じゅうはちっ。 「好きの対象」
寝床にもぐってフトン被って……などとウダウダしてたら、入口のドアが叩かれた。
怪訝に開けると、女子小学生魔女っ子監督官、巫リンだった。
「……アレ? わたしが訪問者第1号なんですか? ゼッタイ誰か連れ込んでるでしょ?!」
さも意外そうなカオで部屋を調べ始めたので、呆れて文句をゆう。
「なにゆってんの。浮気の現場に踏み込んだ正妻みたいな目ぇせんといて!」
「冗談です。そう言わないでくださいよ。わたし以外にもハナヲセンパイを心配してる人が大勢いるってハナシですよ。第1号だったんでホントは内心嬉しいんですって」
マセた物言いする小学生やね! とはゆっても彼女も元はれっきとした大人の男性やが。
オヤ?
なんでわざわざとなりに腰掛けんの? ……馴れ馴れしいなあ。
「スピア姫から頼まれただけでしょ、リン? アイツ様子がオカシイから監視してくれよって?」
「……どーしたんですか。いつも以上に他人様の思い遣りをナナメに見下ろしますね? わたしはただ、パーティで急にいなくなったセンパイが気になってただけなんですよ? なんかあったんですか? 遠慮せず言ってみんさい。スピア姫とケンカしたとか?」
ナルホド。
やや墓穴掘った感。余計な態度とっちゃった。
リンのまあるい瞳は、8分の好奇心と2分の優しさで満たされきっている。
観念したわたしは最上階、天球の間での出来事を話した。
天球の間ってネーミングは、三国一姫さんがそーゆってたのでそーゆってるだけ。この際どーでもいーコトだ。
「フーン。その何とかって言う魔女っ子の生まれ変わりだと認定されたわけですね? そりゃおめでとうございます」
「めでたいっての?」
「そりゃメデタイでしょう? わたしみたいなポッと出の成り上がり魔女じゃなく、由緒正しい魔女の家系だったって証明されたんですから。素直に喜ぶべきですよ?」
いつものわたしなら「何ゆってんだ」とリンをこづく場面。
でも今日のテンションは自分でも異例。大人しく聞く耳を持っていた。
「そんな発想、無かったな」
「前世がうだつの上がらないリーマン、その前が没落貴族出の魔女っ子、そしてさらにその前が黒姫さまの姉。なーんて華々しいんですか! ハナヲセンパイはゼータクなんですよ」
わたしの過去を整理してくれて有り難う。……ってゼータクって。
「リンはわたしの過去がオトコでなくったって、別にヘーキなん?」
「あのね……。サラリーマン時代のセンパイはそんなのがあってもなくても、別にパッとしない、ダメリーマンでしたよ? なんら変わりません。箔がつくって点ではちょっとはマシかもですが」
「はあ、何ソレ? むしろ魔女っ子やったと判明した方が良かったと?」
オデコに手を当て、「アチャー」と天を仰ぐリン。
「これだからグズな恋愛しかしたことのないダメダメさんは」
……とえらいゆいようで呆れられ。いちいちのオーバーリアクション、必要無いから。
「好きな人を好きだなって判別するのに、ありきたりなモノサシなんて不要なんですよ?」
それ分かりにくい!
もっとかみ砕いて説明して!
「それじゃあ、この上なくハズイですが定型句で言い直しましょう。――わたしの好きになった人が偶然オトコだった。そして過去はたまたま魔女っ子だった。ただそれだけ」
「……は?」
「過去じゃなくて、わたしの見ているのは今のセンパイ。何がどーあろうとセンパイそのものです」
「……」
「もー。要はですね、センパイへの愛は永久に不滅です」
マクラを持ち上げたリン、赤く染まったカオを隠した。
……照れるんならゆーな。つーか、照れんな。
「なんやのそれ。長嶋さんか。そんなんでわたしの心が奪えると思ったら大間違いやぞ」
マクラを奪い返す。ヨダレをつけんな、バカ。
「……アハ、センパイ、ナニ涙ぐんでんですか? わたしの告白にカンドーしたですか?」
ウルサイわい!
リンのクセに妙な納得のさせ方すんなってゆーの!
悩んでた自分がバカみたいに思えてくるよ。
「ほんっとしょーもない、芸の無いセリフだこと。わたし、逆に意外すぎて驚いちゃったよ」
「それは良ーござんしたデス」
「なんだよ、その小馬鹿にした……」
フトンに紛れ込んだリン。
「ちょ……。ちゃんと自分の部屋行って寝てよ?」
「今日わたし、だいぶ好感度上げたんですから、そろそろリンルート突入でしょう?」
「はぁ? なにソレ?」
「あ。ほっぺに涙の跡みっけ。汚ったなーい」
「え? ま、マジ?」
「カオ、洗ってきたらどーですか?」
恥ずかしくてリンのゆうことを真に受けるしかない。
誘導されるままに部屋を飛び出した。
クッソー。




