じゅうしちっ。(ぜんぺんっ) 「最上階のノゾキ部屋?」
「いまからがホントのパーティしよーな!」
そう宣言した三国一姫さんの後ろから、カートに載った食べ物が次々に運ばれてきた。
「晩さん会にお呼びできなくてごめんなさい。三国一姫さんと相談してあらためてここでわたしたちだけでパーティをしようと言う事になりまして」
スピア姫の説明にわたしたち魔女っ子とマナカナはビックリしつつ喜色の声をあげた。
三国一姫さんはじめ、スピア姫も率先して準備を行い、集まった広間はあっとゆー間にパーティ会場へと様変わりする。
やや遅れて登場した陽葵と惟人も、晩さん会用の正装からスタッフ用の衣装に着替えていて、食器並べを手伝い始めた。
「シンクハーフ、それに巫リン。いつもアステリアのために働いてくれてありがとう」
スピア姫から直接、乾杯用のグラスを受け取ったふたりは、感動しすぎたのか、口元を震わせて少し不格好な会釈をするにとどまった。
「……なんか心遣いが嬉しいね」
その様子を見ていたルリさまの呟きに、わたしは深くうなづいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっぱりここに居ましたか?」
遠く虫の声を聴きながらリクライニング式のチェアでくつろいでいると、スピア姫に話し掛けられた。
全面ガラス張り? なのか、全天開放した四方に果てなき空間が広がっている。
日が落ち、今は闇いっぱいの世界。
「見て、姫さま。空に星がいっぱいや」
「ですね。独り占めしたくなるのも分かります」
わたしはパーティ会場をこっそり抜け、塔の最上階に上がり込んでいた。エスカレーターがあったんで楽だった。
わたし独りきりだった。
スピア姫がそれを望んでいると思ったからだ。
「この部屋、三国一姫専用の部屋なんですよ? 部外者の立ち入りは禁止されてるんです」
「……けど、姫も入室しちゃってるやん」
「わたくしは……許可されておりますし」
口をとがらせて反論するところがやたら可愛い。
「わたしに見せたかったのはこの景色なん?」
「ええ。それとこれ」
スピア姫の後ろから三国一姫さんが現れ、その手に一本にホウキが握られていた。
「ハナヲ。これ見て思うところ、ある?」
「……このホウキ?」
折れたり朽ちたりした物を修繕し、大切に保管されている物なんだとゆう。
恐る恐る受け取り、手に馴染ませるように感触を確かめた。見た限りは何の変哲もない掃除用具。
「そのホウキ、アステリアの開祖、賢候、レディ・ブランシェの母、ナディーヌ・ド・アステリアが生前使っていた空飛ぶ魔法のホウキです」
「空飛ぶ、ホウキ……」
ゆわれて見ると、ちょうど両手がかかりそうなところにグリップの利きやすいヘコミがあってしっかり両手持ち出来る。後はオシリを乗せる部分にクッションを巻いていた紐の跡のような溝とか。
「どうですか? 何か感じる事とかありますか?」
「わたし……分かんない」
わたしの頼りない答えにスピア姫は明らかに落胆したようだった。
「この部屋はね、カモデナンディの始祖、魔女ラマンダが作ったと言い伝えられてる魔法の部屋やねん。世界中のあらゆる場所が見渡せる、言ってみればノゾキ部屋」
三国一姫さんが悪戯っ子みたいカオでわたしにくっついた。
「アステリアの母、ナディーヌもこの部屋をよく利用してたって伝説があんねん。……フフ、だからハナヲも懐かしくてこの場所で和んでたんじゃないのん?」
「そ、そーゆわれても」
「もしハナヲさんがナディーヌさまの生まれ変わりだったとしたら、ハナヲさんがなぜアステリアに現れたのか、シンクハーフやココロクルリと直ぐに仲良くなったのか、分かる気がします。それにわたくしもハナヲさんがそうであってくれたらこれほど嬉しくて有難い事か……。勝手な想いなのですが、ぜひ思い出して欲しかったのです」
ふたりの姫から迫られてわたしはチェアから転げ落ちるんじゃない? ってほど上体を仰け反らせた。




