じゅう。(ぜんぺん) 「異世界へ団体さまご案内~(1)」
「センパーイ、ヒドイじゃないですかぁ! 家を訪ねたらもぬけの殻だし、シンクハーフさんは休暇取ってるってゆーし。それに、わたしだけ置いてけぼりなんて!」
――と、見た目女子小学生の巫リン。
わたしと同じ、転生魔女っ子。
にしても相変わらず、やっかましー高音ボイスやね!
「この子、スッゲーんだよ。大学生どもをヘンな術使って次々に地面に転がしてさ……!」
「それって魔法かなんかですかっ?」
興奮気味の南田センパイに、グイグイ喰い付く水無月かな。
「わっかんねーよ、でもハナヲの知り合いだったとはな! ハナヲのトモダチは奇人変人の愉快な人らばっかだなあ!」
南田センパイがホメてるつもりなのはちゃんと伝わってる。けども肯定はしたくないっ。
リンがコソコソと耳打ち。
「……ところでハナヲセンパイ。あのふたり、分析したんですがごくフツーの人間ですよね? なんでこの場に居るんですか?」
「……あのね、それはわたしのセリフだよ。田中がどーしてここに居るのか?! の方が気になってるよ」
「えーん。センパイったらわたしのコト、田中呼びに戻ってるー。ちゃんといつも通り【大好きなリンちゃん】って言ってくださいー」
あーわかったわかった。
「――でさ田中。何しに来たん?」
「『何しに来たん』ですと? ――なんて冷たい言い方。さっきも久しぶりに会ったのに、シカトして行っちゃいましたよね?」
イライラしてきたっ。はやく質問に答えろってーの!
「あー、ごめんごめん。――で、何の用事でわざわざここまで追いかけて来たん?」
「はぐらかしですかぁ?」
キーッ、ウザさいつもの3割増しくらいある。
このまま放置してたら経験上、ますますこの子はチョーシに乗って暴走する。南田センパイとマナが居なけりゃ、キッツーイお灸を据えてやるところなんやが。
「まず用事をゆってクダサイ」
「アステリアのスピア殿下に頼まれたんですよぉ。センパイを迎えに行って欲しいって」
「……あなた、いったいダレの部下なんですか? 正冠さまのしもべだったでしょう?」
カップアイスのフタをペロペロしながらわたしらの会話に割り込むシータン。それやめなさい。
「基本はそーですが、わたしは困ってる人を助けるのが信条なんです」
「フーン。……で、幾らで助けると?」
「ヤダなぁ、正五位さま。……安価で」
報酬に眩み、なんでも安請け合いする、元サラリーマン、わたしの同僚、TS魔女っ子、巫リン。旧名、田中秀一クン。
【よんきっ】に出てないから悪いけど存在忘れてたよ。
「センパイいま、邪な思念発しましたね? もしかしてわたしがウザイってんですかっ?」
あーそーなんだよ。
わ、涙ぐむな! いちいちスルドイな、もー。
「ねぇ、気になってるんだけど。リンちゃんだっけ、ハナヲの親戚か何かなの? ずいぶん親しそうだからさ?」
「親戚……と言いますか、センパイはわたしの恋人ですね。将来は籍を入れてひとつ屋根の下で暮らすつもりなんです」
水無月まなと南田センパイが異常な喰い付き!
「なんですと?! 恋人?!」
「お、オマエ! 今なんつった?!」
「ナニって。だからわたし、ハナヲセンパイの――」
――と、そこまでゆってセリフを止めた。
確言を避けたのは恐らく、南田センパイの目におののいたためだ。
シータンのひそひそ声。
「ややこしいですね。痴情のもつれに発展する前に何とか関係を清算しなさいな」
「分かってるよォ……てか、なんやの?! 痴情のもつれって」
まったくメンドーなんやからっ!
こうなったらもう、強引に締めてやる!
「みんな。忘れてやしませんか? ただいま時刻は夜の10時。あと1時間で花火タイムが終了します! 早く浜辺に行きましょー!」
全員、時計を凝視し「わあっ」とあわてた。
……やれやれや。




