまが聞いてるで?!」
ポー、ナミダがだだ漏れしだした!
天井にアタマがぶつかりそうなほどの狂喜乱舞!
「アリガトゴザーマス! アリガトゴザーマスウ!」
着地のポーくんに抱きついたルリさまが、彼のホッペにキスをした。
「うわっ?! ココロクルリ、あなた」
衆目の中で、特に陽葵の驚きようは滑稽な笑いを乗り越えて、妙にわたしの胸を衝いた。ルリさまのコトが自分事のように思われ、嬉し涙でグズグズになった。
仲直りしたふたりの向こうで、キョウちゃんが応援の拍手を送っていた。




