きゅう。 「かんなぎリンが襲来したっ」
半開きになったドアの陰から「チョイチョイ」とシータンを手招きする。
「あれ、ハナヲ? どうして手ぶらで帰還なんですか? 花火、買えなかったんですか?」
「花火? あー。白浜の海岸じゃ……」
水無月まながこっちを向きかけたので、こっそりとシータンを引き寄せて小声で打ち明ける。
「ごめん、浜辺の花火は禁止なんだって。タノシミにしてた?」
ウン。とシータン。
「夜の11時以降が禁止なのは知ってました……が、終日禁止だとは知りませんでした。ザンネンです」
「え、そーなん?」
なんだか話が違うぞ?
ひょっとして南田センパイのウソやったんか?
「そっか。それならまだ時間があるから後で一緒に買いに行こ」
「(コクリ)」
それより。と前置きし、スピア姫の呼び出しを受けたコトを相談した。
シータンは一瞬険しい表情をしたが、わたしの話を理解し、「困った事態になったわけじゃなさそうですね」と頬を緩めた。
「南田さんとマナさんに急用が出来たコトを告げて、謝らなきゃなりませんね」
「心苦しいよ。せめて今夜だけでもって思うんだけど。そもそもスピアさんが何でわたしを指名したんだろなって。スゴク気になってんだ」
「ウーン。わたしにも判りません。……成績のコト、気にしてんじゃないですか?」
「ま、まさか」
シータンはホント、ビビらせるのが上手い。
ルリさまが近づいて来た。クマさんがプリントされたパジャマがカワイイ。おねむなマカロンはおそろの頭巾を被ってて、それもいい。
しかしながらルリさま、ガリバリくん食べながらでちょっと行儀悪いぞ。
「あ、ハナヲ。ここに居たんだ? 南田センパイさんが居ないってマナさんが探してたけど一緒じゃなかったの?」
えーと。センパイなら先に別荘に戻ったと思ったけど。きっとオフロだよ?
執筆作業、何から作業始めたらいいのか、センパイの指示が無いと先に進めないそうで。
いっそもう今日は止めとけば?
「陽葵が鼻息荒くして指示待ちしてんの」
そうゆいながら、ルリさま自身はあんまし気合入ってませんね。
惟人が玄関に姿を見せた。
「あの子ならさっき一度帰って来た。花火買いに行くって言ってた。僕が迎えに行く」
「――あー……、そーゆーコト」
合点がいった。
ウソついた分、埋め合わせしようってんやな、きっと。
「いいや。わたしが迎えに行く。みんなは順番におフロにでも入っててよ」
さっきの誤解も解きたいし、用事が出来たの早く謝りたいし。
数十メートル歩いたところでルリさまが追いついて来た。
「シンクハーフから聞いたよ。スピア姫から呼び出しを受けたんだって? 適当な所で転移させたげるよ」
「あ、アリガト」
コンビニの駐車場に南田センパイがいた。
何やら若い男ら数人に囲まれてる。見知らぬヤツらだ。
もめてるのか?
「ヘンな空気だよ、ハナヲ?」
「……だね」
まだだいぶ距離があるので走り寄ろうとした――ところで思わぬ事態が起きた。
南田センパイがひとりの男の足を蹴り、立ち去りかけた。のを皮切りに、後の男たちが色めき立ち、彼女を羽交い絞めしてムリヤリ止めてあった大型バンに連れ込んだ!
「ねぇ、ハナヲ。アレって犯罪とかいうんじゃないの?」
「とかってゆーか、完全に犯罪やっ!」
運悪く、周りに目撃者らしい人は、わたしら以外いない。
急発進した車はウインカーも出さず、左右確認もせず車道に飛び出した。
唖然とするわたしらの横を猛スピードで通り抜け――。
「あ、危ないッ!」
バンの前に女の子が立っている。暗がりにヘッドライトを浴びたのは白いワンピ姿の小学生。
こんな時間にこんな場所に……とゆーより、何で車道に突っ立っているのか?!
ブレーキ音と共に急停止した車は止まり切れず側面の歩道に乗り上げた。
スライドしたドアから出てきた男らは半ギレ状態になりながら、女の子の服に手をかけて乱暴に引っ張った。
「コイツも連れて行こう。交通ルールを叩き込んでからオウチに帰してやろう」
「保護してあげるねーお嬢ちゃーん」
南田センパイが車外に飛び出す。
「テメエら。どこの大学だ? 中坊とJS誘拐してどーする気だ?」
「え、オマエ中坊じゃねーだろ? それにこの子はコーバンに届けてアゲルだけだし?」
「ほおお、だったら交番にはわたしが連れて行くぜ。汚ったない手でその子にベタベタ触んじゃねーよ」
ベチッ! と女の子の腰に回していた男の手を払い除けた。
「……ハナヲぉ、そろそろ助けに入らないとダメかな?」
「あー、まー。とりあえず、だいじょうぶじゃない?」
ルリさまもわたしも、傍観者の域から脱するのをためらった。
なぜなら――。
「あー、もー。ウザイですね、オトコども。こんなカワ・カッコイイお姉さんだからお持ち帰りしたくなるのは理解できますが、やり方がブサイクすぎます。だいたいお姉さんと両想いじゃない時点で犯罪行為確定でしょう? そんなの幼女のわたしでも分かりますよ」
そう言った女の子は「ガン」と男らの車を足蹴にした。
車の持ち主が血相を変える。
「このガキ、オレの大事な車を……!」
南田センパイ、小学女子が放った啖呵にあっけにとられつつ、嗤った。
「おもしれーな、オマエ」
「オマエ……は心外です。わたしの名前は巫リンです」
ワンピのポケットから名札を出してセンパイに示す。
あどーもと受け取り、ムツカシイ名前だな。とセンパイ。
アンタらナニやってんの。
「……ルリさま。帰ろう」
「そだね」
ところで。とリンがゆった。背中越しに聞こえた。
「ハナヲセンパイはどちらにおいでですか?」
ヤバッ。逃げろ逃げろ。
ろくでもないコトが起こりそう。




