さんじゅうよんっ。 「夏休み後半」
「うーっ。ムズカシイ。まじこんなにムズかったっけ? えーと、『一個100円のりんごをX個買ったときの代金を文字式で表しなさい』。……ひとまず日本語でゆって欲しいな」
だいたい文字式って何や? って話。
文字やから100やなくって、百って表現しろってコトか?
……いや、ちゃうな。100も百も、どっちも文字やろ。……それか、式ってのがクセモノかも知れんぞ?
あとさ、りんごってそんなに安かったっけ?
確か昨日スーパー万台で買い物したとき、200円以上してた気がするけど……。学校へは安く卸してくれんのかな。
あーもー。アタマがパンクしそうや。
夏休みの宿題、1ページ目から壁にぶち当たってるし。
「ハナヲー。オナカすいたー」
「ちょっとシータン。毎日お昼休みになったら食べに来んね?」
「……ダメ?」
「ダメ……やないよ? じゃちょっと用意するよ。……もーお昼かぁ」
シータン、問題集を興味深そうに眺めて。
「数学……ですね。ハナヲの学年なら四則計算とかですか?」
「シソク計算? ……四本足ってコト?」
「…………。天を仰ぎたくなるほど重症ですね。先生の苦労が想像できます」
泣きたくなるからヤメテ。
「……お昼、今日はチンスパでいい?」
「わたしチンスパ大好きです。ナポリタンにしてください。……そうだ。毎日ゴハンを頂く代わりにわたしが勉強を教えましょう。キャッチ&リリースです」
「え、ホントウ? キャッチ&リリースって……? 何か違う気がするけど、とにかく助かるよ!」
良かった。シータンありがとう!
でも英語は誰か別の人に教えてもらった方がいい気がする……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日から丸10日かかって、追加の課題も含めた夏休みの宿題を終えることが出来た。
シータンはじめ、陽葵や惟人、かんなぎリンが入れ替わりで先生を引き受けてくれた。
おかげで夏休みはもう半分も残ってない。
しかしながら、とっても充実した日々を過ごせたし、わたし的にはマンゾクだ。
「ハナヲー」
「あ、ルリさま! どーしたの、その日焼け?」
「魔女学校のトモダチたちとプールに行ったんだー!」
「え、いーなぁ」
そっちはどうなの? と聞いて来たので「待ってました」とばかりにこれまでの日々、勉強を頑張ったのを自慢した。
「へーすごい! なんだったらハナヲもアステリアに移住してさ、魔女学校に通ったらいーじゃん!」
「えーっ、けどなぁ。編入試験、受かるかなぁ!」
とかゆいながら、持ち上げられたらまんざらでもない。
陽葵がお茶の差し入れで現れた。
「チョーシ乗ってたらアカンで? 正常な人が2日で済む宿題をハナヲ姉は10日も掛けたんやし。せめて二学期の中間と期末で成績アップしてから自慢したら?」
「それもそうよね。スピア姫にも成績表見せるんだよね、恥ずかしくないようにね」
なかなかキビシイでいらっしゃる。
「……ところで。惟人クンは本当に生徒会長に立候補するの?」
「いやそれが。たまたまやけど今日、学年登校日やったから、先生に相談するってゆってた。やから遅くなっててまだ帰ってないよ」
陽葵を窺ったらこっちを睨んでた。わお。
「なによ」
「いや別に」
おーこわ、おーこわ。
「陽葵も立候補するんだよね?」
ばっ、バカちんなルリさま!
そりは、訊いてはイケない質問だーよ!
「わたしはするよ? 立候補。惟人がどーであろうと。……生徒会を仕切ってやることにした」
「え? え? そーなんや」
玄関で物音がした。
「ただいまー」
惟人だ。3人で集まってる2階のわたしの部屋に上がって来る様子。
ドアがノックされた。
「……って、惟人が叩いてるドア、陽葵の部屋やない?」
「わたしの?」
廊下にいる惟人に「何?」と呼び掛ける陽葵。心なしか緊張してるっぽい?
「決めたんだ。オレ、生徒会には立候補しない」
「……そーなん」
「代わりにさ、剣道部に入るよ」
「剣道部?」
突飛やね!




