さんじゅういちっ。 「続・マナの告白」
「全行程完了。オツカレー」
南田センパイの「オツカレー」が心地よかった。疲れを押しての気合の一声だったから。
「オーッ!」
その場の皆が呼応し叫ぶ。
者共、勝どきを上げろー!
そーゆわれたのとカン違いしたの? ってほどの音量で。
そしてその5分後には南田センパイ、ガーガー寝息をがなってた。
よっぽど気を張ってたんやろな。
タオルケットを持って来ようとしたら陽葵が先に掛けてあげてた。
わたしなんかよりも、ずっと周りを気にかけてる証拠。
照れたんだろう、わたしと目が合うとプイとカオを逸らし、部屋から居なくなった。
「水無月センパイ。朝食用意しますんで少しの間だけでも寝ててください」
惟人に声を掛けられたマナが首を振る。
「い、いいよっ。わたしも一緒に準備させて」
よほど彼の気遣いが嬉しかったと見える。目の下にクマを作ってるクセに、なんてキラキラした笑顔なんや。からかうつもりが少し胸にジンと来ちゃった。
「マナさん、すごく頑張ってましたね」
「い、いやぁ。南田センパイに尻叩かれてたからでござるよぉ。普段そんなに頑張る子じゃあないからねぇ」
「オレ、物事に打ち込める人って尊敬します。自分はどこか冷めたところがあって。……一生懸命って格好いいって思いました」
ダイニングテーブルを拭くマナの手が激しくなった。
「いっやぁ、そんなぁ。タマタマだよォ。……だって才能が無けりゃ、努力でカバーするしか無いっしょ? 凡人はそうすることで天才に近付くって言うじゃん? それだよそれ」
「努力で天才に追いつく……ですか」
「これ、完全に南田センパイからの受け売り。…わたしさぁ、この言葉、南田センパイに初めて聞かされたとき、『何言ってんだ、この人』って反抗したんだよね。ダメな人は幾ら努力を続けたってダメだし、才能とか天性とかって、生まれたときから備わってるものだって自分の中で強い思い込みあったから。現に何の努力もしないのに、テストでそこそこ良い点とったり、部活とかで活躍する人いるでしょ? アレ、ズルイよなぁって、ひがんでた」
厚切りにスライスした食パンをどうふたりに預けようかって思案してたら、マナがふと振り向き、わたしの手からそれを受け取ってトースターにセットした。
「そしたらね、南田センパイがこう言ったんだ。『だったらお金が無けりゃ、一生オマエんちみたいに裕福になれないのか? バカはずっとバカのままで生きるのか? 過去は終わっちまったが未来は始まったばかりなんだよ、過去じゃなくって未来に賭けようぜ』 って。……屁理屈って思ったよ」
ハハ……って声出して笑っちゃってから口をつぐんだ。脇役がオジャマでした、ゴメン。
「過去をひがむより、未来を目指せってコトですか?」
「たぶん……そう言いたかったんだろーね。けどさ。『未来に賭けろ』って、ダサダサな言葉なのに、妙に心に響いちゃったんでござるよ。そしてそんなセリフをビシバシ臆面もなく言いまくる南田センパイに、わたしは心底憧れているのだよ」
「……イイ人なんですね。南田センパイって」
「うん。イイ人」
……わたしもそー思う。
一介の女子中学生にしとくのもったいない。
「でね、惟人クン。何日か前にわたし、クッキーあげたよね? アレ、おいしかった?」
「ああ、はい。その節は有難うございました。あの後とてもおいしく頂きました」
ホッ……と安堵のタメ息をつくマナ。
「実はさ。あれにはオマケがついてたんでござるよ」
「オマケ、ですか?」
「そ。オマケの言葉」
ゴクリ……と息を呑むわたし。
すっかり退散のタイミングを逸していた。どころか、耳がナウマンゾウのようにおっきくなってる。
まるで必死に聞き耳立ててるゴシップダイスキ女だよ。そんな気さらさら無いハズなのにィ。
「あのねぇわたし、惟人クンのコトが大好きです。くじけずにこの気持ち、キープしたいと思います」
わっ、ゆった。
マナのヤツ、ゆっちゃった。
わたしも聞いちゃった。現認しちゃった。
現行犯だ。棚から出したマグカップを落っことしそうになったくらい、わたし、動揺しちゃったし。
惟人、唖然とマナを見詰めてる。
マナも、これ以上ないほど赤めたカオを、まっすぐ惟人にぶつけている。
きっとわたしも、そんなふたりを息を潜めて見詰めてる。
10秒以上経ったやろーか、惟人が話し出した。
「すごく嬉しいです。オレもマナさんが好きです。……でもそれ以上にオレ、ハナヲちゃんが好きなんです」
……え?




