にじゅうろくっ。 「余興」
なーこはいいヤツや。
自分だけでなくまわりの人たちも明るくさせる。
そうとう歳を取った今でもその能力は健在や。
「オーシ勝負じゃい! オレら3人がかりで引く大弓の矢だ。へっへっへっ。幾ら魔女のムスメっ子でも追いつけまいて!」
さっきビビらせたから、そのお返し?
酔った勢いのオッチャンたちが妙な賭けを挑んできた。
「フーン……もっかい確認するね? えーと、オッチャンたちが矢を飛ばす、でしょ? それをホウキに乗ったわたしが追い掛ける……と? で、矢が地面に着く前にキャッチ出来たらわたしの勝ち、コレで合ってるやんね?」
「そーさ! 我が村伝統の祭りで使う神の弓だぜ! カンタンに掴まれてたまるかいっ!」
「はー」
村人VS魔女っ子の余興をしよーってゆい出したのは、なーこばあちゃん。
呆れて尋ねれば、どーゆーこじつけでもいーんで、とにかくわたしの弾丸飛行が久しぶりに見たいんやってさ。
そーゆわれちゃうと、わたしも張り切っちゃるでい!
そんなバカげた遊びに、惟人は意外にも興味津々。わたしとホウキのクロスオーバー? が楽しみなんやって。なんのこっちゃ。
かたや陽葵は見世物チックな催しにややご不興の様子。早く再出発したそうでイライラっぽい。
「ね、陽葵はどっちに賭けるの? わたし? それともオッチャンたち?」
「さあ。んなの、どっちでもエエし。それよか、あんましグズグズしてたら領府着く前に日ィ暮れるで?」
分かってますって。とっととカタつけてゴキゲンさんで帰りましょ。
ウオーミングアップ代わりにホウキで浮遊したり回転してたりしてると、いつの間にか大勢の見物人が集まっていた。村人全員いるんじゃないの? ってくらいの数。
酔いのとれたオッチャンらは、いずこからか村宝の大弓を持ち出してきて、ヨイショヨイショと声を合わせつつ弦を引き絞る動作を試している。……わー、案外本気モードや。
「あの矢は特殊でして蟇目鏑矢と申します。飛ばすと邪を払う音を発するのです。祭りでは村の中央より転じて四方に向かって射掛けます。より遠くまで邪が払えるよう、男らが渾身の弓技を披露するのです」
子爵さまが説明するので、
「そんな神懸かった神具を、わたしが捕まえていーんですか?」
と思わず問い返した。
そしたら、
「……え? ホホホ。……なんとユニークな御方ですこと」
んー?
ジョーダンはヨシコちゃんってか?
捕まえられるワケねーじゃん。てーか、ナニゆってんの、この小娘は? 的な?
そーゆーイミ?
その引き攣った微笑みは、恐らくそーゆーコトなんですね?
「ハナヲちゃん。遠慮は要らないと思うよ?」
惟人がそっと耳打ちする。
ウン。ますますそのつもりになりましたデス。
「んでは……始めて……おくれ」
なーこばあさんの号令で、男たちが一気に弓の弦を引き絞った。
わたしの方もスタート地点につき、爆音噴き出す勢いで内なる精気を奮い立たせる。
「皆さん、ベットしましたねー?」
あ、巫リン!
ぬけぬけとこーゆー場面でしゃしゃり出て来るなあ。
「でもザンネンながら、これでは賭けになりません。どなたか、わたし以外に暗闇姫ハナヲに賭ける方はいらっしゃいませんかぁ?」
群衆から3人、手が挙がった。
惟人、スピア姫、……そしてなーこか。
魔女派のふたりはともかく、なーこの淀まない挙手に、村人たちは一様にどよめいた。
「そりゃ……勝ちは……ノエミ……お姉ちゃん……じゃ」
セリフの末尾を合図に矢が宙に斬り込んだ!
いきなりのスタートだ。
想像と違う!
汽笛のようなと思ってたが、まるで空気をえぐり取るような激しい音がした。
甲高の響きとともに、あっとゆー間に彼方の空に跳ね上がった矢。
僅かに遅れて地を蹴るわたし。
ホウキと一体になって飛ぶ。
慣らしの間は無し。いきなしの全速力。
「うあ?」
けぶる視界。歪む気流。
空気が痛い。ザンザンと風が刺さる。
それが不思議に快かった。
歯を食いしばり弾丸となったわたしは、一瞬で矢の尻に追いついた。
「つかんでいーのかな……」
躊躇いつつ、手を延ばす。
ところが意外に触れれない。まるで生き物のように、矢が最期の意地を見せているようだ。
――と思ったら、いきなり失速し落下する矢。
わあっ! このままじゃ、地にに着いちゃう!
もう迷ってられない。
ムズと乱暴に羽根の部分を掴み。
――着地。
安堵して振り返ると、見物者たちが遥か遠く。ゴマ粒くらいに小さかった。




