にじゅうにっ。 「帰りの出来事」
カモデナンディ公国を発ってからアステリア領への帰り道は短かった。なぜって行きしなのように寄り道はせんかったから。
旅行っておおかたそんなもんやんね。
例えば遠足帰りのバスの中。みんな決まってテンション低めでしょ?
寝てるか、無感動に窓の外を眺めてるか。死んでるーって思うほど。
実際ね、そのときアタマの中にせっかく忘れてた気掛かりや鬱な事柄がイヤ~なカンジに再来してんねんなぁ。
こないだやねんけど、GWに陽葵たちと珍しく映画観て帰宅したら、「固定資産税」の納付書が届いてた。わたし帰りの電車でテンション激低だったんだよね、そしたら案の定。
……だいたい楽しいお祭りの後は、そうゆー物悲しい予感を思い巡らせちゃうんやんねぇ? で、予感通りそれなりの手厳しい洗礼を受ける。
そんなの、わたしだけなんかなぁ。
手放しで「楽しかったぁ、また行きたいよねー」そんな会話で帰りもワイワイキャイキャイ盛り上がれてる方がいたら、その心得ってーか、その素晴らしい極意を教えて欲しいって懇願するよ。
――とゆーコトでカモデナンディ公国からの帰路は心躍る体験は皆無やったワケやけども、ちょっぴり騒動っぽい出来事があったのはあった。
アステリア領に入り、領府レイシャルの間近に到ったとき、隊列の先頭が急停止した。
露払いを担っていた彼らが何らかのトラブルに遭遇し、全体を制止させたのである。
「見て来ようか?」
乗車席から立ち上がったわたしを、シータンが止めた。
「構わないですよ。きっとよくあるコトが起こってるんですよ」
「よくあるコト?」
シータンの発言の意味するところが今一つ解けなかったので、他の同乗者にも疑問の目を向けてみた。南田センパイとマナは爆睡中。ルリさまは眠りこける使い魔のマカロンを気遣い自身も微睡みかけている。よーするに戦力外。
まともそうなのは巫リンだけやった。
「あらかじめ聞いてました。恐らくスピア姫を歓待するここら地域の領主一団でしょう」
「歓待という名のただの通行妨害です。大概は反スピア派を公言する連中で、人族なら魔族を、魔族なら人族を糾弾し、それを擁護するスピア姫に一言モノ申してやろうというヤカラです」
リンとシータンから事情を聞いたわたしはふたりの物知りように感心して、再び座席に沈み込んだ。
「スピア姫はそんな人らに、いちいち立ち止まって相手してるんか?」
「それが彼女の仕事の一部でもありますので」
搭乗口のトビラが開いた。
年若い護衛兵とベテラン風の近衛兵長が一礼した。
「暗闇姫陽葵さまが前衛にお越し願いたいとご指名です」
「陽葵が? わたしを?」
「はい。ハナヲさまにご協力頂きたいそうです」
短い言葉で説明されたところによると、この小休止時間を設けた相手は人族の名門子爵だそうで。シータンとリンがゆってた通り、「近頃の魔族台頭について苦言を述べたい」との陳情だそうで。
「なんでこんな道端で、なの?」
「いったん姫が王宮に入ってしまうと、さすがにそんな大それた行動は取りにくいですし、『道中の疲れを癒して頂くため』との口実も成り立ちます。それに姫は現在バカンス中。あくまで私人という解釈で本来の公の場での礼儀を半ばわざと無視してるんですよ」
普段あんなでも、いったんマジメモードになると流石にシータンは良く知ってる。
「姫のために協力してあげてください。頼みます」
「お願いされんでも大丈夫や。ちょっくら様子見してくるよ」




