にじゅうよんっ。 「真摯に答える」
村の男の子が半泣きだ。
わたしらだけで話してたんで、置いてけぼりにされたって思ったのかな。
陽葵がその子に「ヒョイ」と、自分の持っていた槍を預けた。受け取った彼は、意外な重さにビックリしたようやった。身体をグラグラさせ落っことしそうになってた。
「わたしら魔族はな、もういい加減イジメられたくなかってんや。やから売られたケンカを買った。それこそ命がけやったから全力で戦った。そうして大勢の人間を殺してしまった。でもそれは魔族側も同じや。たくさんの命をお互いに奪い合った。いまさら反省してるとはカンタンには言わん。言い訳はせんし、過去の過ちはぜんぶ憶えとく。やけどこれからは、二度と後悔せんように生きていくつもりや」
男の子の耳に手を当てる陽葵。「聞き洩らさんかった?」と囁いた。12歳の女の子なのに、その横顔はとても大人びて見えた。
前世込みの後悔を背負っているような、そんな気がする横顔やった。
陽葵の話が難しかったのか、男の子はあんぐり口を開けていたが、とりあえず一生懸命うなづいた。陽葵が真剣に向き合ってくれた事を、彼なりに理解したからに違いない。
「僕もだよ。僕も人間に味方して、昔、大勢の魔族を殺したんだ。人間もしたことは同じなんだよ?」
「戦いたかったら、その武器を使って戦ったらいい。わたし、あんたにならやられてあげる。……けどオススメはしないよ? だってそんな事しても、ちっとも楽しくないし気分も良くならないもの」
「……じゃボク、やめる。戦いなんてイヤだ」
「……あ、そう」
槍を返してもらった陽葵は、ぎごちない笑顔をつくって男の子を見送った。彼は逃げるように走って行った。
男の子と入れ替わりにガタイの良いオッチャンらが3人、声高にわたしたちを罵りながら近づいて来た。お昼だってのにお酒を飲んだのか、結構出来上がっていた。
「村長が言ってたんだがオメーら、アステリアの守護神らしいじゃねーか? ウソこけ、ウソを」
「大魔女さまと勇者さまだって? イマドキ?」
「しょーこ出せ、しょーこ!」
もーうっざい。
かりにもこの建物の中にはいま、アステリアのご領主さまがおわすんやぞ?
無礼者ッ、手打ちにいたす……なーんてなってもわたし、責任取らないよ!
ほーら惟人が、ヒクヒク眉間を震わせてるし。陽葵が青筋立ててるし。コワイんやで、この人ら?
「しょーこ、しょーこ!」
やからアカンって。
周りの他の護衛衆も、流石にちょっと、穏やかならぬ面容をしだしてるよ?!
(わたしらは全員、民らと仲良くするよう命令されてたんやが……)
もーッ! しょーがないなあ!
「わっかりました。わたしが王宮を代表して、あなたたちにとっておきの特技をミセマショウ!」
「ほーッ、マジか! やんや、やんや!」
「なに見せてくれるんでい?」
「どーせしょーもない踊りとかだろう?」
わたし、何も無いところから例の魔法のホウキを「パッ」と発現させた。
その時点でもうマジックショーなんやけど、オッチャンたちの歓声に囲まれてわたし、「さぁお立合い!」とチョーシづいた。
……何をしようとしているか、もう分かるかな?
ホウキにまたがって、と。
「……あ。そーだ、失敬失敬」
「あー、なんでい?」
「ねー、おじさんたち。その頭に巻いてるハチマキ、ちょうだいよ? 3人ともね?」
ヒョイヒョイと軽妙に頭から剥ぎ取り、ホウキにぐるぐる巻き付ける。サドルっつーか、クッションの代わりね。……ちょっと汗臭くてヤなんだけど。
再度またがり、飛翔。
一気に揚がってやった。空を突き抜ける勢いだ!
つーかさ、制御不能やっただけやけど。
それでもだ。
「うっわあぁぁぁ!」
異口同音の雄叫びを上げるオッチャンたち。
初っ端の驚きの奇声が笑いに変わり、恐怖に変わった。
ホウキに乗った女がロケットのように大空に飛び出した……かと思うと、ヘニョヘニョと空中でよろめき……と、今度は急転直下、爆撃弾のように襲い掛かってきたからだ。
決してわざとやない! ゆーたでしょ、制御不能って。




