にじゅうごっ。 「ホウキとおばあさん」
「おわああああぁぁぁっ!」
「ひいいぃぃぃ!」
「ぎょえぇぇーッ」
オッチャンたち、パニック。
逃げようにも酔っていらしてもつれ足、千鳥足~。
思うように逃げられないでやんの。
頑強そうな彼らの悲鳴は聞いててちょっぴり可笑しいっ。
てな余裕はないっ!
と、と、と、とにかく停まらん?!
ホウキがゆーコト聞かへんッ!
このままじゃ、まっすぐおっちゃんたちに突っ込む!
もうデッドライン超え、シャレやジョータンの域やないっ!
「ノエミッ! しっかり集中なさいッ!!」
「うえっ?!」
――誰かと思えば。
イシツブテみたいな怒声をぶつけてきたのはシータン!
体の中のどこに隠し持ってた音量なのか!
「わ、分かった! 集中するッ! ぐぬぬぬうっ!」
針路を見定め、ホウキの舳先を持ち上げるカンジで手前に引っ張ると、ホウキはあっさり下降から上昇に転じてくれた。
試しに、左右交互に重心を移すと、それに合わせてスイング飛行をし始めた。まるで生き物だね。
「イイコ、イイコ!」
コツがつかめればあとはカンタンだ。
いたずらゴゴロを抱いたわたしは口の中で詠唱呪文を唱え、タイミングを計って空中でグルリと大きな円を描いた。
ホウキの両サイドに発生した火球が、わたしの動きにあわせて大輪の軌跡をつくった。まさに花火のようやった。
地上で歓声と拍手が起こる。
とんだ見世物だ。けども不快じゃない。
興が乗って楕円や縦型などの日の輪も演出してやった。
「ん?」
目が合ったシータンが降りて来い。と合図してる。
全身使ったゼスチャーが珍妙すぎる。しかもみんなの後ろに立ってるからわたし以外、ダレも関心を向けていないってところも笑える。しゃーない、素直に従ってあげよう。
無事着地すると、すかさず子爵のおばさまに握手された。スピア姫もその後ろで拍手している。
「お見事です。あなたが先のパヤジャッタとの戦で敵将と互角に渡り合った暗闇姫ハナヲさまですね? 評判はこの村にも鳴り響いております」
「……いや。そんな大げさな」
謙虚さが受けたのか、それともモジモジしてるのがもどかしいのか、わたしの手を握る子爵夫人の眼差しにさらに熱がこもった。
「先程の炎は魔力ですね? あれほどまでに自在に火を操れるのですか? 実に頼もしいわ」
いやいやいや。よく考えて子爵さま。
実際敵将と渡り合ったのは、陽葵と惟人やし。
しかも今わたしが披露したのは、どー見てもただの宴会芸やし。
「本日、暗闇姫さまにぜひ会って頂きたい方がおられまして。よろしいですか?」
「は、はあ」
子爵夫人のあとを引き取ってスピア姫がある人を紹介した。
「ハナヲさん。この方はご存じですね?」
ふたりの陰から杖付きで登場したのはお婆さん。
……え? 何歳なん? 一歩一歩が難儀そう。ずいぶんお年を召しているようだ。完全に白くなった髪の毛さえも、すっかり薄くなってしまっている。
両腕と背中に孫なのだろうか、複数の子供たちが張り付いて介添えしている。
シータンがポンポンとわたしの背を叩き、
「ハナヲではなくノエミなら、よくご存じの方でしょう?」
「ノエミなら……?」
そーや。さっきもドサクサでそー呼ばれたっけ。
「ノエミ……?」
シータンに促されて、もう一度そのお婆さんを凝視して。
そんで……。
「……なーこ?」
モゴ……とお婆さんが口を動かした。遅れてしわがれた声が漏れだした。
「そ……じゃ。なー……こじゃ。……ノエミお姉ちゃん。相変わらず、げんきじゃのう」
わたし、返事を忘れて彼女に抱きついてた。
「……なーこも……げん……きじゃて」
なーこは前々世で知り合った、とてもちっちゃい女の子。
無邪気で明るい女の子。わたしの、数少なかったトモダチ。
「ノエミ……お姉……ちゃんは……変わらん……のう」
ゼーゼーと息を繋ぐ声が愛おしくて切ない。
「まーたホウ……キで……怪獣……退治……かの?」
まだ返事が出来ない。
「ホウ……キ、速いで……の」
なーこ、わたし嬉しくて。
ホント嬉しくて。
なのにごめん。
言葉が出ないよ。




