はちっ。「南田センパイのカン違いなじぇらしー」
別荘の前で南田センパイが待っていた。
惟人、マナとは時間をズラして帰っている。だからわたしひとりだ。
「ハナヲ。ちょっとカオ貸せ」
イヤだとゆっても、自分にとっての不都合はまーったく耳には入らない人なので素直に従った。
肩を抱かれて、まるでアベックのように浜辺に連れて行かれた。
……あ、アベックってのはカップルの意ね。ついつい昭和語使っちった!
「あのよー。マナと何かあったのか?」
「い、いや……べ、別に」
「花火買い出しとか言ってたそうだが、そりゃウソだろ? ホントウは別の目的で抜け出したんだろ? そーだろ?」
やたらスルドイね、このおねーさん。
「なんでウソやと?」
「白良浜はな、花火禁止なんだよ」
「なっ!」
「……さぁ、言え。ホントのコトを」
「ど、どうヘンやったんですかっ。マナがっ?!」
眉間を寄せた南田センパイ。
「どうもへったくれもねーよ。ニヤニヤ・ボーっとしやがって、ベタ塗り間違いばっかなんだよ! オメーはオメーでネームちんたらしてるし、これじゃあ合宿してるイミねーよ!」
「はー。……えー。そのー……」
「ハッキリしねーな?! どーなんだ! ハナヲ! オマエ!」
「は、はいっ?!」
おでこにおでこを当てられた。わたし、浜の砂に埋まりそうなくらい、身を縮めた。
「ハナヲ! オメー、さてはマナに告られただろッ?!」
「はいっ!」
――?
アレ……?
思わず「はい」ってゆっちゃったけど、……質問違った?
「やっぱり。アイツも同じだったんだな」
「ち、ち、ち、ちょっと待ってクダサイ! ……いま、なんて質問したんすか?!」
「……ハナヲよ。わたしとマナは今日から恋敵になった。幾らトモダチでも、ことオマエに関してはわたしは一歩も譲らねぇ。だからあらためて宣言しとく。――わたしはオメーが好きだ。マナにはぜってい負けねえ」
カン違いに次ぐカン違いですっ!
「南田センパイ! さっきの言葉取り消します!」
「な、何だと?! わたしの一世一代の告白を無下に取り消したいだと?!」
ちがーう!
そのもういっこ前のわたしのセリフをだーっ!」
「はいの部分ですっ!」
「ちっきしょー! そういうトコははっきり言うのかよ。そんなにマナの方がいーのかよ!?」
「やから、カン違いのカン違いですってぇ! おでこくっつけないでーッ! 息かかってますー!」
「わたしがそんなにイヤなのかッ?!」
え?
急にカオゆがめた?!
「そんなにわたしがキライなのかッ?!」
「ちっ、ちがい……」
完全に押し倒されてるわたしにブワッと水滴が降りかかる。
鼻水まで垂れ流した、南田センパイの涙粒だ。
「あーっあーっ! わたしも南田センパイがダイスキなんですって! マナはあくまでトモダチなんですって!」
もう何が何だか大混乱の渦中、空気の読めない電話が鳴った。
ダレだ、もおっ?!
『いま……良かったかしら? スピアです』
なあっ?!
スピア姫?!




