にじゅうはちっ。 「後夜祭はなかなかシビア」
アステリア首府レイシャルに帰り着いたのはその日の夕方。シビア
慌ただしくスピア姫に辞去の挨拶をし、日本への帰途に就いた。
村での一件を姫はとても気にしていて。
「ヘンな気を遣わせてしまいました。アステリアの礎は未だに不安定です」
「人族の彼らだって、プライドをもってアステリアを支えようとしてるんですもんね? 魔族と人族が良い意味でライバル心を燃やせば、もっと良くなって行きそうですね」
その通りですね。と苦笑したスピアさま。
口では簡単。でもそれがなかなか難しいのは、わたしだって分かってるつもり。
「ハナヲさんにもこれからも是非ともお力をお借りできればと思います。それにはまず、目前の課題に前向きに取り組んで頂かなければなりません」
「……は、はい。……はえ?」
「巫リンからの報告によると、ハナヲさん、学業の遅れがあるとか。わたくし、非常に心配しております。そのこともあって、ハナヲさんにお会いしたかったのです」
あぁ。
「頑張ります。手を抜かずに努力します」
「ダメですよ? 抽象的な言葉ではいけません。もっと具体的に。きっとハナヲさんなら出来るはずです」
過度な期待はせんといてっ。
などはゆわない。だって一国の主にゆわれんだよ? これほど光栄で有難い事があろーか? いや無いっ。
「えーと、そーですね。じゃあ今度の定期テストで得意教科の点数を10点、アップさせます!」
「うーん。ちなみにその教科は何で、現在は何点なんですか?」
「はい。社会科で48点です!」
「まぁ。50点満点で?」
「……100点満点で、でありますっ!」
「じゃあ、いけません。国語、数学、英語、社会、理科。この教科すべてでプラス10点、目指してください」
「ええっ?!」
「わたくし、2学期の三者面談にも出席しますので」
「な!」
ニッコリ微笑むスピアさま。
天使のカオして、悪魔的なノルマを吹っかけてきた。
「スピア姫さま」
「いけません。これは命令、です」
泣き言の受け付けは一切無し。
いや、弱音吐くつもりは無いけど。頑張らなくっちゃ、やけど。
「とりあえず、明日からガンバリます」
「いけません。今日がんばったら、明日もがんばれる。そんなものです」
「ひ、ひゃい。わかりましたぁ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
南紀白浜の別荘に帰還。
アステリアに出発してから3日が経っている。
元々この旅行自体が4日間の予定やったから……えーと、もう今日中には大阪に帰んなきゃならんコトになる。レンタカーだって返さなきゃ、やし。
竜宮城から帰って、いきなり現実をぶつけられた気分だよ。
「じゃあ、荷物まとめてさっさと発ちますか」
――なのに、誰一人帰り支度を始めようとする者がいない。
……どころか、睨まれた。
またか!
また、空気読めない子を演じてるのか、わたし?!
「ハナヲっち、何かお忘れでは? 大事なアレでござるよ?」
「アレ?」
マジでワカラン。
指示語はヤメてけろ。
「同人誌原稿だーっ! 忘れんなバッカモーン!」
南田センパイに吼えられたっ。耳がジンジン千切れそう!
「郷に入りては郷に従え」
シータンにコソコソと諭された。
「ハナヲはベタね?」
ルリさまに仕事振られた。
「わたし、夜食買って来まーす!」
リンに上手く逃げられた。
「お姉ちゃん、マジメにしなよ?」
陽葵にハッパかけられた。
アンタが帰り際ソワソワしてた理由がよーやく理解出来たよ!
最後に残った惟人と、げんなりと慰めあった。
「……ガンバろう。ハナヲちゃん」
「はい」
……ああ。
舌の根も乾かないうちにごめんなさい、スピアさま。
明日からはしっかり勉強に励みます。
「わたし、ベタ塗り前に、レンタカー屋さんに連絡入れときます」




