じゅうしちっ。(こーへんっ) 「わたし、まるでイタコ体験」
異世界屈指の美女ふたりから身に余る期待を寄せられた。
「ハナヲっちがアステリアの国母だったらわたしホントに嬉しい」
「押し付けですみません。でもそうであって欲しいと心から思います」
答えの無い問答を仕掛けられた気分。正しい返事はなんなのか。誰か教えて。
ホウキを握る手が汗ばんで仕方がない。
大きく深呼吸してホウキを見詰めた。
「……きっと」
「きっと?」
きっとわたしはその子なのだろうと答えた。
名も知れぬ女の子なのに?
その子はわたしの夢にたびたび出てた。
その子はわたしであって、わたしではなかった。自分であって他人であった。
夢の中で会話もしたと思う。ただ会話の内容はてんで覚えてない。
いつごろ見た夢かも定かではない。アステリアに跳ぶ以前からその夢を見ていたのかも知れないし、ひょっとしたら昨晩もそれを見たのかも知れん。
そんないい加減で頼りないな感覚なもんやから、それが果たして当てになるのか、それともまったくの思い込みか、もしくは自己暗示なのか、それさえも「こーだよ」って断言できない。
なのに。
感覚的にそーである……とは答えられた。
「その女の子、きっと……わたしです。でもわたし、違いますって答えたいです」
「――え? そ、それはどういう意味なんでしょうか?」
……それは。
心の奥にわだかまってる、大きな大きな不安があるから。
やから、わたしと違うって否定したいんや!
ナゼって、それは。
――男だった過去が完全になくなってしまいそうでイヤなんだ。
ゆっとくが、男って生き物に固執してるせいやないぞ?
もし過去が無くなったら……わたし、陽葵の親や無くなってしまいそうで。
父親やなくて、姉になってくれ。前に陽葵からそうゆわれたときにもそう思ったんだ。
陽葵はオトコやったわたしよりも、同性になったわたしの方がいいのかな? もともと父親なんて要らなかったのかな? それとも単に姉が欲しかったんかな?
――サラリーマン時代の自分を忘れちゃったら、巫リンに叱られるやろうか。
それとも見向きもされなくなるやろうか。キラワレルやろうか。
もしくは、イマドキ性差なんて取るに足らない悩みやって笑いとばすのかな。そんなのカンケーなく、ハナヲセンパイを慕ってるんですよ! そうゆってくれるのかな?
――シータンは? ルリさまは? 惟人は?
これまでわたしのコト、どう見てたのかな? ヘンなヤツやとキモがってたのかな?
元々の女の子に自覚し直すんやから、良しって考えるのかな?
「構わないんじゃないですか?」
ってあっさり言ってのけるんかな?
チェアから立ち上がったわたしは前方の見えない壁に歩み寄った。壁は完全に透明で床の先は空。壁なんて無いみたいなので、そのまま宙に足を踏み出すふうに錯覚した。
それは三国一姫さんとスピア姫も同様やった。
わたしが飛び降りすると思ったらしく、フラつくわたしをふたりして後ろから羽交い絞めした。
「……わたし。自分が赦せない!」
「ど、どうしてなのですか!」
自分でも理解できないほど、バカのように泣いていた。ワンワン声を上げていた。何かに憑りつかれるとゆってもいいほどやった。実際このときの記憶は今もっておぼろげにしか思い出せない。ふたりの姫の証言を総合させて、こうして語っているに過ぎない。
「だってわたし。レインツを裏切って転生しちゃった。あの世で彼が寂しがってるし」
口走っておきながら、「ダレ? その人」ってもう一人のわたしが問い掛けてた。これは相当キケンだぞと。
レインツとゆー男性、現世のわたしにはまったく縁も馴染みも無い、知らない名前。
口についた見知らぬ男の名前を連呼し、何度も何度も「ごめんなさい」と謝っていたそうだ。
よく分らんが、その男性はアステリアの偉大な父と呼ばれ、今でもアステリアの領民から慕われている人物だそうで。まるでイタコ体験をしたようなわたしに、さぞかし両姫君は怖い思いをしたろうね。
――それ以上は、わたしたちの会話は進展しなかった事をゆい添えておく。




