11話 たぶらかし? 作戦失敗
「ぐぇ。がはぁっ!」
口の中の異物を必死に吐き出した。
死ぬほど苦いっ! てーか、うかうかと死んでらんないわ! ったく!
「やっと会えたよ! ハナヲちゃん!」
「アンタはコレット……。自称勇者の……! いったいわたしにナニを?!」
「生命の大樹。その葉っぱを煎じたお茶だよ。キミ、もう少しで死んじゃうところだったんだって!」
「……生命の……大樹……? 死ぬとこやったって……?」
足りないアタマをフル回転し導き出した答え。つまりはRPGなんかに登場する蘇生アイテムみたいなヤツデスカ?
「はっ。陽葵!」
娘が少し離れたところで倒れていた。オレが気を失ってる間にどうやら大波乱あったらしい。
「魔物どもはボクが根絶やしにするから安心してね」
さっきまでシータン、ルリさまと睨みあいをしていた魔物たちは、縮み上がって身を寄せ合っている。すっかり戦闘意欲をなくしちまってる。
ギラッ! と剣を抜いたコレットは、
「あそこでへたってる小っちゃな凶暴っ子。あれ、魔女魔王・黒姫だよね? よくもまぁ見事に転生したモンだよ。今までどこに潜んでいたんだろう?」
「剣なんて物騒なもの、早くしまって?」
「ああ。そりゃ物騒だよね。じゃさっさと黒姫退治するよ。待ってて」
「わっ。待ってって! アンタさ、コレット?」
「? どーしたの? ハナヲちゃん?」
「コレットくん! いや、コレットさんッ!」
「だからどーしたの?」
ゆえ、早くゆえッ!
なりふりなんて構ってらんねぇ。
とにかくコイツの気を削いで、これ以上の蛮行を止めさせるんだ。
「コレットさんはどうしてさっき、『やっと会えた』なんてゆってくれたんデスカッ!」
「え? どうしたの、ハナヲちゃん? 唐突に?」
「会えると思ってなかった場所で会えて、なんだかわたし、ドキッってしちゃいマシター!」
そしたら勇者が赤面しだした。
軽いだけのヤツだと思ってたが、案外純情少年であるな。
「だから話したでしょ? ボクはキミが、好きなんだって」
「ほえ? す、スキ……?」
は? いきなり告りやがったぞ!?
いまオレ、ひょっとして青春モードに突入してる? マジで? 真剣? ……ってなんでオレ、本当にドキドキしてんの? アホなの? ヘンタイなの?
「いやいやいやいや。コレット、気持ちはウレシイけど、わたしさ、所帯持ちやし、もう……」
「ああ。あのリボルトって男? アイツはヘンタイロリヤロウだよ。アイツもちゃんと成敗するよ。安心して」
「ちょっ、何その安心って!」
成敗されても安心とかにはなんないしっ。
――突然、勇者コレットがエビぞった。閃光が彼スレスレに走り抜けた。
彼の背後にあった森が燃え、赤く染まり上がる。
「……黒姫さぁ、ホンットにヤボだよ。待ってろよ、殺してやるからさ」
「ナメんといて。わたしは魔王魔女、黒姫……」
「それ、前回の決戦でも聞かされたよ。何度やってもボクが勝つんだから。オマエは永久にボクに負け続けるんだから」
「なっ。なによっ……」
「あのさ、オマエさ、ボクに勝つために何かしら努力したの? ま、努力してもダメなものはダメだし能力とか才能とか無けりゃ、幾ら励んでも報われないのが世の中の常だからね。それでも努力しなきゃ、対戦相手に失礼だよ? そーゆーコト、分かってる?」
「コノオ、くそおっっ!」
ヤケ気味に黒姫が拳を繰り出す。魔力を放つ。
そのすべてが空しくかわされ、あるいは打ち消された。
悲壮な抵抗を続ける陽葵に、ゆっくりとコレットが近づいた。
そのとき。
「オマエが地獄の底に落ちるんダヨ! このクサレ、ロリゲス!」
バズスが素っ頓狂にわめいて飛び掛かった。
「フン。雑魚め」
コレットの左脚がバズスの脇腹に食い込んだ。軽く10メートルほどぶっとんだ。ブルブル痙攣して起き上がれないバズスに対し、躊躇のない勇者の剣が振り下ろされた。
滑り込んだオレの剣がそれを受け、バズスを救う。
「いや! ちがうって、コレット! 違うんや、わたしが黒姫なんやって! アンタ、ずーっとカン違いしてんねんて!」
「……え?」
「オイッ、魔物らっ、ちょっとこの勇者さまにモノ申したって! な、間違ってるやろ? わたしが真の魔女、女魔王、黒姫さまやんな? そーやんな? な? な?」
ポカーンの勇者。
「わたしこそが真に黒姫ちゃんですわ! 勇者レーダーとやらも曇ったもんやね。……ほら、シータン。ルリさまも。バズスも! わたしをあがめなさいっ」
やや間をあけたが、シータン、ルリさま、そしてバズスまでもが一様にうなづいてくれた。
「ゴメンなぁ、コレット。わたしなぁ、アンタを誘惑してん。勇者篭絡作戦大成功。えへッ」
「……え? ナニ言ってるの? ハナヲちゃん」
「もう仲違いナシ。おとなしく剣をしまお?」
コレットの目付きが変わった。
「……いやいや。それとこれとは話が違う。魔物を根絶やしにし、人間たちを平和に導くのがボクの使命。それは揺るがないよ」
そう言うと、今度はオレに向かってあらためて剣を振り上げた。
「それはそれとして。なによりも許せないのは……。よくもボクの心を弄んでくれたよね、この魔女」
ええっ?
そう、来たかー……。ま、来るか。来るよねー。
ハナヲ絶体絶命




