よんじゅうっ。 「キョウちゃん(1)」
執務室に入るとサラさんがイスから立ち上がり、「どうしたの?」と出迎えた。
勧められたソファに向かい合いで腰掛けると早速、
「本日の生産高は?」
「はぁ。前日比103.2パーセントです。処理の順番を変えて治具の型替え数を減らしたのが要因です。同一サイズをあと2種類ほど寄せて同一機で処理すれば、もう2パーセントは上乗せ可能かと思います」
「……フーン。だからなのか、あなたの出勤日はいつも良い数字が出てるわ」
「はぁ」
珍しくホメられた?
ついでに賃金も良い数字にしてやるとゆってくれ。そこが肝心だ。
「……で、何か用なの? 早く帰って休んだ方がいいんじゃないの?」
「学校が夏休みなので。……いえ、ヒラ長官に少しお時間を頂きたくて。……あの、今日も現場に居なかったものですから」
へぇ。
と、やや間の抜けた声をあげたサラさん。「そういうことか」と、何がそーゆーコトか知んないが納得した様子でうなづいた。
「彼……は有給休暇中よ。……えーと、その……」
サラさん、急に立ったり座ったりを繰り返す。懊悩を体を使って表現してるカンジ。
意を決したのか部屋の隅でパソコン叩いてた鬼たち数人に退室をうながした。
「よし。いいわ。仕事上の付き合いはヤメ。今からは友達のサラとしてハナヲに接します。――ねえ、ハナヲ? キョウくんのコト、誰かから聞いてるの?」
「いろいろと。なのでわたし、直接本人に真実を聞きに来たんです」
そう答えたら、サラさんはあちこちの棚をあさって応接のテーブルにお菓子を並べ始めた。いったいどこにどれだけ隠してんや。公室を私室化しちゃってるし!
「好きな物があれば食べなさい。何ならお土産にするといいわ」
妖怪饅頭。血の池プリン。冥界せんべえ。……これは羊かん? 青白い死人たち?
ひとまず気持ちだけ有難く頂戴します。
「キョウくんは予定通りなら、もう少しで冥府庁にもどるわ。……待ってみる?」
「待ちます」
「覚悟は決めてるの?」
「……はい。本人の口から伝えてもらって、スッキリしたいと思います」
「そう。分かった。……わたしは用事を思い出したからちょっと席を外します。キョウくんにはこの部屋に立ち寄るように一報入れておくわ。じゃあ、ね」
大股で部屋を出て行った。
……と思ったら引き返してきて、わたしを横抱きに抱擁した。
「ハナヲ。次のバイト日、終わった後に予定空けといて。一緒にどこかに遊びに行こう! それと何か美味しいもの食べましょう!」
「……有り難う。サラさん」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1時間ほど待っただろうか。
控えめなノックが響き、俄かに背すじが張った。
「はい」
「ヒラです。入ります」
「どう……」
どうぞのぞがかすれてのどに詰まった。
ますます浅黒くなってるキョウちゃんが入ってきた。
彼が手に抱えているのは何故か大玉のスイカ。黒と緑の模様がくっきりとしてて、全面に水滴が張り付いてる。一見してすごく瑞々しいと印象づいた。
「切ってあげる。いっしょに食べよう」




