よんじゅうにっ。 「口ゲンカ」
弱ったな。
このところ、ちっとも眠くならないし、オナカも減らない。
ダルイし、何をするのもメンドーくさい。テレビも観たくないし、スマホをイジりたくもない。ゲームもしたくない。
もうバイト辞めたからって3日ほどベンキョーしまくったんやが、4日目の朝、急に気力が尽きた。まったくヤル気を失った。オイ待て気のせいやろ? と気持ちを振り絞ったが、半日でしぼんだ。そして、そこから先は闇。回復の兆し見せず……、あっちゅー間に3日すぎた。
とうとう今日はベットから起き上がれなくなってる。
寝たいわけじゃないので天井眺めて。ボンヤーリ息をしてるのみ。
「ハナヲ姉。そろそろ聞きたいんやが、ヒラさんにちゃんと告白したんか?」
「あー? ヒラさん? キョウちゃんね。まーしたよー。好きってゆったー」
「で相手は? 何て答えたん?」
陽葵、ウザイ。
今の今までずっと本読んでたクセにさ、急に話し掛けて来てどーしたん?
人の部屋に入り浸ってからに。特に用無いんやったら自分の部屋に戻って欲しいんですがね。
「何てって……。いまさら暗黒史反芻してどーすんのん? 前を向きたいんやってわたしは」
「相手の言葉さえ忘れたん?」
「んもぉ、憶えてマスよ! 忘れたってより、思い出したくないの。わたしは!」
「じゃあ諳んじなよ。そこまで言うんなら」
はー。
過去は幾ら後から眺めても手遅れなの。やり直せないの。やからわたしは未来に目を転じたいの!
勉強して、毎日イキイキと過ごして、目標を持って。それを目指して努力すんねん。
「キョウちゃんはこう言ったよ。『ウミちゃんと再会した。今度は彼女から結婚を申し込んでくれた。だから結婚することにした』以上」
「……で、ハナヲ姉はそれを聞いてどう思ったん?」
どうって……。
「別に……。予想通りだなって。あ、やっぱりって」
「ヒラさんは他には何も言ってくれんかったん?」
「もう……いいやん! これ以上キズを広げんとってよ!」
そしたら陽葵、バカでっかい声で、
「いいコト無いわッ! ハナヲ姉は自分が聞きたかった答えを何も貰えてないんちゃうのん?! 自分が結婚するだのどーするだの、ハナヲ姉にとってはどーでもえー情報やったんやろ?! ハナヲ姉が聞きたかったのはそんなコトちゃうやろ! ハナヲ姉は『自分をどう思っていたのか』、それを聞きたかったんやろ?! それが聞けんかったからウダウダしとんねんやろ?!」
グイグイ体を揺さぶられて詰問された。
「そう……なんかな……?」
「あきらめモードで『ほら、やっぱりね』って、受け取ってもいない答えを勝手に引き出して解釈して『はいサヨナラ』ってポイ捨てしただけなんやろ? タマシイ込めてしっかり相手の話を受け止めんかい! 何のために決心して会いに行ったんやって、ハッキシコッキリ後悔しかしとらんやないの! もっとまじめに、真剣に、失恋に向き合えや!」
顔を真っ赤にして怒鳴る陽葵を見てて、こっちもカッとしだした。
「世の中、アンタみたいに何でも白黒つけれる人ばっかや無いねんで! わたしのようにグズいモンかって居るんや! 失恋のショックくらいマイペースでしてもええやんかッ!」
「それが甘ちゃんなんや! 打ちひしがれ方が弱すぎなんや! ハナヲ姉は昔っから自分のコトになるとシラッとするときがある。自分の感情をぞんざいに扱うときがある。そんなん見てられへん! もっと自分をさらけ出しーや! 自分のためにワンワン泣き! 自分のためにアホみたいに暴走し! そうせんと人生再デビューどころか、いつまでも失恋引きずったまま、ハッピーエンドは迎えられんで?!」
ひとつゆえば3つ返して来る。3つゆえば10畳みかけて来る。
しばらくふたりの言い合いが続いた。
喉が痛くなってゼーゼー息が漏れるだけになった。
陽葵も同様やった。
この子とこんなに口ゲンカしたのは全くの初めてやった。
「結局、陽葵が何ゆいたいんか、ゼンゼンわからん」
「な、なんやて?!」
「ゆいたいコトはワカラン。が、心配してる気持ちは伝わった」
ハアッ? と陽葵。
「わたし、大人すぎた。それにイイコすぎた。もっと素直さをぶつけてフラれてみようと思う」




