さんじゅうろくっ。 「先生だって夏休みやんね」
やり遂げた宿題を確認してもらいたい。
そんな口実を設けて先生にアポを取った。
駅前のミソドは最早わたしの定番待ち合わせスポットになってるんやが、今日はそのとなりにある大阪玉将が先生との会合場所になった。
「あー、わたしはスタメン定食と揚げシューマイで。この子は……」
「わ、わたしは別に……」
「何でもいーぞー? お昼、まだなんだろー? ボーナス効果、まだ継続してるからなー」
「……はぁ。じゃあ……この、あっさりラーメン……塩で」
少食だなーと先生。
ちがうっ。あなたが大食なんデス!
「にしても暗闇姫ー。よく頑張ったなぁ」
持参した課題類をパラ見して先生。なんか照れるしウレシイ。
「えへへ。これでわたし、少しはマシな成績になるでしょうか?」
「ん? あー、うーん……」
先生? その弱りカオの意味は?
「いやぁ、ゴメンねええ。暗闇姫がこれだけ頑張るとは正直先生、思ってなかったんだ」
「ど、どうゆーコトですか?」
「いやぁ。……実はさー、暗闇姫に出した特別課題、レベルは小学校高学年程度なんだわ」
なあっ?!
「しょ、小学生レベル……」
「まずは自信をさぁ、つけてもらおうと思って」
そ、そーなん?
そうやったん?
そーやったんかーーッ!
……ゆわれてみれば、確かに。
陽葵に教えてもらったとき、ヘンなカオしてたっけ。そーいやタメ息もついてたなぁ。
かんなぎリンはやたら「ナットク、ナットク」って。妙にうなづいてたし。
うえええっ?!
カンゼンにバカにされきってた?!
ハズイ、ハズイ、ハズイっ!
「ま、待て暗闇姫、ヘコむなー。先生はな、先生なりに考えてオマエに試練を与えたんだぞー?」
「……試練? 試練って何ですか?」
「それは、だな……」
テーブルに、スタメン定食とやらが届いた。おっわ大盛りやし。
先生、会話を中断して麺に飛びつく。
「おおうっ。ウメエエエ!」
先生であることもそーやが、女子であることもすっかり忘れてる。余計なお世話ながらヨメの貰い手をつい心配しちゃうぞ?
「はい、こちらは塩ラーメンです。どーぞ」
「喰えいっ暗闇姫、伸びちゃうぞ? ……で何か話してたっけ?」
「せ、先生ッ……!」
――って。会話どころじゃないってくらいオイシそーに食べてんなぁ、ったく、もおっ。
「ところで先生。今日お会いしたかった本題なんですが。惟人のコトです」
「おー暗闇姫惟人クンなー、彼がどーかしたかー?」
「急に剣道部に入るってゆい出しまして。……で、生徒会についても相談してませんでしたか?」
ガツガツ。
こんな書き文字がピッタリの食べっぷりながら答えてくれる。
「おー。今日も朝から学校に来てなぁ。剣道部の練習の参加した後、生徒会運営に関する案内と、立候補の届け出用紙を取りに職員室に」
「え? 立候補するってゆってたんですか、彼?!」
「そーいう相談はその前日に受けてたがなぁ、『ボクには向いてなさそうですね』って。今日持って帰ったのは候補者の推薦状と、生徒会役員の立候補用紙だったなー」
「役員? それ、生徒会長も含むんですか?」
「いや? 会長じゃなくて、役員だな。書記とか会計とか」
そーゆって、わたしの方にシューマイの皿を近付ける。「どーぞ」とゆーコトだろう。
ひとつ箸で掴んで口に入れる。か、か、辛子つけすぎです先生~ッ!
「ケハケハ……。惟人と練習試合した人って、有名人なんですか?」
「へ? なんで?」
「相当強かったって、惟人が」
ショック受けてたんで気になってます。
「まー、高等部の生徒だからな。中一と高二じゃ体格差もあるだろうし……」
「とゆいますか、強い剣士さんなんですか?」
「フツーじゃない? 団体戦でも大将とかまでは務めてないみたいだし」
……そーなんや。剣道の選手としては達人とか強豪とかや無かってんや。
「さ、食べたし帰るか―。んじゃあ、わたしからも用事な。これ、夏休み後半分の宿題だ。手抜きしないで頑張るんだぞー」
「……え? そんなぁ~。……あ、けど先生、この1冊だけでいーんですか?」
「いーさ。これをしっかりやっとけー」
「はいっ。有難うございます!」
店を出て先生きょろきょろ。
「暗闇姫ー。夏休みだし、カラオケでも行くか―? そこのカラオケまねきんねこ」
なんだかんだ、先生も夏休みを謳歌したいんやね。




